第六話 バカと天才は紙一重って、バカはバカだろ

ハズキちゃんとの会話を終え、とりあえず今日生活するうえで必要な情報を得た僕は、ベットに腰を掛けた

ふかふかなベットは、僕の体重に押されて少し沈む

座っただけで眠くなってしまうこのベット、普段の僕の部屋のベットよりいいな。なぜか負けた気分になった

と、そこでトントンと扉をたたく音がした

ハズキちゃんがまだ何か、僕に用事でもあったのかな。そう考えながら、どうぞ、と声を出す前に

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ―ン」

やたら元気な声で、ホシロさんが入室してきた

「…その掛け声」

「えへへ、せっかく異世界の人がいるんだから、異世界の挨拶をしてみたんだぁ。どうだった」

どうもこうも、あいつは普段どんなことを教えているのだろうか

「あの、言いにくいのですけど、それ挨拶じゃないですよ」

「えぇ、そうなの。よくカズヒトさんが部屋に入ってくるときに使うから、てっきり挨拶の類なのかと」

あいつは普段何をやってるのだろうか。しかも古いし

「えっと、ホシロさんですよね、最年長の」

「もぉリョウガ君まで最年長だなんて言わないでよぉ、私はまだぴちぴちだよぉ。ほら触ってもいいよ、このお肌の艶」

「あ、いえ、結構です」

服をまくって突き出してきた、綺麗な両腕を適当にあしらい、僕はベットから立ち上がった

ホシロさんはあしらわれたことが不服なのか、頬をぷくっと膨らましている。可愛い

「それで、どのような要件ですか」

机に収まっている椅子を出し、座るように勧めた

しかし、僕の質問も気遣いも無視して、ホシロさんはベットに勢いよくダイブした。勢いがあったせいか、別の要因かはわからないが、ベットからミシッという音がした

なーなななーなー、と鼻歌交じりに、ベットの足元に綺麗にたたんである毛布を自分にかけ、頭まで隠した後、ひょこっと顔を出した

何がしたいのか全くわからない

「夜這い」

「まだ昼すぎたくらいですけど」

太陽は、まだ燦々と輝いている

「むぅ冷静ですね」

そう言ってゴロゴロと、ベットの上を転がっている。そこそこ大きいサイズのベットなため、一回と半回転くらいはできてしまう。できるからってやらないでほしいけど

「あぁ、なんかここで寝ちゃいそぉ」

「ホントに何しに来たんですか」

自由だなこの人

たしかあいつの話が本当なら、魔法を使える数少ない天才、みたいな話だったんだけど

馬鹿と天才は紙一重ってことか

「研究室を出る前に言ったよぉ、ゆっくりお話しようって。お話しよぉ」

ああ、あれか。社交辞令の類かと思っていた

「えっと、じゃあお話しましょうか」

「しましょうしましょう」

転がるのをやめ、仰向けになっているホシロさんは、顔だけ僕の方を向いた

「まずは何か聞きたいことあるかなぁ。ホシロお姉ちゃんが何でも教えてあげるよぉ」

「何でもですか」

「うん、何でも。あ、でもエッチなことは駄目だよ、いくらお姉ちゃんでもパンツの色や、おっぱいの大きさは教えられないよぉ。エッチだなリョウガ君は」

「そんなこと聞くために復唱したわけじゃないですからね、勝手に変なレッテル貼るのやめてもらえます」

あとお姉ちゃんならせめて、下着や胸と言えよ

異世界に来たり、七年前にいなくなったあいつと再会したりと、今日はいろいろあったが、それを差し引いても、なんだか疲れてきた

もう帰ってもらいたい、が本音だが、ここで生活させてもらうという身分、あまり強く出るわけにも行くまい。適当にそれっぽい質問して、帰ってもらおう

「あー、えっと、ホシロさんって魔法が使えるんですよね。どんな魔法が使えるんですか」

「フフフ、そんなに私の魔法が気になっちゃいまうかぁ。ならば教えてしんぜよう、私の大魔法」

ガバッと起き上がり、額に指を当て、よくわからないポーズをとる

「私の自慢の大魔法、それは伝心の魔法です。人の考えていることが、口に出さなくてもわかったり、逆に私の思っていることを、別の誰かに伝えることができる魔法なんです」

伝心…つまりはテレパシーということか

なるほど、心を通じ合わせる魔法なら、それを応用すればこの翻訳玉を作ることができるのか

「じゃあ僕が今思っていることが筒抜けだったり、心の中で会話をするってことができちゃうんですか」

もしそうなら、ホシロさんの前では態度を改めなければならないが

「その通り…だったら便利なんだけどねぇ。そこまで使い勝手はよくないんだよぉ。魔法を使う準備をしてぇ、えいやーって力を込めて、ビビビって感じないと使えないんだぁ」

「なるほど」

何言っているのか、さっぱりわからない

察するに、その魔法を使うのは容易ではないということか

ポケットから翻訳玉を取り出して、ホシロさんに見せるように掲げた

「じゃあこれを作るのは結構大変だったですね。すいません、さっきは叩きつけるようなことをしてしまって」

「本当だよぉ、びっくりしたんだから。この人正気なのかなって思っちゃったよ、それ一個でたくさんの金貨を払う人だっているのに」

僕は思わず眉を顰める

たかだか、翻訳機、しかも使えるのは日本語とここの異世界語。正直僕以外の希少な例以外、使う人はいないでしょ

なのに何でそんなに…あ、いや、違うのか

伝心ということは、別にこの玉に日本語と異世界語が設定されているわけではないのか。思っていることを伝えあう、を応用しているのだから、言語の設定は易々といじれる、ならば翻訳機としては十分に役割を果たすだろう

それに、仮にこの国の異世界語と日本語にしか対応してなくとも、ハズキちゃん曰く、研究している方々は、交流や貿易を視野に入れているらしい。ならば円滑なコミュニケーションには必須だろう

そりゃ大金はたくな

「…抜かりないところは健在なようで」

ニコニコ笑っているあいつの顔が脳裏に浮かぶ

小さく舌打ちをし、苦虫をかむような顔をする。おっと、さっきもハズキちゃんに気を遣われたばっかだからな、流石に気をつけないと

「ホシロさんはすごい魔法使いなんですね」

「そうだよぉ尊敬してして」

自分を持ち上げる発言も、さっきまではただの馬鹿っぽいものだと思っていたが、実は自分の力を理解した発言だったのかもしれない

「はい、尊敬します。やっぱり天才とバカは紙一重って本当なんですね」

「いやぁそれほどでもあるけどぉ……あれ、それって褒めてるのぉ」

「あ、そうだ、もう一つ質問があるのですけどいいですか」

「別にいいけど、ねぇさっきのやつ、多分褒めてないよね」

僕は構わず話を進める

「ホシロさんとあいつって、どんな関係なんですか」

さっきハズキちゃんにした質問を、ホシロさんにもぶつけた

「あいつって、カズヒトさんのことかなぁ。カズヒトさんはねぇ、私の家族でぇお父さんでぇお兄ちゃんでぇ憧れの人でぇ恩人でぇ先生でぇ初恋の人でぇヒーローでぇ側にいたい人でぇいると安心する人。とぉっても大切で、大好きな人かな」

目をキラキラさせながら指を折る姿は、魔法を紹介するとき以上に、饒舌で楽しそうで自慢げであった。勝手な偏見だが、年を重ねれば重ねるほど、変にドロドロとした恋愛をしているイメージだが、ホシロさんのあいつへの印象は、ハズキちゃんのものに比べ綺麗だな

「別に笑ってもいぃよぉ。親子くらい年の離れた男の人に、本気で焦がれているのは、そっちの世界でもあまりないよね」

「別に笑いませんよ。僕はあいつのことをまだ許せませんけど、一人の異性をそこまで思える気持ちは、尊いものだと思います。それにあいつは、あいつのことを嫌うやつにはとことん嫌われるけど、好きな奴にはとことん好かれますから」

「あぁ、だからライバルがいっぱいいるのかぁ。今日も一人増えたし」

「僕のことじゃないですよね、その増えたライバルって」

「負けないよぉ」

「本気で寒気がするので勘弁してください」

どこの層に需要があるんだ

しかしまぁ、好かれているな。国によって、好かれる異性の特徴は変わるが、この世界はあいつみたいなのが好かれるのか、それとも昔からなのか。ハズキちゃんじゃないが、ここまでモテていると若い時にはどんな青春を送っていたのか気になってきたな

ついでに、彼女いない歴=年齢の僕にも、遺伝子的にモテる可能性が残されていると思うと、少しうれしくも思う

「将来的にモテるってことか」

「彼女いない歴が何十年になるのかなぁ」

「なんで僕が今まで彼女がいない前提なんですか」

「違うのぉ。なんかそんな風に見えたんだけどなぁ」

違わないけど。そんな傍から見てわかるものなのかな、どんな風に見えたんだろ

意味はないが、自分の頬を何度かぷにぷにと触り、変な顔をしていないか確認した。うん、芸能界も真っ青なイケメンやな

僕のやっていることに興味を示したのか、ホシロさんも自分の頬を引っ張り出した

「えへへ、よく伸びるでしょ」

まるでマシュマロのような肌だな、僕のガサガサで若干脂ぎっている頬とは、月と鼈だ。ちょっと触りたい

てか、やっぱりホシロさんも美人だよなぁ。さっきまで、アホな行動だったり、魔法の話だったり、あいつについてだったりで、そう考えている暇はなかったけど、改めてみると、普通にアイドルとかで通用しそうな顔とスタイルだ。それこそ、芸能界云々の冗談が、冗談に聞こえなさそうなほどだ

「ん、ほぉかひたぁ」

「頬を引っ張ったまま喋らないで下さい、何言っているのか聞きにくいので」

ハッとして、頬から手を放した。抓んでいた部分が、ほんのりと赤くなっている。美少女の綺麗な頬が、ほんのり赤く染まる、成り行きはどうあれ、中々乙なものじゃないか

「私の顔をじっと見てどうしたのぉ、もしかしてこの短い会話の中で、私の魅力に気が付いちゃったかなぁ」

「まぁそんなところです。それにしても、柔らかそうでよく伸びる頬ですよね、見ててぷにぷにしているってわかりますよ」

「んなっ、それは暗に私が太っているってことかなぁ」

「いえ別にそこまでは…」

言ってないと続けようとしたが、もう聞いちゃいない。自分の二の腕や頬を何度も不安げな顔をして揉んでいる

女の子が自分の体を揉む、中々グッとくるものがあると思います。思考が中学生レベルにまで落ちてしまっているが、気にしない方向で

変態的なことを考えている僕をよそに、ホシロさんは遂に服をまくって、おなかのあたりを揉みだした

流石に何か一声かけようとも思ったが、ラノベや漫画のお約束、ラッキースケベというやつだと思って、ありがたく享受しよう。端的に言うと、美少女の隠れている肌が見たいです

難しい顔をしておなかを揉んでいるホシロさんは、僕の姿が見えていないのかもしれないな。何かしらの研究や開発で、大きな功績を残すような人は、一つのことに集中して周りが見えなくなる、なんて逸話は枚挙いとまがない。あ、今横腹に黒子があった。ホシロさんも、一応天才の部類に入るらしいし、その類の人間なのかな

「ふぅ、一昨日甘いものを食べすぎた気がしてたけど、一応まだ大丈夫だなぁ」

「よかったですね」

「うん、太っちゃってカズヒトさんに嫌われたらどうしようかと思ったよぉ」

「まぁそんなことで嫌うような奴でもないと思いますよ」

「私もそう思うけどぉ、好きな人には綺麗な自分を見せたいじゃないですか。気に入ってもらいたいし、誇りに思ってもらいたいじゃないですかぁ。うちの家族はこんなにも綺麗で賢いんだぞって」

誇りに思ってもらうか

短い人生だが、何かを誇りに思うことはあっても、自分が誰かの誇りになりたいなんて、考えたことなかった

そう思わせるだけの何かが、あいつにはあるんだろうな

僕もここで生活していたら、七年の溝が埋まって、あいつに協力しようなんて思ってしまうのであろうか。それは、怖いな

あいつがいなくなって生まれた、僕と母さんの辛さを、僕が胸のうちに抱いている憎しみを、まるで下らないもののように、なぁなぁで無くなってしまうと思うと、堪らなく怖い

「どうしたのぉ、そんな暗い顔して」

「あ、いえ、気にしないで下さい。それにしても、あいつは羨ましいですね。こんなにも誰かに思われていて。僕も将来ああなると思うと、ワクワクしますよ」

適当な言葉を並べて、適当に笑った

「うーん、リョウガ君はカズヒトさんみたいにならないと思うなぁ。だって、カズヒトさんみたいな人は世界にただ一人だもん」

みんな違ってみんないいってやつか、もう聞き飽きたな

「少なくとも、私はカズヒトさんのこと大好きだけど、リョウガ君のことはそうでもないもん」

「…ホシロさんって天然って言われません」

もしくは無神経

「天才とは言われたことあるなぁ。どんなにカズヒトさんと似た功績を収めたって、どんなに遺伝子的に似ていたって、私が好いていない、人を差別化するには十分な要因だよぉ」

自分の内側に他人との差を求めるのではなく、外側で他人との差をつける、か

なんかホシロさんは、マイペースのように見えて、他人の目を気にするタイプなのかな。なんか少し好感が持てた

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