アルス・アインの賢者と古き獣の詩
@hand-to-hand
第1話
アルス・アイン
アンティオキアに住む魔術師の端くれならば、一度は耳にしたこともあるだろうか。
それは、世界の開闢を行うための、トリガーコマンドそのものである。
世界のありとあらゆる≪あり方≫が描かれたという、それは世界そのものの設計図であり、その原典であると言われている。
3つあるとされる原初に生まれた魔術書、究極の書物であるとされるものであり、ほぼ神話か御伽噺にしか出てこないようものである。実物など言わんことか、噂話ですらその名が語られることはない。
ソレが語られるのは、古き獣を封印したとされる、アンティオキアの賢者の伝承の中のみとされる。
地の底より生まれた、大いなる神獣を封印するため、銀の賢者はその魔術書から千の数からなる神の剣を生み出し、その獣の体に突き刺し、己の魂を生贄にし、そして神獣の魂を鎮めたという。
獣は山となり、剣は木々となり、流れ出る血は川となり、アンティオキアを潤しその血肉を以て、神獣はアンティオキアの世界を、偉大なる繁栄へと導いたと言われている。
全くの御伽噺である。
ソレが事実であるなど、誰も信用するはずがなかった。
―――――嗚呼、それでも、アルス・アインは存在する。
彼の地。
獣が封印されたとされる≪声無き森≫にて、賢者は生き続け、獣の眠りを守り、魔術書を封印し続けている。
彼の地にて、白き森にて、彼の者は自らをこう名乗るという。
「よう、若き詩人よ。活きのいい伝承話はあるか?」
―――――デイズ・オークス。
彼の者はそう名乗り、その牙を覗かせ、私に微笑みかける。
長く地面をなでるしっぽ。
尖った耳に、突き出た鼻腔。
全身を覆う体毛は、雪の中にあって、まるで鋼のように光沢を帯びた銀色であり、その手には鋭い爪が伸びていた。
鋭く細める双眸。
口の端に舌を覗かせ、岩の上に佇む、そこには狼の獣人が空を見上げていた。
それは、古き賢者の成れの果てであった。
最後に語ろう。
これは原初に生まれた伝承、その続きである。
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