第二十三話 山や海に目が行きがちだが、森も結構危険
「いやぁ、久しぶりに森に来てみたけど、てかこっちの世界に来て以来、来てなかったけど、やっぱ僕って都会っ子だな。一昔前に森ガールとか流行ったけど、理解できないや、こういうあたり一面に広がる自然に、なんの魅力も感じないわ。いや、確か森ガールってファッションだったな。よく森林浴に来る女の子って意味じゃなかったな。確か森に居そうな女の子、だっけ、アマゾネスかよ」
そんなどうでもいい独り言をぶつぶつ言いながら、僕は木々の生い茂っている、中心に天まで届きそうな大樹がある、僕とあいつが初めて降り立った地である、そして今は、神様がいることが明らかになった森に、一歩踏み出した
僕が一人でここにいるということは、奴を説得してきた、というわけではない
普通に絶賛言い合い中だ
ただ、なんか長くなりそうだったから、手っ取り早く話し合いを切り上げてきただけだ
要するに、奴がまともに動けないことをいいことに、やんちゃ小僧よろしく、脱走してきただけだ。まぁ交渉が難航しそうなときは、テーブルをひっくり返すことが、日本人は嫌うが、一つの手だって話を聞いたことがあるし、良しとしておこう
「あの二人には、損な役を押し付けちゃったな」
自分の好きな人、その人の切羽詰まったような言葉を無視して、僕の闘争に協力してくれたのだから
好きな人の命令、お願いを、なんでも聞くのが好意の表れではないと思うが、だからと言って、好きな人の意に反することをするのは、それなりに辛いはず
少なくとも、ごっめーん失敗しちゃった、てへぺろ、なんて言いながら一人で帰るのは、まぁ認めてくれないだろう。多分屋敷の門を通らせてくれないな
「やれやれ、野宿はしたくないし、何度もビロードさんのお店にお邪魔するのは気が引ける、つまり僕に失敗は許されないってことか」
そう言えば、ここにきて失敗が許されない勝負、あいつの保護を受けていない勝負って言うのは、今回のことと最初のヒトクイに襲われたときだけだな
何だかんだ、父親だとは認めないやら、僕の家族は母さんだけやら、クソ中年がやら、悪態はついてきたものの、僕はずっとあいつの庇護下に、あいつに守られていたんだな
高校生は大人か子供か、という議論がある。僕はどちらかというと、大人なんじゃないかと思っていたが、全然そんなことないな
何の保険も保証もない勝負に出て、初めて分かったよ、僕はまだまだ全然子供だ。少なくとも、日本では味わえない感覚だろうな
「まっ、ここで怖気づいても仕方ない。先のことより今のことを考えよう」
あいつが、あの二人を言いくるめて、僕を迎えに来ないとも限らないしね
あの怪我でそれは無いだろう、とは屋敷を出た時に思ったが、よくよく考えてみれば、森から大量出血をしている状態のあいつを、屋敷に運んだのはあの二人だし、結託されれば追いつかないにしても、交渉中に邪魔される
僕は歩くスピードを少し上げた。もし僕の杞憂にしても、ちんたら歩くメリットはないしね
その行動が功を奏したのか、道中では特別に語るような出来事は起こらなかった。普通に自然溢れる森だ。個人的な感想だけど、森林浴は最初の一回で十分だな
「二人の話だと、この大樹がある近くだから、このへんかな」
僕は、うろ覚えのヒトクイとの激闘の記憶と、先のハズキちゃんの話を照らし合わせ、話に出てきた場所と思われる辺りに着いた
さて、これからどうしよう
なんか話だと、人間の類が入ってきたら、熱烈にお出迎えをしてくれそうなイメージだったんだけどな
辺りをぐるりと見渡し、何か手掛かりになりそうなものはないか探した
「だめだ、あのバカみたいにでかい大樹が目に入って、他の物が目につかない」
流石にそれは言い過ぎだが、言いすぎてしまうほどの存在感がある
とりあえず、あの木を検分してみるか。なんか根元が屋根みたいになっていて、子供が作りそうな秘密基地みたいになっているし、もしかしたら、何かがあるかもしれない
さらに草木をかき分け、茂みの中をどんどんと進んだ。いやぁ、都会っ子にはキツイっす
時折変な虫に悲鳴を上げながらも、何とかその大樹に触れられるほど近づいた
「にしても、でっかい木だな」
地面から少し顔を出しているこの大樹の根は、まるで埋まっている岩のようである。そしてその根の大きさは、見えている限りの予想ではあるが、おそらく僕の身長よりも、その直径は大きい
「昆虫とかがでかくなると、もはや化け物と大差がない、みたいな話は聞いたことがあるけど、案外植物も、ある一定の大きさを超えると、化け物と言っても差し支えないかもな」
いや、冷静に考えると、こんな規模の植物と、森丸々一つの養分を提供しているこの地面も、なかなかどうして化け物じみているな
「とりあえず、この大樹伝いに一周してみるかぁ。手掛かりがなければ、完全に無駄足だけど」
ため息を一つつき、ここまで来るのに疲れた足を、さらに進めた
そんな疲れた自慢、みたいなことを考えてはいるが、どこか僕には確信があった。多分、無駄足にはならない。僕の勘は結構当たるんだぜ
「ねぇねぇ、いい加減撤回してよ。私だって鬼じゃないんだよ、むしろそれの反対に位置する、神様なんだよ」
「グッ、ガッ…ゴホッゴホッ。はぁはぁ…何度でも…言うわよ。あなたは…間違っている…」
「私の?どこが?」
「ガハッ……、そういう、ところです」
そんな楽しそうな声が聞こえたのは、歩き始めて三分も経たないあたりだ
遠目から見えた、屋根のように、根が盛り上がっている場所、天然の木材小屋の中から、苦しんでいるヒアイの声、そして聴いたことの無い少女の声だ
僕はできるだけ気配を消し、中の様子を伺った。幸い、木で作られたとはいえ、加工していない、素材の力100%の木の空間だ、中をうかがえる隙間なんて山ほどある
「まっ、私のことをどう思おうと、下等な人間がなんて言おうと、正直どうでもいいんだよね」
「はぁはぁ…にしては…必死ですね。ホントは…結構揺らいでるくせ…ガァ」
木の根っこのようなもので拘束されているヒアイ、その隣に同じように拘束され、意識を失っているヒイロちゃん
そしてその正面には、ヒトクイには乗っていないが、優雅に足を組んでいる、一人の異様な少女がいる
あれがハズキちゃんの話で出てきた神様か
神様らしいお力で、この木の根を自由自在に操り、二人を締め上げているのだろうか。だけど、空間をどうこうする力って感じがしないな、もしかして人違いならぬ、神違いか
そして、意識を失っている、若干ロリ体系のヒイロちゃんはともかく、普通におっぱい大きいヒアイが、縄みたいに拘束されているの、なんかエロいな。縛り方、締め上げ方が、狙ったかのようにおっぱいが強調されている。ピュアな心を持つ少年だったら、完全にノックアウトしている絵面だ
このままもう少し見ていたい気もするが、このままにしていれば、殺されそうだな。早急に何か策を考えないと
聞こえてくるやり取りから推測するに、ヒアイが気に障るようなことを言って、気を悪くした神様が、二人を痛めつけているって形かな
どうしたものかな
今回のコレを、ゲームとして考えてみよう。まず、僕の敗北条件は、ヒアイかヒイロちゃんの死亡、および僕の死亡、極論生きてさえいれば、どんな重傷を負おうと問題ない。翻って、僕の勝利条件は、彼女たちの解放、その後の僕たちに危害を加えない約束を取り付けること
そんなに勝率の低いゲームではなさそうだな
取りあえず思いついたものとして、少年漫画の主人公みたいに「やめろ、これ以上の暴力は、僕が許さない」みたいな感じに割って入ってみるか?いやいや、僕も締め上げられて終わりだな
隠れながらうまく接近して、好きをついて二人の拘束を外し、一目散に逃げるってのはどうだろう?僕の力で、あの拘束を解けるとは思えない、普通にバレて普通に拘束されるな
さしあたっての問題は、どういう風に登場するかだな
登場一つで、話を聞いてくれる聞いてくれないは、簡単に決まってしまう
ふむ、どうしたものか
いっそ逆に登場してみるか。ヒアイとヒイロちゃんを助けに来た男、ではなく、神様のご機嫌取りに来た男って感じ
ただなぁ、これ賭けに近いんだよなぁ。失敗したら、この場にいる三人からの心象が一気に悪くなる
「ま、どうせどんな方法で行こうと、保険がない以上全部賭けなんだけどね」
ため息交じりにボソッと呟いた
どうやら、神様は耳もよろしいようで
「そこに誰かいるの」
と、僕の方を向いた。神様なのに地獄耳ってね
さてさて、いっちょやりますか
「こ、こんにちは。お楽しみのところ申し訳ありません」
ニコニコと笑顔を浮かべ、両手を上げ、何も持っていませんよアピールをしながら姿を現した
「リョ…」
「いやぁ、迷ってしまいましてね。こっちの方から、声が聞こえたので様子を見に来ました」
予想通り、僕の名前が呼ばれそうになったので、慌てて大声でヒアイの言葉にかぶせた。危ないなぁ、僕と知り合いだってバレたら、ご機嫌取りが難しくなるでしょうが
瞬きを何度かして、下手なことを喋らないように、と指示を出す
「ふーん、迷子なんだ。…あれ、そういえば君どっかで見たことある気がするな」
「気のせいかと、僕はあなたと会うのは初めてですよ?」
演技モードの時に、ガチの質問するのやめてほしいな。一瞬素になっちゃいそうだったよ
「それよりも、何をされているんですか」
「んー?今ね、私に無礼を働いたこの子たちにお仕置きをしているんだ」
お仕置きねぇ。いったいどんな無礼を働いたんだろうねぇ
「あなたはパッと見人間だけど、文句とか言わないでよ、あなたもお仕置きしなくちゃいけなくなるから」
「アハハ、まるでご自身は人間ではないような口ぶりですね」
「私人間じゃないよ、神様だよ」
「えっ?普通の可愛らしい女の子に見えますけど。まぁ、そういうお年頃なんですね」
最初のえっ、が少しわざとらしかったかな。反省反省
「あー信じてないな。じゃあ証拠を見せてあげるよ」
そう言うや否や、少女は指をヒョイっと上に向けた。それと連動するように
「キャア」
小さな悲鳴とともに、ヒアイを締め上げている木の根が、音を立てて上に伸びていった
三メートルくらい伸びた後、勢いよく戻ってきた
「私にとっては、これくらい当たり前。その気になれば、空間と空間を強制的に繋げることのできる、ワープホールだって操れるんだよ」
「は、はは…確かに神様ですね。少なくとも何の準備もしていない人間には、難しそうですよ」
「ふふーん。それで話は戻るんだけど、私はこれから人間二人を痛めつけるけど、文句とか言わないでよ」
堂々としてらっしゃる、流石神様
「文句は…まぁできる限り言いません。私も好き好んで面倒事に首を突っ込みたくはありませんからね。ですが、お仕置きをなさるのですよね」
「そうだよ、なんかよくわからないけど、私のことを否定するようなことを言ったからね、それを撤回させるんだ」
「それは、素晴らしいですね。神様が人間に舐められてはダメですからね。もしよければ、神を信じるものの一人として、お力添えをしても構いませんか」
「力添え?私に?」
僕の発言に、少女だけでなく、ヒアイさんまでもきょとんとした顔をしている
「はい。同じ人間同士、どうすれば相手の心に傷をつけることができるか、わかっているつもりです。もっと効率的に、あなたの望む展開にすることができると思います」
ちょっとこれは分の悪い賭けだな。ぽっと出の人間の発言を信じるほど、この神様だってお人好しではないだろう。逆に神様だからこそ、一介の人間の発言を信じ、任せることにより、己の器の大きさを示す、仮に何か企んでいるとしても、二人と同じよう締め上げちゃえばいい、そう考えてくれれば、まだまだ可能性はある。分は悪いが、勝率がない賭けではない
「ふーん。まぁいいや、調度締め上げるだけじゃ面白くないって思ってたところだい。見せてよ、人間が人間に行うお仕置きを」
よし。僕は心の中でガッツポーズを決めた
「ありがとうございます。では早速お願いなのですが」
「何?もしかして、その締めている木をほどけって言うの?逃げる気」
「いえいえ、逆です。会話ができるくらいには緩めてほしいですが、解けないようきつくしてください。お仕置き中に反撃されたくないですからね」
「りょーかい。まったく、これだから惰弱な人間は」
「お手数かけます」
傍目からはどう違うのかわからないが、木が少し動いて、少し縛り方が変わった。ふむ、ある程度は、僕の言うことを聞いてくれるってことだな
ならば、この立場をうまく使わないと
「先ほどのお仕置き、少し拝見させていただきましたが、この手の強い意思を持っている人間は、力をやみくもに振るっても屈しはしません」
「むぅー、そうなの?。じゃあどうするの」
「強い心を持った人間は、強い力、単純な暴力よりも、精神を責めるのが効果的なのです。例えば…」
そう言って、僕に何か考えがあることを察し、さっきからずっと黙っているヒアイに近づいた
「大丈夫。僕に合わせて」
額と額が当たりそうなほど近づき、耳元で囁いた
ヒアイは小さく「えっ」と零し、まるで救世主を見るような目で、僕の方を見たが、それは一瞬のことで
僕は素早く腕を伸ばし、ヒアイの胸を鷲掴みにした
執拗に、見ている人を変な気分にさせるように、だけど揉まれているヒアイにはあまり負担をかけないように
生まれて初めて揉んだ女の子のおっぱいは、柔らかかったが、頭の中でごちゃごちゃ考えていたためか、こう、湧き上がる興奮みたいなもの、要するにエロスはなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます