第五章…「その変わりゆくモノは。【2】」
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「え!?」
「だって、それだけ長い時間努力できるって生半可な事じゃないし、普段のイクの態度を見ていると、その強くなろうとする努力はフィーの為でしょ? それだけ思ってるっていうのは、もう普通の好きって枠を大きくはみ出してるよ」
「で、でででも!」
「ふふ、予想通り、顔が真っ赤になったな」
「あ~っ! もうっ! フェリさん、今絶対楽しんで言ってましたね!?」
別にそれを狙っていた訳じゃないけど、この手の話題が苦手というのがよくわかる反応だ。
顔を赤くして、いつも大人しめな動きをするフィアが、普段の彼女を基準にすると、かなりオーバーリアクションになる。
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狙ってはいなかったけど、私が言った事自体は本音だ。
まぁフィアで遊ぶつもりは無かったから、これ以上何かを言うつもりはないけど、今の彼女の状態は、それはそれで楽しいから、感情を静める手伝いはしない。
そんな普段見れない一面に思わず笑いがこぼれ、かつその愛くるしさを堪能しつつ、考えに頭を巡らせた。
イクシアがフィアの為に強さを求めたとして、今でも十分強いのにさらに強くなろうとしているのは、何かが欠けている気がするからか…、それかただの戦闘狂で、純粋に力の手に入れた先を見てみたいとかかな…。
私には戦士としての心構えというか、武士道じみた事はわからないけど、そういったモノに関係していたりとか?
なんにせよ、しっくりくる答えは出てこないな。
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「ちょっとフェリさん、聞いてますか?」
「いや、聞いてない…かな」
「酷いです、フェリさん」
ユサユサッと私の肩を揺らすフィアは、まるで母親に構ってほしいと駄々をこねる子供のようだ。
エルンが彼女で遊びたがる理由の1つ、これを見る度に同意せざるをえない。
「でも、フィーだって、いずれは良い相手を見つけて子供を授かる訳で、今からでも慣れておかないと」
「え、ちょ、きゅ、急に何を、い、言いだすんで…キャッ!」
オーバーリアクションで、自分の言いたい事を主張していたフィアだったが、それは徐々に鳴りを潜め代わりに、気持ち涙目ですがる様に訴えてきた。
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そんな所で、彼女は言葉を遮る様に小さな悲鳴を上げる。
それとほぼ同時に、バンッ!という柔らかいようで硬い物がぶつかる音と共に、私の顔面に強い衝撃が襲う。
私の顔に当たるだけでは殺しきれなかった衝撃。
頭が後方へ飛ばされるが、体がストッパーとなって吹っ飛ぶという事はなく、その場に倒れ込む形となった。
痛い…と反射的に口から洩れ、当然のように痛みも遅れ気味に襲ってくる。
自分の後方、今は頭上と言った方がいいか、その方向からは何かが弾む音が聞こえ、それで自分の身に何が起こったのか、何となくだが察する事ができた。
「大丈夫ですか、フェリさん?」
「世界は回る…」
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まさにその言葉が適しているかのように、今まさに私の頭の中はぐわんぐわんと投げられたボールのように、揺れ続けている…ような気がする状態だ。
まさに私の顔面と接触事故を起こしたボール、正確には鞠のようなボール状の玩具の気持ちを体験で感じている。
そんな求めていない感覚を振り払おうと、軽く頭を振るが当然その程度で消えるモノではない。
「いくら何でも、休憩中の相手を不意打ちするのは、あなたのイメージが損なわれる行為じゃないかしら…」
振っても意味がないという状態、それとは別に残り続ける痛みを少しでも無くそうと、特に痛みが酷いおでこ部分をできるだけ優しく摩りながら、私は犯人に言葉をぶつけた。
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「休憩は終了。フィーを困らす奴はフェリでも許さん」
フェリでも…と言ってくれる所には、少なからず私をその辺のモブキャラみたいな立ち位置で見ていないという意味を感じて嬉しいけど、それはそれ。
その嬉しさではこの痛みが消える事は無い。
私を襲った衝撃の犯人であるイクシアは、いつの間にか持ち替えたパロトーネの武器をこちらに突きつけて、早く始めるぞと、まるでボールを投げてもらう直前の犬のようなオーラを纏っていた。
その意気揚々というか元気ハツラツというか、とにかくやる気に満ちた彼女に、正直私は軽く引いている。
言葉と行動、それぞれ本気なのだろうけど、それぞれに別々の思いが籠っていてまとまっていない。
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「なんであいつは、あんなにプレゼントを前にした子供みたいな興奮状態になっているんだ?」
「フェリさんのせい…ですかね」
「・・・」
それを言われると反論できない。
訓練に対して力が入っているのは、なんだかんだといつもより良くできてしまったのが原因だ。
そうに違いない。
そのやる気に対して、フィア弄りなんてスパイスを加えてしまったモノだから、イクシア自身感情が混ざり合って、それを一度に発散しようとした結果、あの興奮状態になってしまっているんだろう。
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そう、全部私が悪いのだ。
でも、イクシアのやる気は、もう少しその胸の中にぎゅうぎゅうに詰め込んでおいてもらわなくてはいけない。
何故なら、ここは遊び場であり訓練場じゃないのだから。
子供達も楽しんで私達の訓練を見ている節はあるけど、1日中それに付き合わせるというのは酷というもの。
人生の先輩である私達が、それをわかってやらねば。
午前中、フルで遊び場を使わせてもらっていたのだから、子供達がOKを出しても、こちらが身を引くのが当然…ないしは、子供達の遊びに付き合ってやるのができる大人というものだ。
とりあえず、やる気満々のイクシアを落ち着かせるため、説得をしようと立ち上がった瞬間、後ろから小さな何かが私に抱き着いてきた。
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さっきの顔面への衝撃に比べれば、笑いが出てしまう程弱いその衝撃に、私はこの孤児院の最年少であるトーリが昼食を終え、遊びたくて突進してきたという結論に至った…が…。
「トーリ、遊びたい気持ちはわかるけど、ちょっと待っていて。イクお姉さんとちょっと話をしなきゃいけないから」
『とーりって、だ~れ?』
私の言葉に対し、トーリとは違う声で返された。
それはとても聞き慣れた声であり、聴くだけで俺の心に癒しを与えてくれるモノ。
しかし、その声が予想外な声であった事に変わりはなく、思わず声のした方向へと顔を向ける。
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そこにいたのは過剰な言い方をするなら俺の天使、黒髪のボブカットを揺らし、私に首をかしげて見せる「リルユ・リータ」、リルユこと私の妹の姿だった。
「リルユ!? なんであなたがここに!?」
夢の中で、まるで夢を見ているかのような展開、予想外な事に、イクシアの事など頭から抜け去って、高い高いをするように勢いよくリルユを持ち上げる。
そして、私はその場で右足を軸に回転し、その小さな体を自分の胸元で抱きしめて、暖かくマシュマロのように柔らかい頬に自分の頬を摺り寄せるのだった。
現実では、にぃに髭痛い、なんて言われて嫌がられるのがオチだった事も、今は私の気持ちにこたえるように、リルユも頬を摺り寄せてくれる。
衝動に駆られての行動ながら、心の奥底まで突き刺さる言葉を言われずに、これをできるというのは幸せの一言だ。
フェリスの豹変ぶりを見て、反面教師と言えばいいか、イクシアは自分に灯っていた興奮が冷めていくのを感じた。
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彼女は、1から10に、10から1に、という極端な印象の変化をしない人間だ。
にもかかわらず、今の彼女は、訓練をしている時とフィアと一緒に居る時の自分程に別人になっている、そんな印象をイクシアは受けた。
そしてその変化を生んだ少女を、イクシアは知らない。
頭が冷えて幾ばくかの冷静さを得た彼女は、フェリスと少女の戯れを横目にフィアの元に向かい、尋ねた。
「あの子、誰?」
その問いに、最初は首を傾げたフィアだったが、すぐに全部を理解したような表情を見せる。
「あの子はフェリさんの妹さんで、名前は「リルユ」さんです」
「妹? フェリに妹なんていたっけ?」
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「いますよ。妹さんの他に弟さんが1人。イク、会うのは初めてでしたっけ?」
「うん」
妹に弟、その存在の説明に対して、すんなりと納得できる自分がいると同時に、何か言葉にできない引っ掛かりをイクシアは感じた。
「昔、フェリが記憶を失う前、1回だけ、自分の家族は父だけ、みたいな話をしていたような気がするんだけど」
「フェリさんがですか? ん~、それはたぶんフェリさんではないと思いますよ。以前、フェリさんの身の回りの事を、エルンさんに必要だからと言われて調べた時、親族等家族構成を見ましたが、父母に弟と妹の5人家族と、ちゃんと書かれていました」
「そう、なら、間違ってるのはウチの方かな。他の軍生の話と混ざっちゃったのかも」
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「そうですね。フェリさん、あまり家族の話とかしませんし、ちょうどイクがその話を聞いた時に、フェリさんもそこにいたのだと思います」
「そうかも」
至福の時、時間という概念が頭から切り離されて、いつまでもこうしていたいという願望に突き動かされそうになったけど、ふと視界に入ったフィアとイクシアの顔に、我に返された。
あまり気にしなくてもいいのかもしれないけど、これ以上はフェリスという存在の像に傷をつけかねない。
そう思い、私は名残惜しくもリルユを下ろし、咳払いを挟んで、視線を合わせるために跪くと、改めて何故ここにいるのかを尋ねる。
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しかし、現実と同じ5歳という年齢のこの子には、自分が何故ここにいるのかを理解するまで至っておらず、ただこう答えた。
「にぃににあいにきたんだよ」
本来の目的はどうであれ、リルユの目的はその1つだけなんだろう、その言葉は嬉しく思うけど、私が求めるものではなかった。
『リルユ、にぃにじゃなくて、ねぇねな』
「ひゃいッ!?」
求める答えは出てこなくても、その嬉しそうに話すリルユの顔に、何でも許してしまいそうになる中、不意に聞こえるリルユの言葉への訂正と、胸部への違和感が寒気と共に襲う。
あまりに唐突で、普段は意識もせず、意識をしようとも思わない場所への攻撃に思わず、驚きと悲鳴の合わさった声が、不本意ながら口から飛び出した。
---[41]---
痛みは無い、あったらあったで別の問題が出るけど、今はどうでもいい。
今の問題は服の上、鎧の下、服と鎧との間に生まれる隙間に滑り込ませた小さな手が問題だ。
大も大、大問題。
子供だから、血縁者だから、そんな許されるための口上は、今の私には必要のないモノ。
その手から逃れるように立ち上がって、私の胸部を襲った犯人へと視線を送る。
黒髪のショートヘアーの少年は、自身が何をしたのかを見せつけるかのように手をワキワキと動かす。
顔の火照りを感じ、それと同時に恥ずかしさが私を襲う。
そして、ニッといたずらを成功させた喜びの笑みを浮かべる少年の頭に、私は容赦なくげんこつを入れるのだった。
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その少年、「テル・リータ」、テルこと私の弟は頭への衝撃から、お約束かのように唸り声を上げながら、痛みに悶えて右へ左へと転がる。
テレビで女性が男性に何かしら卑猥な事をされた時に、それが故意かどうなのか関係なく思わず叫び声と共に手が出るという感覚を知れた…ようなそんな気がした。
今後は、故意どうこう関係なくそういう場面をテレビ等で見ても、わざとじゃないんだからとツッコミを入れられなさそうだ。
『兄弟姉妹、仲が良いというのはとてもいい事だ』
未だ顔の火照りが消えぬ中、孤児院の建物から出てくるエルンが、今の状況を見て楽しそうに笑顔を浮かべた。
考えてみれば、誰が何の目的で…なんて、考えるまでもたかったのかもしれない。
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エルンの楽しそうな顔を見てそれを感じた。
目的はともかく、テルとリルユがここにいるのは、彼女、エルンの差し金だろう。
そういえば、午前中の戦闘訓練の後、姿を見る事が無かった。
そして、それに連鎖して、彼女だけではなくドゥーの姿もない事に今更ながら気づく。
「妹は可愛い盛りで、弟はいたずら盛りか。ん~、なんとも賑やかな家庭だ」
「それはどうも」
リルユに関しては、俺が記憶している現実の雪奈と寸分変わらない様に思えるけど、テルに関しては俺の記憶している秋辰のそれよりも行動が激しくなっているような、そんな気がする。
単純に俺か私かの違いで、その行動に変化が起きているという考えもあるけど、それにしたっていたずらが下(しも)に走り過ぎているだろう。
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俺が同じぐらいの歳の時は、そういう事をしてこなかったから、余計にその行動に驚きを隠せない。
だから、不意を突かれるし、それに対して警戒心を作ろうともしないのだ。
早いうちにそれに対しての耐性を上げないと、いつまでも恥を掻く羽目になる。
「それで、何故2人がここに?」
とりあえず話題を逸らしたいという気持ちもあり、その間にこの顔の火照りが消える事を願いながら、私はエルンに尋ねた。
「何故と言われてもねぇ~。これでも私は君の事を大切に思ってるんだけど…」
「え、本当?」
「そこは、ありがとう…だろう、フェリ君。とにかく大事に思っている私は、これから軍に入り空いた時間を作りづらくなる君のために、少しでも家族と一緒に居てもらおうと、2人を呼んだのさ」
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「・・・ありがとう」
「少しの間が気になるけど、それはいい。両親の方は、まぁ仕事があるからね。来れなかった」
それでもテルとリルユ、その2人が来てくれた事は素直に嬉しい、でもエルンだからか、嬉しさを全開にするのに少し戸惑いがある。
「まぁ後はせっかくだから、君の弟と妹に孤児院の子達と友達になってもらおうかなとか思ってるのさ」
「・・・なるほど、2人が来れば私が喜ぶし、孤児院の子達も友達が増えて喜ぶ…か」
「そう、まさに全員が喜ぶ理想の流れという訳さ」
自慢げに胸を張るエルンに私は苦笑いを返す。
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「まぁ軍に入ってから時間を作れるのか、それは不安な所の1つだったから、2人だけでもよこしてくれたのは嬉しく思う」
私の服を掴んで離さんとするリルユの頭を撫で、エルンよりさらに奥、建物内からこちらの様子を伺う子供達に視線を送る。
昼食を取り終わった子供達は、同じぐらいの歳であっても、知らない相手であるリルユ達に人見知りのような反応を見せ、こちらに来る事は無い。
私は相手が孤児院の子供だろうが…、リルユ達だろうが…、何の差もなく接するつもりだけど、子供達からしてみれば、リルユ達は自分達と違って本当の家族がいる存在だ。
小さい子ならいざ知らず、シュンディぐらいの子にとっては、素直に受け入れられる存在と言えるだろうか?
---[47]---
リルユ達に会えて嬉しいという気持ちに隠れていているかもしれない不安が、脳裏に闇を落としていく。
私は、それが杞憂であってほしい、杞憂であってくれと願いつつ、2人を子供達と対面させた。
「私の弟と、そして妹」
「テル・リータ」
「りるゆ・りーた」
「「よろしくおねがいします」」
2人ともぎこちなさは残るものの、しっかりと自分の名前を皆に教える。
孤児院の子達は年少者を筆頭に年長者の後ろに隠れ気味になり、なかなか自己紹介をしてくれない。
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年長者と言っても、この孤児院の中の兄の位置にいるであろうフウガの姿はなく、次の年長者であるシュンディがその代わりになっている。
彼女は私相手ではなく、子供相手ならやりやすいのではと思ったが、これがまたぎこちなさが全開で、しどろもどろ、それはまさに予想外だった。
それを見かねた院長のトフラが、1人ずつ自己紹介をするように促す。
そういえば、私やフィア、イクシアが来た時も、すぐにトフラが話を始めてくれたから、子供達はすんなりと自己紹介をしてくれていたな。
「はい、では皆さん。自己紹介が済んだという事は、テル君とリルユちゃんとは今日からお友達、仲良くしましょうね」
鶴の一声、自分から率先してできずにいる子供達でも、トフラが前に出てくれれば難なくできるといった感じだ。
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『自己紹介はもう済んだ感じ?』
トフラの言葉に小さい子たちが手を上げて返事をした後、じゃあこれから遊ぼうか…といった雰囲気になりつつあったこの場に、フウガがドゥーと共に姿を現す。
「すいません院長、思った以上に作業が手間取ってしまって」
「いいえ、悪い事をして出た結果ではないのですから、謝る必要はありません。では子供達は自己紹介を済ませたので、あなたも」
トフラの言葉に頷き、フウガも自己紹介のためにテルとリルユの前に来ると、跪いて握手の為の手を差し出して、お互いが自己紹介しつつ握手をして、その自己紹介は幕を引いた。
最初は静かに遊んでいた子供達も、その柔軟性から、テルやリルユをすんなり受け入れてくれて、お祭り騒ぎのような騒々しさを遊び場に響かせる。
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すっかり熱の冷めたイクシアも、続きをやろうなんて事は言わず、素直に子供達の遊びに付き合っていた。
そしてそんな時間が続き、訓練程ではないにしろ、心地よい疲労感を覚え始めた頃…
「あのね、ここにくるときにね、おっきなくじらさんをみたの」
私、リルユ、エルン、フウガでキャッチボールのようなボールの投げ合い、時に蹴り合いをしているそんな中で、リルユは船の上から見たという巨大な何かを、その手を目一杯広げて表現しようとしていた。
クジラという単語に対して好奇心のようなモノが沸く、ただでさえ何もかもビッグサイズになるこの夢の世界で、そんなものが出たらその大きさはきっと島と見間違う程だろうと思う。
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「くじら? くじらっていうのは、あの背中から水を吹き出す奴の事かい」
リルユの言葉に、私以上に反応したのはエルンだった。
「そう。すっっっごくおおきいの」
「それはまた珍しい事があったもんだねぇ~」
「珍しい事なの?」
「珍しいさ。フェリ君はよく暇だからと釣りに出かけていただろう? その時、1度でもそういったモノを見た? 影とか、吹き出される水とか」
「暇だから…てのには何か棘がある気がするけど…。まぁそれはいいとして、無い…かな。見た事ない」
「だろうさ。クジラは、別の言い方をするならシマクジラなんて呼ばれててさ。その背中に家でも建てた日にはそこで生活ができて、やろうと思えば村だって作れる。そう思わせる程に大きい体を持っている。だから本島やこの島みたいな場所の近くにはあまり姿を見せない」
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「それだけ大きいなら、人間からしてみれば深い海でも、そのクジラからしてみれば島の近くは浅い海、だからその近辺に姿を見せる事が珍しいのか」
「まぁそういう事だねぇ」
もともと現実のクジラだって大層な大きさだろうに…、それがさらに大きくなって島クラスになったか。
それはまた…。
「い、今からまだ見れるかどうか確認しに行ってみますか?」
「今から? 別に構わないけど、いくら何でも今からじゃもう見えなくなっているだろう」
「それも…そうですね」
クジラを見たいと思ったのは本当、普段テレビのドキュメンタリー番組でしか見ないモノ、さらにその巨大版を見れる機会があるのなら見てみたいものだ。
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そんな中でフウガが、少々詰まり気味でぎこちなさはあったが見に行こうと言ってくれた事には感謝したい。
しかし、今の私はそんな好奇心よりも、リルユ達と遊ぶ方が優先される面持ちだ。
だからそれなりの理由をこじ付けてあしらう。
「とにかく珍しい存在だからねぇ~、クジラは。もしかしたら他の何かかも」
「他?」
「まぁ生き物なんて色々いるから、見間違いかもしれないよ」
「でも、そういう夢を持つのはいいじゃない。子供だからこそ、目を輝かせてほしいわ」
「そうだねぇ~、確かに。」
その後も何か変わる事は無く、日が暮れるまで子供達は遊び倒し、大人達はそんな子供達に付き合い尽くし、昨日の筋肉痛を伴うような大変な疲労感とは違う、達成感に満ちた疲労感が私には満ちていたのだった。
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