第8話 また面倒な奴に絡まれたな

あの変態な国王に会った俺は城に招かれた。

「なんだよ。変態行為ならお断りだ」

「そんなのじゃありませんよ。ただ、あなたに興味があるんです」

「なんの」

俺は少し距離を置いた。警戒したのだ。

「どうして離れるんですか?」

「お前が怖いからに決まってるだろ。さっきも俺のファーストキスを奪いやがって」

そう言うとアンリ・トゥグバリアはクスっと笑い、どんどん距離を詰めて来た。俺は少しずつ後ずさりをしたが、とうとう壁にぶつかり後ろに下がれなくなった。

「行き止まりですね」

アンリ・トゥグバリアは俺の肩を掴んだ。だが、彼女の手が弾かれてしまった。

「っ!!」

「我の主をからかうな」

そう言って出て来たのは赤竜帝だった。だが、竜の姿ではなく人間の姿だ。

「あら。どこから来たんですか?」

「ここからだ」

そう言って俺の影を指差した。

驚いていて何も言えないのに俺は察知したので説明をした。

「こいつは俺の契約した奴だ。名前は赤竜帝。もう一匹いてな。知能を持ったアイズラビットだ。話しもできるんだぞ」

「赤竜帝って。炎の精霊王、フェニックスの後継ぎとも呼ばれている竜じゃないですか!!まさか、あなたが倒して契約したのですか?」

「まあな」

そう言うと、アンリの表情が変わった。

「そうだったのですね。あなた、名前はなんと言いましたっけ?」

「黒鉄愁斬だ。愁斬と呼んでくれていい」

「そうですか。では愁斬、私の国の騎士になっていただけませんか?」

俺はずっと真顔でいた。

「その申し出はとても嬉しいが断る」

「どうしてか理由を聞いても?」

「俺はただ単に面倒な事があるだけだ。騎士かなんかになったら俺はあんたに縛られる。そして、いやらしい事をされるに違いない。だから断るんだ」

そう言うとアンリは面をくらった表情になった。そして、大きな声で笑った。

「あはは!面白い方だとは思っていましたが、これ程とは。あの、よろしければあなたも学院に行きませんか?」

「学院?」

俺が質問すると、アンリは驚いたように俺を見た。

「知らないのですか?」

ああ、またこのパターンか。

「俺は流浪の民なんだ。だから、国の中にも入った事はないし、情報もあまり持っていない」

「そうだったのですか。学院とはホーリー学院の事です。聖地に学院があります。聖地はどこの人間も侵略できないよう法で定められています。他の国の人間も来ているので、結構交流の場になっているんです。そう言えば、愁斬は魔術は出来ますか?」

「出来るが?」

そう言うとアンリは手を叩いた。

「まあ!その腰にぶら下がっているのは剣ですか?」

「ああ。俺の愛刀の十六夜いざよいだ」

「見せていただけませんか?」

「別にいいが。傷つけるなよ」

「分かっていますよ」

俺はアンリに剣を渡した。そして、アンリはずっと俺の剣を見ていた。やはり珍しい剣だからなのだろう。

「これは。どこで手に入れたんですか?」

「我が家の宝刀だ。だからどこにも売ってない。全部俺が手入れをしている」

「そうなのですね!!魔術もできてその上剣術もできるなんて。感激です!!」

そう言うと俺の剣を返してくれた。俺は剣をベルトに通し、元に戻った。

「あの、さっきから気になっていたのですがその服装は何なのですか?」

俺が着ていたのは天使会議の正装として来ていた天界の衣装だった。やはりこの世界の人間には可笑しい服装だろうか。でも、ミカエルがしつらえてくれたんだし俺も結構かっこよくて気に入ってるんだけど。

「これは俺の正装だ。やっぱり可笑しいか?」

「いいえ。とてもいいと思います。でも、その服天界に関する文献に載っていたような気がしたんですよね」

まずい!俺が天界と繋がっているとなると面倒になる。取り敢えず、言い包めないとな。

「ああ。これは知り合いがくれたんだ。多分、天界の衣装が好きだったんじゃないか?」

「そうですよね。直々に衣装を貰う訳ないですよね」

俺達は「あははは」と笑いながら場を過ごした。


「……じゃ、俺は行くわ。学院の話はまた今度な」

俺は座っていた椅子から立ち、その場を後にしようとした。

「今度っていつですか?」

そう言って俺の腕にしがみ付いてきた。

「さあ?空いてる日は無いのか?」

「もう私も行かなければいけないのです。だから、話は今日しか……」

アンリは泣きそうな表情で俺を見ていた。まるでこっちが悪者みたいじゃないか!

「あー!もう、分かった分かった。今すぐは無理だが、こっちから行く。ま、目安は1週間後だ。分かったな」

「了解です。では、愁斬。また後日」

俺は玄関まで見送られてそのまま後にした。

あー、また面倒な奴に絡まれたな。

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