2日目
こんばんは。
今日も来てくださったんですね。ようこそ。
お茶を用意しておきました。冷めないうちにどうぞ。
えぇっと……金持ちに引き取られたところからでしたよね?
私があの家に迎えられたのは、確か――13歳の時でした。
その家には他にも子供がいたんです。男の子と女の子が1人ずつ。
男の子は私と同じ歳で、名をリックと言いました。
女の子は彼の実の妹でした。名前はマリアム。当時10歳でした。
2人とも明るく、親しみやすい子供で、私ともすぐに打ち解けてくれました。
違和感がありませんか?
どうして子供がいるのに養子を――って。
私は不思議に思っていました。
謎が解けたのは家に来てから3日程経った日。
養父に呼び出され、「お前を跡継ぎにする」と告げらました。
その日から、また地獄が始まったのです。
毎日膨大な量の勉強をさせられ、部屋から出されることはほとんど無く、寝る間も与えていただけませんでした。
それでも、孤児院にいた頃より良い生活をさせていただきましたね。
食事は美味しいし、暖かい部屋で過ごせることは幸せでした。
拾って頂いた恩を、勉学で返そう。そう思えました。
義理の兄妹達も応援してくれました。
特にリックは、私に会う度「申し訳ない」と言いました。
「俺の出来が悪いせいで、お前に迷惑をかけてしまって……」
「構わないさ。辛いと思ったことは無いよ」
これは本心でしたが、それでも、リックは私のことを気遣い、労ってくれました。
優しい少年でした。マリアムもまだ幼いのに、私のためにお茶を淹れてくれました。
私は恵まれていた。それは否定できません。文句を言える立場でもありませんし。
ですが1つだけ、耐えられないほど辛いことがありました。
養母からの扱いです。
詳しくは知りませんが、夫婦の間で養子についての話し合いをしていなかったようです。
母親なら、実の子を跡継ぎにしたいと思うでしょう。
彼女からしてみると、私は赤の他人ですから。
私の存在が憎くてたまらなかったはずです。
それが、はっきりと態度に表れていました。
養父が留守の日は何も食べ物を与えられず、外に出されることもありました。
2日くらい食べないことは慣れていましたが、1週間家に入れさせて貰えなかった時は、さすがに身の危険を感じましたよ。
道に生えている草を食べ、動物の小屋で夜を過ごしました。
義兄妹は、そんな時でさえ私にパンを分け与え、謝りました。
「どうか母を憎まないでくれ」と。
もちろん、憎んでなんかいませんでした。養母の気持ちも理解できましたから。
自分が我慢すればいい。
それで皆が幸せになるなら。
そう考えていました――あの戦争が始まるまでは。
さて、今日はたくさん話した気がしますね。
疲れたのでこの辺にしましょう。
この後は会議があるんですよねぇ……多忙なんですよ。
では明日……あぁ、明日は仕事で…ここに帰って来られるかどうか……。
また来てくださいますか?待ってますね。
箱庭戦線ーサリエルの部屋 ゆか @rihase
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