たんたんと
@Tanikon
少女ひなこ⒈
《おまえ、最低だな。》
スマホに映し出された男友達からの新着メッセージ。
ひなこは、ほんの数コンマ、時の流れからべりべりと身を剥がされた。
我に返ったと気づいた時、すでに他よりくっきりとしたその一文の意味を、言葉のひとつひとつを、理解することができなくなっていた。
おそらくひなこは、本能的に視界からの情報を遮断し脳に辿り着けないようにしたのだ。それほどまでにその一文をひなこ自身が拒絶してしまった。
何故?それもすぐには理解できなかった。
だが、正体はすぐにわかった。その後はひたすらに動揺だった。例えるなら、上手く隠せたと思っていた後ろめたいなにかをとっくに相手は見透かしていていつ核心を突いてやろうかと企まれていたような、冷水と熱湯を交互にかけられたようにサッと血の気が引いたり、カッと熱くなったりした。
…
(あぁ、これ、恥か。)
〈え?ごめん、なにかしちゃった?〉
すっとぼけたあざとい返事を打つ指とは裏腹に自分の高いプライドを確信していた。
《や、言ってみただけ笑》
(笑えねぇ…)
数分後に返ってきた相手からの言葉がひなこに疲労感を与えた。
(まあ話の流れ的に私に落ち度があったとは思えないし、てか、そもそも何の話してたんだっけ。あーなんかもう、どーでもいいやー…)
しかし、ひなこは何がどう最低かは気づかないフリをしているものの最低だと言われてもおかしくない事には気づいていた。だからこその動揺、いやあれは恐怖心に近かった。自分の誤ちが晒される事を自分のプライドが酷く怯えていたから…。
(自分を否定されるのってこんなに怖かったっけ……あれ、手、震えてる…。)
机の下の足が震えていることには気が付かなかった。
…
「ひなこ?おい、ひなこ、、ひなこ!!」
バシッ
担任の平たいバインダーがひなこの頭の上でいい音を出した。
「いッッつぁーー」
ひなこは一瞬自分の身に何が起こったかわからなかったがほんとうの意味で我に返った。
「?!?!なんだ、上原か…」
じわじわとほんのり痛む頭に手を当てたひなこの席に、ぴったり体をくっつけた男が眉間に深いシワをつくりひなこを見下ろしていた。
「おまえなぁ、目開けながら寝るなよぉ…あと上原せ ん せ い だ!」
「や、寝てない。あとそのバインダーは攻撃するものではありませんよ?上原せ ん せ い。」
「では、俺のホームルームが終わったことはご存知でしょうか?」
「え、終わったの?てか始まってたの?」
「おう!おまえ、もっかいバインダー食らうか!!」
「や、ちょ、勘弁、ごめんって!」
慌てたひなこは素早く手で頭を守った。
「で、なんかあったか?」
陽気だった声色が低く穏やかなものに変化した。
ひなこは少し目を大きくしゆっくりと手を降ろした。
その時降ろされたひなこの手が一瞬強ばったのを上原は見逃さなかった。
「…別に、ないよ。」(お前に話すようなことは)
「あっそ、たまには職員室顔出せよ。聞いてやる。」
「へー、新任のくせに頼もし〜。」
ひなこが挑発するように笑う。
「あー?かわいくねーやつ。じゃあな、気をつけて帰れよ〜」
パタパタとバインダーを振りながら上原は教室をあとにした。
ひなこはホームルームが終わっていたことよりもそんなに時間が経っていたのかと驚いていた。
じっと見つめている上原の背中が足音と共に、消えていく。消えていく。
たんたんと @Tanikon
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