第37話 受付

 俺達三人は、今回の目的である闘技大会の受付へと向かう。

 そう、三人だ。俺、カイル、そしてストレ。

 異物混入、呪われた装備、様々な言い方で表現できるだろうが、俺にとってはそういう存在。

 三人一緒なのには、理由が二つある。


 一つは、カイルが意外にもストレに興味を示していた。

 別れて行動しようにも、この女はあの手この手でついてこようとするだろう。

 それなら、カイルに相手をしてもらえばいい。そう考えた。


 もう一つは、ストレがすでに俺の宿を確保してくれていた。

 街に着いた時は、人の多さに宿は取れるのかと疑問だったのだが、それが解決してしまったのだ。

 何より宿代も、こいつが払ってくれるらしい。

 何だよ、お前もやればできるじゃないか。

 俺は嫌だったのだが、こうなってしまっては仕方ない。本当に嫌だったのだがそれなら有難く、ということだ。

 決して金に屈したわけではない。


「そっかー。ストレちゃんて言うのか。俺はカイル、よろしくな」

「うんうん。エンジ君の初恋相手、ストレちゃんだよ。よろしくね! 二人はどこで知り合ったの?」

「俺の初恋もストレちゃんだよ。さっき君を見た瞬間にね。実は、知り合ったのは最近でさ」


 よしよし、さっそく作戦が効いているようだ。二人の会話は弾んでいる。

 ストレのでたらめな妄想にもついていけるなんて、俺はカイルと知り合えただけでも、今回の依頼を受けた価値はあったな。

 そうこうしていると、闘技大会の受付場所に辿り着いていた。


「すみません。闘技大会の参加希望なのですが」


 大会まであまり日がないためか、受付は閑散としていた。

 受付に座っていた二人のうち、片方に話しかける。


「……ちっ」


 ん? 今、舌打ちしなかった? そっちのお姉さん。

 話しかけた受付嬢とは別の、もう一人の受付嬢の方に顔を向けるが、前を向き澄ました顔をしていた。


「あ、俺も俺もー! 可愛い受付さん」

「ああ、はい。可愛いだなんて、ありがとうございます」

「……クソが」


 ん? 小声だったので、俺しか聞こえていなかったようだ。

 いや、もう一人いた。今はカイルの質問に答えてはいるが、話しかけた受付嬢が汗をかいていた。

 よく見ると、ちらちらと隣を伺っているのが分かる。

 何だ? もしかしてあれか。二人で座っているのに、この娘の方ばかり人が並ぶとかそういう……。

 別に俺達は、何も考えず話しかけただけなのだが。


「カイル、俺達の他に並んでる奴もいないし、俺は向こうで受付してくる」


 機嫌の悪い受付嬢が、慌てて準備をするのを目の端で捉える。

 近付いて行くと、笑顔になっていくのが分かった。

 ふう。俺はフォローのできる男。幸せは、こんな些細なことから始まるのだ。


「あ、忘れてた。エンジ君は必要ないよ。私が、登録しておいたから! はい、これ。エンジ君のバッジ」

「何? エンジお前! ずるいぞ!」


 ストレがそう言い、バッジとやらを渡してくる。そこには、8という番号が書かれていた。

 こいつ、いつから来ているんだ? えらく若い番号だな。

 そう思っていると、ストレが説明してくれた。


「エンジ君は私の推薦枠だから、予選に出なくていいからね~。あとあと! そのバッジはなくさないでね。それは本戦出場者の証だから!」


 闘技大会は三十二名のトーナメント方式で行われるらしい。

 前日に予選を行い、そこで本戦出場者を決めるのだが、大会には推薦枠というものがある。

 本戦の人数の半分。バッジの番号が16までの奴が、その推薦枠に当たる。

 つまり予選からは、十六人しか上がれないということ。

 通常は、国や有力貴族などでも一人出せるかどうかということらしいのだが、こいつは一体どこの何様なのか。

 受付嬢の二人も、俺の番号を見て少し驚いていた。


「まあ、貰えるものは貰っておく。サンキュ」

「んふふ~! 褒めて、褒めて! 見直した? 好きになった?」


 好きにはならない。それに見直したと言うよりは、お前の謎が深まったな。

 それを解き明かす気は、俺にはないが。

 こいつと関わると、絶対面倒なことが起こるに決まっている。


  ――はっ! しまった!


 それでも褒めるくらいはしてやるか、と思ったところで気付く。

 ゆっくり視線を向けると、俺の参加登録をしてもらおうと思っていた怖い方の受付嬢に睨まれていた。――ストレ。お前は本当、駄目なやつな。

 褒めて褒めて~、と突き出していたストレの頭を、軽く叩く。

 あくまでも、軽くだ。


「何で!? でも、何だろう。今日のエンジ君からは、優しさを感じるよ! やっぱり、私のことを好き――」


 バシっと、今度は強めに叩いておく。

 その後俺は、カイルの登録が終わるまでずっと突き刺すような視線を感じていた。


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