第31話 真実

「神の奇跡の、正体が分かった」


 話は、街が沈む一週間前に戻る。


「正体? 正体ってことは、あれは人為的なものなの?」

「まあ、半分は。少なくとも、神なんてものはいない」

「もったいぶらずに教えてよ! エンジ君! 恋人には秘密はなしだよ!」


 誰が恋人だ。

 だが、クリアも興味深そうな顔をしていたので、教えることにする。

 フェニクスは、どうでもよさそうな顔をしていた。


「神の奇跡の正体。それは、シンクホールだ」

「シンクホール?」


 シンクホールとは、地下水による侵食や、何らかの科学的変化によって、地下にある岩石や空間が崩壊して大きな穴が開くことをいう。

 採石場跡など、人工的なものに由来することもあるが、今回はどちらともいえる。


 浮遊感を覚えたのは、俺達が『街ごと』穴に落ちていたからだ。

 穴に落ちるなんてそんなこと、普通は気づくだろうが、規模が大きすぎて気づかなかったのだ。

 街の周囲をぐるりと回って調べると、不自然な断層がそこら中に見つかった。

 今にして思えば、最初に俺がこの街を訪れた際、森から街全体を見て感じた違和はここらへんが理由だろう。


「え、穴? 穴は私にもあるけど……。そんな簡単に、大きな穴が突然できるものなの?」


 こいつは、話を聞く気があるのだろうか。

 何かおかしなことでも言ったかな? と言うような顔で、首をくてんと横に傾けているアイマスク女。

 鳥は寝そべり始めており、最後にやれやれとクリアの方を向くと。


「……私も、ある」


 もういい、分かった。


「通常であれば、こんな街全体を覆うような穴はできないと思う」


 こんなことがほいほい起きていたら、世界中穴だらけでパニックだ。


「だが、それを可能にした要因が、この街には二つあった」

「神石?」


 俺は頷く。もう一つは……。


「ハイハイ! 分かった、分かった! もう一つは、魔力水だね?」

「正解だ。まずあの神石とやらだが、あれは土魔法の入ったただの魔力石だな」

「え! 嘘!? でも、そうだとしても……あん! 大きすぎるよぉ」


 無視だ無視。

 魔力石とは、魔力を帯びた石のことをいう。簡単な魔法なんかを付与させることが可能で、魔法をまともに使えない人が火を起こす等の用途で使うことが多い。

 大きい街なら、道具屋に普通に置いてある。しかしあんな大きな魔力石、俺も見たことはない。

 自然とできあがるにしても、何年、何十年……いや、何百年かかるのか。


「理由は分からないが、確かに魔力石だ。付与されている土魔法は、削岩系のやつだろうな。そしてそれだけでは、あんなことは起きない」

「それで魔力水、ね。うん。分かってきたら、ちょっと怖いかも」


 そう。この街の川や地面に溶け込んだ地下水は、全てあの山から流れてきている。

 正確には、魔力水の溜まった精霊の湖からだ。

 この街に来てから調子がいいと言っていた奴がいたのも、魔力を帯びた水を飲み、魔力が補給されていたからだ。


 つまり神の奇跡とは、壁に埋まった魔力石による魔法が魔力水を通して、ここら一帯の地面に対して浸透し、引き起こしたもの。

 自然にできるシンクホールとは違い魔法を使ったことで、一気に地下の岩石等が崩壊し、まるで浮遊をするかのような地上への落下をしていたのだ。

 地球ではあり得ない規模のシンクホールは、この世界だからこそ起きた。


「ほえ~。でも、よく気付いたね~」

「……すごい」


 褒められて、悪い気はしない。

 少し良い気分になっていた俺は、アイマスク女の顔を見ながら言う。言ってしまった。


「あー。認めたくはないがな、気づいたきっかけの一つはお前なんだよ」

「あ! もしかして私の穴に入りたいっていう願望が、きっかけにな――」

「違う。精霊の湖に落ちただろ? あの時に、底に亀裂が入っているのを見たんだ。それが最初だな」


 大きな衝撃を与えなければ、まだ何回かの神の奇跡には耐えられるだろうと思った。

 だが、近いうちに決壊する。そうなれば、何も知らない街の人からは死人がでるだろう。


「さすが、私の最愛の人。すごいね!」 

「やめろ。お前の最愛の人には絶対なりたくない。すでにお前の中で決まっていることなら、できるなら辞退させてくれ」

「……すごい。エンジ」

「そうだろ?」

「ん~! もうもうもう! きっかけ作ったのは私でしょ! 私にも優しくして! もっと構ってよ! 愛してよ!」


 全身を使って、構ってよアピールしてくる。――ああ、うっとおしい。


「よくよく考えたら、あの貧乳精霊に殴られたのがきっかけだ。お前じゃなかったわ」


 組み付かれたので引き剥がし、蹴り飛ばす。


「もうもうもう! 私、私だって……。う、うぇ~ん」


 アイマスク女は、コロコロと転がった先で泣いた。


「どうするの?」


 慣れてきたのか、そんなアイマスク女を無視してクリアが聞いてくる。


「一応、解決策のようなものはある。街の人にも世話になったしな」

「私も、手伝う」


 ふんと握りこぶしを体の前で作り、クリアがやる気を見せていた。


「んー。お前はとりあえず、いつも通り神の奇跡の巫女をやってくれ。それが俺を助けることになるからさ」

「うん……分かった」


 若干不満そうにしているが、仕方ない。

 街の人を助けるのは嘘ではないが、俺はこの機会を利用して神石を盗み出そうと考えている。

 こいつに、盗賊の片棒を担がせるわけにはいかない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る