第4話 鳥型ゾーム

パァンッパァンッ

室内に幾数もの銃声が響く。


ここは銃を武器とするヒーロー、いわゆる〝ガンナー〟

達が鍛錬を重ねる、射撃訓練場である。


銃という武器は、4種類の武器の中でも最も日々の鍛錬がものをいう武器なのだ。

と言うのも、大剣や細剣は使われたゾームの素材や性質、鍛治職人の腕などによって、キレ味や強度が変わり、戦闘にも少なからず影響を与える。

しかし銃という武器は、どんな銃を使うかではなく、己射撃能力が全てなのである。

言ってしまえば最も公平であり、極めることが至難な武器、それが銃なのだ。


訓練というのは日によって様々であるが、この日の訓練は、鳥のように動き回る的に100発銃弾を撃ち込み、的中率を競うというものだ。


ピーーーーーーー

<カレン=ベルトルト score98 暫定1位>

機械音がスコアを告げる。

カレンはこの訓練で2発以上外したことは無い。

射撃能力だけで言えばS級にも引けを取らないのだ。


──と言っても、カレンがこの訓練で単独1位を取ったことはただの一度もないのだが。


撃ち終えたカレンは銃を腰に巻かれたベルトへ仕舞うと、深くため息をついた。


昨日は久々の休日であったのだが、鍛冶屋の女性の1件が頭から離れず、疲れが抜けきっていないのだ。



ピーーーーーーー

<ウィン=マーベル score100 暫定1位 >


隣から機械音が響くとともに、何者かがカレンの肩を叩く。


「どうしたのカレンちゃん、おつかれ?」

「……マーベルさん」

「だからウィンでいいって〜」

「先輩を名前で呼ぶ趣味はないので」

振り返ったカレンはその人物を確認し、基本クールで振る舞うがこの時はどちらかと言うと冷めた様子で冷たくあしらった。


そこに立っていた人物は、カレンよりもやや歳上、金髪に天然パーマでおしゃれなあごひげと、いかにも軽薄そうな面持ちであり、少し開いた胸元からはネックレスが見える。


そう、この男こそが、サニー社唯一のS級ガンナー

ウィン=マーベル


更に言うと、カレンの単独1位を阻止する存在である。


ウィンはこの訓練で毎回フルスコア、つまり一度も外したことがない。

要するに、カレンがフルスコアをたたき出したところでウィンもフルスコアなため、同率1位にしかならないのだ。そのため、カレンは単独1位を取ったことがない。


しかしそんな結果などカレンはさらさら興味がなかった。カレンがこのウィンに対して冷たい態度を取るのは別の理由に他ならない。


「カレンちゃん、今日仕事終わりご飯とかどお?」

「結構です。それとちゃん付けはやめてください」

ウィンの馴れ馴れしいご飯の誘いを、カレンは一切目を合わせることなく一蹴した。



──そう、ウィンはカレンに言い寄ってくるのだ。


ウィンの真意が何なのかは分からない、ただ昔からカレンは、こう言ったタイプの軽薄な男が嫌いであり、ヘドが出る。それは先輩であっても例外ではない。

むしろ先輩であるからこそここまで我慢しているというものだ。先輩のフィルターがなければとっくにカレンの拳が、その真っ白な歯をへし折っていることだろう。



──その時、室内にアナウンスが流れた。

《4―11地点でレベル8の鳥型ゾーム発生 ピーク社とアルベルト社がエントリーしている。 ウィン、カレン、至急討伐へ向かってくれ》


それはゾーム討伐命令を告げる、社長の声だ。



4─11と言うのは、ゾームが発生した地点の位置関係を指標化したものである。

この街の地形は碁盤の目のようになっており、縦に20、横に20と細分化して囲碁のようにその地点の位置を表すことが一般的なのだ。


そしてレベルとは、その名の通りゾームの性質や力などから10段階で表される討伐難易度であり、当然レベルが高いほど報酬金額も高くなる。

今回のレベル8は、恐らく鳥型ということもあるだろう。


ゾームは大きく分けて、哺乳型、爬虫型、鳥型の3種類が存在する。中でも特に鳥型ゾームは、空中を飛び回るためガンナーが必要不可欠である上に、常に動き回るゾームからダイヤを取り出すには、正確無比な射撃能力が必要とされてくる。

レベルは何もゾームの強さだけでなく、討伐の困難さも考慮し判断されるため、討伐に困難を極める鳥型はレベルが高めに設定されることが多いのだ。


今回も鳥型ゾームが発生したため、A級ガンナーのカレンとS級ガンナーのウィンが討伐に抜擢されたのである。



その討伐命令が告げられるや否や、2人は返事を返し急ぎ足で射撃訓練場を後にした。



ゾーム発生地点は運良くサニー社の目と鼻の先にあるため、自らの足で移動することになる。その間もウィンは、馴れ馴れしくカレンに話しかけていた。


「カレンちゃんはさ、彼氏とかいないの?」

「……別にいないしいらないです」

「あ、そういえばこの前の外部講師と訳ありみたいだったけど、そっち系の関係だったりする?」

「なっ…!やめてください!べつにそんな……」


そんなセクハラ紛いの質問にカレンが顔を赤らめていると、ゾームが発生したとされる地点に到着する。

他会社はまだ到着していないようだ。しかしゾームの姿もない。


────その時


先程まで日向であったふたりの立つ位置が突如巨大な影に覆われる。2人が上を見ると、そこにはクジャクのように色彩豊かな羽根を持つゾームが優雅に飛び回っていた。


──その瞬間、スイッチが入ったようにウィンの目の色が変わる。


「俺がゾームの気を引いてダイヤの位置を探る、カレンちゃんは屋根の上から援護しつつ、ダイヤを発見次第取り出し作業にかかってくれ。そこからの援護は俺がやる」


先程の軽薄な態度が嘘のように、まくし立てるように端的に指示を送るウィン。


──これである。この切り替えこそが、ウィンがS級ガンナーたる所以であろう。


パァン

言い終えるや否や、ウィンはゾームの頭めがけて銃弾をぶっぱなす。それを合図にカレンは建物の屋根へと飛び乗り、銃を構えた。


ゾーム突如として降下し、低空飛行で街を襲う。その攻撃を身軽に避けながらも、ウィンは銃を連射し的確に銃弾をゾームの全身へと命中させていく。

命中した箇所の皮膚が飛び散り、そして再生されを繰り返し、めまぐるしいスピードで攻防が繰り広げられていくが、未だゾームの体内からダイヤが垣間見得ることは無い。


しかし、見事な連携である。

それは先程までの2人からは全く想像が付かないほどに、決してお互いの弾丸を邪魔しない、見惚れるほどのコンビプレー。恐らく2人とも仕事人なのであろう。


ウィンがゾームとの攻防を繰り広げている間、他会社のヒーローが現場へと駆けつけていた。しかしその攻防に参加することが出来ない。

カレンの正確無比な弾丸が、ゾームとウィンのテリトリーに足を踏み入れることをよしとしないのだ。そしてそれは決してウィンを邪魔することは無い。凄まじいスピードで駆け回り乱射しているはずであるのに、まるでお互いがどう動くのかが分かっているように、二人の弾丸が戦場へ飛び交う。

そうして作り上げられた空間は、他社の侵入を許さないのだ。


繰り返される銃撃に飛び散っては再生する皮膚の中に、一瞬眩く光るものを発見する。それは右翼の先端だった。


カレンはウィンとアイコンタクトを取ると、ゾームが近くへきたタイミングで右翼へと飛び乗った。

更に動きを加速するゾームに狙いを定めると、ウィンはここしかないというタイミングで、寸分狂わず右翼の先端へと弾丸をヒットさせる。そうして飛び散った皮膚が再生するのを待たずして、カレンはそこに垣間見えたダイヤを取り出して即座に屋根へと飛び移った。


活動を停止したゾームは広場のど真ん中へと落下する。

2人はゾームが落ちる位置も計算していたのだ。


「ふぅ〜無事成功かな。おつかれちゃん」

「お疲れ様です」

2人は活動を停止したゾーム本体へ駆け寄り、合流した。



──その時



「中々やるじゃねーの」


周りで見物していた人だかりから、聞き覚えのある気だるげな声が耳に飛び込み、カレンは咄嗟に振り向く。


しかし、そこには思い描いたはずの人物の姿はなかった。


…………あれ?


怪訝な顔を浮かべていると、その様子に気づいたウィンが顔をのぞきこんで言う。


「どーかした?」

「……いえ、何でもないです」

カレンは再びクールな表情に戻ると、すぐさま会社に無線で連絡を入れた。




確かに聞こえたはずなのだ。ボサボサの頭をかくジークの、眠そうな声が。




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