遠き声の記憶へ

第7話

 まぁ、古い話だよ。

 俺がまだ、旅を続けていたころの話だ。

 他愛ない旅だった。

 いろんなものに出会い、いろんなものを失い、その末に俺は、『アルス・アインの賢者』と呼ばれた。

 世界を救った。

 人々の命を救った。

 多くの人たちに救済を見せた。

 でもな。

 別に、そんなものが欲しかったわけじゃない。 

 世界なんて、好きなように滅びればいい、そう思いながら日々旅を続けていたものだ。

 でもな―――――


「アニキぃ、行こうッ。僕がアニキの翼になるッ」


 ―――――あいつは、この空が、とても好きだった。

 だから、俺はこいつが見つめる世界を、守ってやりたいと思った。どれだけ泥にまみれていようと、どれだけ腐っていようと、この世界に広がる空を信じていたかった。

 ああ。そうだな。

 どれだけ贖罪を重ねようと、どれだけ頭を垂れようと、お前が戻ってくるわけじゃないのに。

 お前が、笑ってくれるわけじゃないのに。

 それでも、俺は今日も空を見上げる。

 いつか、お前の魂が、空から戻ってくることを強く信じて。

 

 ――――――言葉を語ろう。

  

 これはまだ、アンティオキアの世界で、アルドシア帝国と呼ばれる大国が、世界の大半を支配していた時代の話だ。

 今から、千年も前の話。

 俺は、その時代に死んだ。

 そして、その時代で―――――再び生まれた。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る