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つまり眼球に当たった筈なのに、まるで鋼鉄にでも当たったかのようにひしゃげてしまったのだ。


そいつは何事も無かったかの、ようにそのまま真っ直ぐ歩いて来る。


巡査の恐怖はピークに達した。


その時である。


「逃げなさい」


若い女の声だった。


振り返るとそこには奇妙な格好の女が立っていた。


一言で言えば、着物を着た女性である。


しかし紫をベースとしたその着物には下袖がなく、身丈が短くて健康的な太ももがほとんどあらわになっていた。


帯ではなく帯締めのようなもので締めており、それが結構長い。


そして一応和式の服に反発するかのように、頭は古代ギリシャで使用されたコリント式兜に似たものを被っていた。


コリント式兜は後頭部が丸く、その上にモヒカンのような飾りがつき、眉間から鼻当てが伸びている兜である。


手には中世ヨーロッパで使われたガントレットと呼ばれる手甲に似たものが装着されており、膝から下は同じく中世ヨーロッパで使用されていたゴシック式の装甲で覆われていた。


巡査は西洋の武器防具のマニアだったため、それらが全てわかった。


そしてその女が手にしているものは、刃渡りが長めではあるが、どう見ても日本刀だった。


異様な出で立ちに目を奪われていた巡査は、ようやく女の顔を見た。


黒髪で、驚異的と言っても決しておおげさではないほどの美人だった。

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