第2話
雪解けることなき、白い地平。
しかして、空に雪が降ることはなく、澄んだ水面に等しく雲の欠片一つない青空の下、そこには広大な白銀の森が広がっていた。
ここは声無き森。
解けることのない雪は、足音を攫い、ただ、風が枝葉をなでる音だけが聞こえる、静寂の森林地帯。
ある者からは、神の眠る神聖なる地として、畏怖すべき景色として、訪れようとせず、またある者からは大地を滅ぼせし魔獣の棲む不浄が眠る地として、恐怖すべき地として、訪れようとはしない、人の手の入らぬ場所である。
獣は寄り付かず、命と呼べるものは、無数にそびえる大樹と、深い雪に埋もれた若木のみ。
ここは伝承の地。
そこは、人の関わりを避ける場所であった。
誰も、立ち入ることすら赦されぬ――――――
刹那、枝葉の僅かに折れる音。
「……」
すぐに雪の深さに消えゆく微かな音色。
雪の重さに枝が折れたのか―――――それでも、その尖った耳は、突き出た鼻腔は確かに『人』の気配を感じ取って、ヒクリと微動をし、その銀の体毛を震わせていたのだ。
その男は、ニィと牙を覗かせ口の端を歪めた。
その双眸は獲物を見る猟犬の目だった。
その爪は木々の枝を蹴った。
舞い上がる雪を払い、長い尻尾を風になびかせ、飛び出し、消えゆく音のほうへと飛び上がった。
そして、地面に両手足をつけば、水柱のごとく舞い上がる粉雪。
その様に後ずさる足音が聞こえる。
「――――あ……」
掻き消えるか細い声。
払う雪の先に、その男が見えたのは、紅い外套を着込んだ年端もいかない少女だった。
立ち上がりつつ、銀の槍を肩に携え、男はニヤリと嗤う。
「やぁ」
全身を覆う銀の体毛。
少女の2倍は優に超える体格を持ち、その尻尾を風になびかせていた。
尖った耳。突き出た口腔。
精悍な獣のごとき輪郭をその顔に浮かべ、そこには白銀を纏う狼の獣人が、呆ける赤い外套の少女の前に立っていた。
その目は紅く鋭く、少女を見ていた。
「猟師は連れてこなかったのかな、赤ずきんのお嬢ちゃん」
狼の獣人はほくそ笑んでそう尋ねた。
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