箱庭戦線ーサリエルの部屋

ゆか

1日目

おや、いらっしゃい。

お客様がいらっしゃるなんて何十年ぶりでしょうねぇ。

私の昔話を聞きに来たんですね?

何も無い部屋ですが、まあお座りください。

そう緊張なさらず。大した話じゃないですよ。

あぁ、天使の部屋が珍しいですか?

ベッドと椅子しか無いなんて、シンプルでしょう?笑って良いですよ。

私自身も滅多に来ないので――仕事が多くて帰る暇がないんです。

仕事自体は好きでやってることなので、良いんですけどね。

おっと。無駄話をしてしまいました。

何から話しましょうか。


では、まずは私がどんな環境で育ったのかをお話ししましょう。




私は魔法の国出身でした。

郊外の小さな街で生まれた――らしいです。

と言うのも、気づいた頃には孤児院で生活をしていたので、本当はどこで生まれたかなんて知りません。幼かった私の妄想かもしれません。

私の育った場所も、孤児院という名の強制労働施設だったんですがね。

それはもう酷かった……幼い子も遅くまで働かされ……魔法道具の実験を手伝わされたりもしました。大怪我をする仲間達を何人も見ましたね。

私は毎日怯えていました……次は自分がああなる番なのではないかと。


どこかに売り飛ばされる子供もたくさんいました。

金持ちの臓器の提供のためだったり、若い労働力を求めていたり。

養子を探しに来る富豪も多かったですから、容姿の整った子や、魔力の高い子は大事に育てられていました。

それ以外の子供は食事も満足に食べさせてもらえず、みんな痩せ細っていました。

そうそう、天使になってから全く空腹を感じませんから……いえ、話が逸れますね。またの機会に。

…何の話でしたっけ。あぁそう、売り飛ばされたんです。私も。

いえ、厳密に言うと、金持ちに買われたんです。

幸いなことに、私は美形ですからね――冗談ですよ。

まあ……関係無いとも言い切れませんが。


そうして、今までの生活からは一変する訳ですが……今日はもう時間のようです。

科学の国のとある実験施設に潜入するよう言われてるんです。

え?詳細は秘密ですよ。

明日は、私のリッチな生活でもお話ししましょう。

あまり期待はしないでください。相変わらず暗い話ですから。

では、また明日。おやすみなさいませ。

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