私と彼

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「菜々さん聞きました?

新しく着任する課長、すごいできる人だって噂」






私が勤める部署のある4階は、朝からなにやらざわざわと騒がしかった。






一つ年下の多田くんが私のところまで飛んできて、興味津々といった顔で尋ねてくる。






「そうなの?」








「やっぱり菜々さんも知らないか」






そういえば、新しい課長が着任する日だってこの前から多田くんが騒いでいたことを思い出す。






人事異動があって他の部署から新しい課長が異動してくるらしく、フロアはその噂で蔓延していた。







「営業部から来るらしいんですけど‥」







多田くんによると、その人はとにかく仕事ができる人らしい。




それに整った顔立ちをしていて、誰から見てもかっこいいと呼ばれるかっこよさらしい。






「すごい人なんだね」







「かっこよくて仕事できるとか、俺に分けて欲しいくらいですよ」






まだ見てもないじゃん、なんて笑うと、それと同時にフロアの扉が開いた。






一気に静まり返ったフロアに、足音だけが響く。







その人はボードの前で足を止めると、咳払いをしてから、話し始めた。







「今日から企画部に着任します、泉です」








キリッとした眉、ぱっちりした二重、通った鼻筋、噂通り、整った顔立ちだと思った。






「慣れないこともありますが、よろしくお願いします」






だけど、



爽やかな印象に、丁寧な挨拶、誰から見ても好印象なのに、わたしはどうしてか少し近寄りがたい雰囲気を感じた。




挨拶を終えると、その人はさっそく前任の課長と引き継ぎをし始める。








忙しそうに動き回ってる泉さんを他所に、フロアはやっぱり、泉さんのはなしで持ちきりだった。

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