第10話 主は罪な男だな

勝負が付き、俺は飯屋で飯を食っていた。すると、俺の周りに人が集まって来た。

「ねぇ、あんたあのルルオト・バイスマンに勝ったんだってね!」

「そうだが。なんか用か?」

「あたし、あんたとご飯食べたいんだ」

「ずるいわよ!」

「そうだぞ!!」

あいつってそんなに悪者な存在だったのか。ま、あの態度じゃ好かれるわけがないか。人の技量が分からないんだから、ランクSなんてまぐれでなったんだろう。

「悪いが、俺は誰とも相席をする気はない」

「なら、僕はどうかな?」

そう言って出て来たのは紫色の髪をしたロングヘアの少女だった。

「誰かは知らないが、誰とも相席をする気はない。例え、国王でも」

「驚いた。君、僕の事知ってるのかな?」

「知らない。でも、周りの雰囲気を見れば分かる」

「へー。君は何者だい?」

「俺はただの流浪の民だ。じゃ、失礼する」

俺は飯屋に金を置いてその場を後にした。


「……おい。いつまで付いてくる気だ?」

「どこへでも」

「ふざけた答えをするな。何が目的だ?」

「君は強いだけじゃなくて頭も回るみたいだね」

「普通誰でも考える」

「いいや。少なくとも、この国の人間は喜んでやっているよ。僕は君に興味を持っているんだ。だから、ちょっと調べたくてね」

「言っておくが、俺を調べても何も出ないぞ。俺は何も言わないし、どこの国にも住んでいないからな」

俺は冷たくそう言った。そして俺の足は早くなっていた。早くこいつから逃れたいのだ。

「君って本当に不思議だ。普通僕らみたいな偉い奴に会うと絶対と言っていいほど謙っているのに、君はそうならない」

「俺がなんてお前に媚を売らんといかんのだ。俺は自分に得がある事しかしないんだよ。お前に謙っても、いい事はない。だから俺は何もしない」

そう言うと腕を組んで意地悪な顔をした。

「それは分からないよ?僕が君にお金をあげるかも」

「お前みたいな金の亡者が金をくれる訳ないだろ」

「違いない」

「つーか、お前帰れよ。仕事ないのか?」

そう言うと忘れていたかのような感じで走って行った。


俺は宿に泊まる事にした。今日も野宿をしようと思っていたのだが俺を見付けた人々がここに行くよう勧めたのだ。

「疲れた。さて、寝るか」

俺は布団を持ち上げたすると、その中にはあの国王娘が寝っ転がっていた。

「な、何やってんだ!お前!?」

「何って寝てたんだよ?君のベッドで」

「は!?」

俺は気が付いた。あいつら、この国王娘に言われてこの宿を勧めたな。

「いやぁ。だって、さっきはちょっと話が途中で終わっちゃったしね。君、天使と繋がりがあるんでしょ?」

「別にないけど?つーか、天使なんていんのか?」

「トボケないでよ。君のあの服は第一席の正装。僕は知ってるんだよ、天使に会った事があるからね。で、何で君がその服を着ているか」

「あ、あれはな、知り合いが作ったんだよ。天使の服が大好きでな」

「ふっふっふ。僕はそんなので騙されないよ。その指輪、天界に行く為に君専用に作ってあるでしょ」

こいつ、マジでうぜぇ。何でこんなに俺の正体探りたい訳?何、俺って人気者?愛されてる?このまましらを通してもいいけど、面倒だし正直に言うか。

「はいはい。そうだよ、俺は天使と繋がってるよ。でも、何でそんなに俺を知りたい訳?」

「君に興味があるからに決まってるじゃないか。で、第一席?」

「そうだ。あ、言っとくけど俺はお前の命令は聞かないから。それに、お前に力を貸す義理はないしな」

「それはそうだね。じゃあ、お金をあげるから僕専用の騎士になって?」

「嫌だ。それに俺は人に命令されるのは嫌いだ。つーか、俺が金で動く奴だと思うなよ。そんな馬鹿じゃないしな」

そう言うと、国王娘は少し考えていた。なので俺はお姫様だっこをした。

「な、なんだ!?何を!」

「俺、もう寝るから」

扉を開け、国王娘を放り出した。そして、すぐに部屋の布団で寝た。


「ふぁあ」

俺が起きると、目の前に国王娘が立っていた。

「朝っぱらから勧誘か?それならお断りだ」

俺はテーブルに乗っていたコップに水を入れて飲んだ。

「君、いつこの国を出発するの?」

「今日だけど?」

「そっか」

そう言うと、国王娘は消えた。いや、出て行ったと言った方が良かったか。

「目障りな奴が消えたな。主よ、飯食ったらもう行こう」

「ああ」

俺は部屋を出て、鍵を番台に置き店を後にした。するとさっき出て行ったはずの国王娘が俺の目の前に立っていた。

「あのさ、僕もこれから聖地の学院に行くんだけど君から会いに来てくれないかな」

「……別にいいぞ。ただし、俺が行くのは当分先になるけどな。これから他の国の情報も得なけりゃいけないし。それまで待ってられるか?」

「うん、待ってるよ」

俺は国王娘に通りすぎる前に屈んで耳元で囁いた。

「いい子にして待ってるんだぞ、サラ」

そう言って俺は頭をポンポンと叩き、その場を後にした。サラの顔は真っ赤になっていた。

「まったく。主は罪な男だな」

「は?何が」

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