2

ゆっくりと巡査に近づいて来る。


巡査はこれまでの人生で一度も感じたことのない恐怖を覚えた。


巡査は銃を構えた。


いつ構えたのか自分でもわからなかった。


そいつは銃を向けられているにもかかわらず、まるで歩みを止めなかった。


「止まらんと撃つぞ!」


言っていることは警告だが、声が裏返って、悲鳴のような響きとなっていた。


それでも声は届いたはずだが、そいつが止まる気配はまるでなかった。


バン


巡査は銃を撃った。


凶悪事件の少ない日本のこと。


巡査の二十年近くになる警察官としての経験の中でも、訓練以外で銃を撃ったのは初めてのことだった。


しかし放たれた弾丸は、巡査が全く想像していなかった運命をたどった。


巡査の動体視力は極めてよかった。


高校、大学と野球選手としてならし、どんな速い球でもとらえることが出来た。


速球を打ち返す能力なら、プロにでも負けないくらいだ。


変化球打ちがそれに比べて劣るためにプロ入りは叶わなかったが、直進するものを見定める能力は、今でも優れてる。


その巡査の目が見たものは、そいつの顔に向かって飛んでいった弾丸が、そいつの右眼球に当たり、そして下に落ちたことだ。


落ちた弾丸は潰れていた。

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