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「もうこんな時間か‥」
左腕の時計に目を落として、短針の指し示す時間にこんな時間かと息を吐いた。
残業なんて珍しくて、久々に少し疲れを感じる。
だけど、何を話したわけじゃないのに泉さんと仕事をしている時間は、嫌ではなかった。
近寄りがたい雰囲気を感じているのにな、なんて考えながら不意に鞄の中に手を伸ばした。
「…あ、」
ガサゴソと漁っても目当てのスマートフォンはどこにもなくて、あってくれ!なんて私の願いは打ち砕かれる。
明日でもいいかな、なんて考えたけどスマートフォンで目覚ましをかけているのを思い出して、仕方なく来た道を戻ることにした。
「ついてないな‥」
誰もいなくなったら、入れなくなる。
急いで会社に戻ると、幸いまだ入ることができて、急いで4階のフロアに戻る。
私が帰る時、未だ数人の人が残っていたけど、帰ったみたいで誰も居なかった。
泉さんを除いて。
荷物もそのまま、パソコンも開いたまま、だけど泉さんの姿は見えなくて、ガサゴソと音がする給湯室を覗くと最近入ったコーヒーメーカーを難しい顔して見ていた。
「お疲れ様です」
その姿に思わず笑うと、私の姿をみた泉さんは困った顔して笑った。
「機械物には疎くてさ、コーヒーすら飲めない」
「私が入れましょうか?」
「すいません‥お願いします」
しょぼんと肩を落とした泉さんがとぼとぼとデスクに戻って、私はコーヒーを入れて泉さんの前に持っていく。
「ミルクと砂糖はどうします?」
「ミルクは1つ、砂糖は2つ頼む」
結構甘党なんですね、なんて言ったら泉さんは苦いのは飲めない、と顔をしかめた。
「長谷川さんは、なんかあったのか?」
私が帰ってきたことを不思議そうに尋ねるから、携帯を忘れたことを話す。
すると泉さんは俺もよくやるんだ、と笑いながらコーヒーを飲んだ。
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