第五章…「その変わりゆくモノは。」


 今日も今日とて、孤児院の遊び場では金属同士がぶつかる音と、子供達の歓声が響き渡る。

 昨日の、八つ当たりともいえるイクシアの絞り訓練のせいで、腕周りは見事に筋肉痛を発症させ、いつもより得物を握る手に力が入らない。

 それなのに、今日は不思議と負けと言える状況に陥っていなかった。

 心機一転、せっかくフェリスの装備が戻って来たのだから、昨日の八つ当たり時と一緒で今日もその装備を身に纏い、イクシアとの戦いに挑んでいる。

 しかし、マシな戦いをしているとはいえ、相変わらず1つ1つの挙動にはいつも通りの遅れが見て取れた。

 防御する時、攻撃をする時、必ずと言っていい程に出が遅れているのが自分でもわかる。


---[01]---


 相手の攻撃に対して、それは防御すべきものなのか、それとも避けるべきなのか、カウンターを狙うべきか…。

 常に頭の中は、戦闘手段ごとの派閥が激しい言葉のぶつけ合いを繰り広げ、その末に結論が出ず、気が付けば、避ける事もカウンターをする事も叶わず、防御一択の状況が出来上がる。

 攻撃も同じだ。

 どう攻めるかがハッキリせずに、気が付けば軽々と防がれて反撃される…、にもかかわらず、やられず立ち続けられているのは、私が成長している証か…、それとも、私の表に出てこない気持ちの問題か…。

 そういえば、筋肉痛や疲労感は確かにあるけど、それでもいつもより体が軽く感じる。


---[02]---


 だから、仮定ではあるけど、答えは後者じゃないだろうか。

 何もかも、知らない、知らないから来た答えではあるけど、昨日今日で経験値がラインを越えてレベルアップする…なんて、ゲームみたいな事起こる訳がないんだから。

 夢だから可能性はあっても、今までそういう事が無かったのだから、その考え自体間違いだ。

 振り下ろされるパロトーネで作られた疑似武器、その槍斧を正面から受け止める。

 体重を乗せ生半可な体勢では積木を崩すが如く、あっさりと叩き倒されるだろう。

 それがもし本当の死闘だったら、私の体は一瞬で真っ二つだ。

 でも、これはそうならない様にするための戦い。

 一度は正面から受けた攻撃、その衝撃を全て受ける事はせず、自分の持つ剣を斜めにし、衝撃の逃げ場を作る。


---[03]---


 それからは無意識だったけど、その効率を少しでも上げようと体を捻り、そして横へと体をずらしていった。

 相手のイクシアは、驚くまではいかないけど、その表情に僅かな変化が見てとれる。

 そして一番驚いているのは自分自身だった。

 キイイィィーーンッという金属の擦れる音が、耳元から私の聴覚を奪おうとでも言わんばかりに突き刺さってくる。

 同時に、剣を握る手にかかっていた重い力が無くなり、攻撃の衝撃に耐えるために前に重心を置いていた私は、指を外された弓につがえられていた矢のように、前に飛び出し、イクシアの横をすり抜けるように横切っていった。

 初めての動きに戸惑い、転びそうになる体を何とかとどめて、振り返りながら剣を振るう。


---[04]---


 姿勢は崩れ、踏ん張りも効かず、振り返る勢いと腕の力だけで、強引に振り回される剣。

 たぶん普通の人間相手だったら、そのまま背中を斬る事ができただろう、しかし、イクシア相手ないし竜種相手に、それは希望的観測に過ぎない。

 その瞬間、鉄のように硬い鱗と甲殻を持つ尻尾が、鞭のように動き、私の振った弱々しい剣は、容赦なく叩き飛ばされる。

 剣は手から離れ、尻尾の攻撃を受けた衝撃から、私は飛ばされるように転がった。

 それは一瞬だったが、その時間はイクシアに体勢を立て直す時間を与え、開いた私との距離を一瞬で詰めさせる。

 私は、地面を転がる勢いを力に、その場に倒れ込まず、姿勢を立ち上がるまではいかなくてもしゃがんだ状態で、幾ばくかの動きやすい状態に持っていく。


---[05]---


 アニメとか漫画とか、そういったやつの戦闘シーンでよくある、寝ている状態からスッと勢いをつけてジャンプするように立ち上がる…みたいな事ができたら、もっと状況は変わったかもしれないけど…、それはできない、今の私の顔には少なからず悔しさの色が出ている事だろう。

 メインの剣は手元を離れ、後方に飛んでいった。

 イクシア相手に逃げる事は無理、攻撃するにしてもリーチの差で不利。

 こういう時、イクシアの左手のように鎧よりも硬い腕を持っていたらと思う。

 まぁ、それは無い物ねだりが過ぎるというモノだが。

 私は逃げる事はせず…というかできないから、そのままイクシアに向かって突っ込む。


---[06]---


 立ち上がる時間も省き、しゃがんだままの状態から飛び上がるかのように一気にだ。

 ぶつかり合う2人の眼光、主にイクシアだけど、お互いが相手を捉えて離さない。

 容赦なく槍斧を横に振り払おうとする彼女に対し、私は突っ込むと同時に自身の左の腰に着けてあったモノへ右手を伸ばす。

 握った感触は若干の違和感があって本物に劣るけど、その太さ、指の置ける位置、それぞれはなんだかんだ言って手に馴染んでいた。

 握り方は間違っていないか…、ちゃんと握れているか…と、いつもなら余計な事を考えていたのに、そんな不安は一切なくて、私はそれを収まった場所から引き抜いて、そのままの勢いで、イクシアの攻撃に合わせて振り上げる。

ガアアアァァァーーーンッ!


---[07]---


 まるで大岩でもハンマーで叩いたみたいな衝撃が、手から体全体に伝わって、体感ながら自分が鐘にでもなったかのように振動した。

 左手に握ったモノ…、昨日軍基地で返却された短剣の1つ、折れた剣ではない方…、山でツタを切ったりするような、言うなれば鉈のような形で剣のような切っ先は無く、刃渡りは折れた剣とどっこいどっこいではあるけど、折れた方と違って持ち手、柄の部分は片手分だけ、こちらは片手で扱う事を前提にした作りになっていた。

 重さは、他の短剣と呼べる代物よりもかなり重く、それを証明するかのように、その刃の厚さは短剣の倍近い、下手をすればそれ以上だ。

 イクシアの攻撃をずらすために振るった事で、より一層、その剣が何のためにあるのかを理解できた気がする。


---[08]---


 イクシアの攻撃は、容赦なく相手の得物を破壊し、鎧や盾を砕くモノ。

 実際の戦闘…死闘を見た事がある訳じゃないけど、疑似的にその攻撃を受けていたからそういうモノだと、私の本能が告げている。

 その攻撃は大げさで極端な例のかもしれないけど、とにかくこの短剣はそういった攻撃を防ぐために持っていたモノなんじゃないか…と思う。

 そうでなきゃ、わざわざ刃の厚さを増やして強度を増す意味が無い、厚さが増せば増すだけ、切れ味が落ちるんだから。

 今までも、攻撃を防ぐ事はあっても、それが連続する事は無い。

 そのせいなのかどうなのか、イクシアの表情には驚きの色は消えないものの、口元が笑っているように見えた。


---[09]---


 戦いという意味では、こちらは楽しくないけど、この短剣の事とか、フェリスの戦い方がわかってきたみたいで、それは嬉しい。

 正解かどうかは…、わからないけど。

 とにかくイクシアの攻撃は上へと反れて、何とか私の頭上を越えていく。

 得物が大きい分、いくら力があっても次の攻撃に移るには時間が掛かるし、一度崩れた体勢を立て直すのなら、尚更得物の小さい私の方が速い。

 おまけに彼女へと突っ込んでいった勢いも消え切らず、前へと進み続けている。

 短剣を抜き、斬り上げた勢いのせいで、左から右へと力が移動し、思うように体を動かせないけど、左手だけは自由だ。

 私はまるで条件反射かのように、迷う事無く左手で握り拳を作り、右足を踏ん張る。


---[10]---


 全てをその瞬間の勢いに任す。

 物理的にも、精神的にも、身を任せて、その拳を振り抜いた。

 さっきの振り返り様の攻撃と一緒。

 なんてお粗末な攻撃なんだ…、私は誰かに笑われているようなそんな気がしてならない。

 狙う場所なんて決めている余裕はなく、私の拳はイクシアのお腹目掛けて突進していった…が、それは寸での所で手首を掴まれる形で受け止められる。

 イクシアの左腕の爪が私の手に食い込む。

 それはいつも以上に力が入っている事を証明するモノだったが、それに対して私が何かしらの感情を抱くには時間が無い。


---[11]---


 手を掴まれるという事は動きを封じられるという事、身動きが取れなくなった結果、好戦できたと思いたい戦いはあっけなく、そして一瞬で終わりを告げる。

 綺麗な青空を見て…、そして背中に強い衝撃が襲うのだった。

「今日も空は綺麗だ…」

 負けた事は悔しい。

 何回負けていても、その感情だけは一向に慣れないし、次こそは…なんてやる気が湧いてくる。

 でも、そういう事を口にしたくなくて、ただ目に映るモノを口にした。

『いつにもまして、空を綺麗に飛んだじゃないかなぁ~?』

 仰向けに倒れる私を見下ろすエルンは、楽しそうに笑みをこぼす。


---[12]---


「イクシアの奴、君が善戦するものだから、自然と力が入ったのかな?」

「それでも、終わりは一緒だ」

 だからこそ、私はこうしてこの場に倒れている。

「まぁそこはどうしようもない。体に染みついたモノは消えずに残っていても、結局は何も残っていない訳だし」

「・・・それはどういう…」

「ゼロから出発してるのに勝てる訳がないって話。ましてやイクシア相手にはね」

 そう言って、今度は覗き込むかのように、彼女はしゃがみ込む。

「そう言われてもな」

「そうだねぇ~。君は、昔の自分がどういう戦い方をしていたのかを知らない。強者であった自分が最適解と考えた戦い方を知らない、わからないのだからそれも当然」


---[13]---


「どうすればいい?」

「それはもう、何回、何百回とイクシアに飛ばされるしかないねぇ~」

「改めて言われると怖い」

「それはそうさ。誰だって怖い。君が目覚める前、イクシアの戦闘訓練をやらされていた連中の半分は怖がって辞めていったんだから」

 それは初耳だ。

 初めて見たイクシアの戦い、その相手達は私の比ではない程の吹っ飛び方をしていた。

 今の私が感じている以上のモノが、あの人たちに襲い掛かっていたのだとすると、今からあのレベルに達したイクシアとの戦いに身が震えてしまう。


---[14]---


 もちろん、武者震いではなく恐怖で…だ。

「でも。君には体に染みついたモノ、記憶が消えても消えない技術が確かに存在する。後は、経験だ。それはつまり」

「何度でも飛ばされて一歩ずつ…か」

「そういう事」

 いくら怪我をしないと言っても、自分に勢いよく向かってくる武器というのは怖いものだ。

 それが序の口の力だと知ってしまえば尚更。

 激辛ラーメンを食べる時、1口目でその辛さに恐怖し、2口目でその恐怖に箸を握る手が震えるのと一緒。


---[15]---


 例えのせいで、なんかしょぼいモノと感じてしまうけど、とにかく私が言いたいのは、恐怖は意識して制御できるモノではないって事だ。

 そこに大も小も関係ない。

 引っ張るが、ラーメンはその辛さに逃げてしまいたい、残してしまいたいという感情があっても、それを凌駕するほどの食べたい、残せない、残したくないという欲求に突き動かされて、辛さに抗いながらそれを食べ尽くす。

 なら、何度やられても再び剣を取り、そして戦おうとする私は、戦う事に対しての恐怖をいったい何で凌駕しているのだろうか。

 確かに私にも守りたいモノ、存在はあるけど、普段、イクシアと刃を交える時、それを意識する事は無い。


---[16]---


 なら、どこから強くなろうという衝動が沸きあがっているのだろうか。

 俺の…私の潜在意識からか?

 とにかく、自分でもわかっていないモノのおかげで、その恐怖に対して戦えている。

 今はそれだけわかれば十分…だと思う。

 早く動けるようになれ、そう願いつつ力を入れていた指がピクッと動く。

 それに気づいたエルンは1歩2歩と後ろへ下がり、心もとない立ち上がり方、よろよろと腰の悪い老人のように立ち上がる私に、新しいパロトーネを投げ渡した。

 短剣を作って腰の鞘に収め、メインとなる両手剣を作り出す。

 今まで、ただ戦って強くなろうとしていた。

 RPGのゲームでレベル上げになんの意識も持ち込まず、ただ強くするために同じ事を繰り返すのと同じように。


---[17]---


 でもエルンと話をしていて1つ思った事がある。

 体に染みついた技術はあっても、それ以外は何もないという事、技術という土台だけがそこにあって、上には何もない。

 という事は、その土台を元に自分なりの戦い方というモノを作り上げられるという事だ。

 フェリスという戦士の真価を発揮できる戦い方はわからないけど、俺という俺の性に合ったモノはわかる。

 本来の戦い方に手が届かなくても、劣ったとしても、今は前に進んでいく事を優先しよう。

 そもそも、この夢が大層面倒くさいモノだという事は、今までの生活で分かっているはずだ。


---[18]---


 他人は思い通りに動かない…、自分も何でもできるという訳じゃない…、世界も不便な事が多くある。

 最初から思っていた事だが、現実と大差ない夢なのだから、そこで成す事も夢という物差しではなく、現実という物差しで測っていくべきだ。

 この戦闘訓練も、ただやるだけでレベルが上がっていくなんて、そんな夢物語を敷くのがそもそも間違っている。

 間違いだらけだ。

 フェリスの武器が手元に来て何かが変わった。

 これを気持ちの問題とだけ思って終わらせないために、ここを1つの分岐点としてトゥルーエンドになる選択をしようじゃないか。


---[19]---


 そして再び響き始める戦闘音は…、必ず最後はお約束とでも言うかのように、私が叩き飛ばされて終わるのだった。


 パロトーネで作られた武器による負傷は無い。

 でもそれ以外、地面とかを転がったりした時にできる擦り傷とか、それ以外の攻撃による傷は普通に負うものだ。

 イクシアとの戦闘訓練が終わった後、体中に擦り傷なり打撲の痕ができている。

 でも、そのほとんどが治りかけで触れれば痛いけど、そうしなければ生活に何の支障もない状態…、その回復を可能にしているのが、フェリスの装備、治癒の布で作られた戦闘服だ。

 昨日、フィアの話を聞いていた時は正直半信半疑だったけど、こうやって効果を示されると信じずにはいられない。


---[20]---


 痛みに慣れたから…という可能性はあるけど、戦闘訓練を始めた時と比べて、筋肉痛も和らいでいる…ような気がする。

 そして今は、ちょうど孤児院の子供達が昼食を食べ終わるだろうという昼下がり。

 子供達の食事をする音をBGMに、私はフィアの治療を受けている最中だ。

 治りかけているとはいえ、治りきっていないからこそ油断は禁物なのだとか。

「服のおかげで治療する傷が少なくなった事は良い事ですが、なんか寂しいですね」

「世話のかかる子供が自立したと思えば…」

「治療する必要が減っただけで、怪我をしなくなった訳じゃないので、フェリさんが言おうとしている事が間違っています」

「そうですか…」


---[21]---


 遊び場の隅に腰を下ろして治療をされている中、視線を遊び場の中央に向ければ、そこにはイクシアがパロトーネで作られた物ではない、本物の自分の武器を振り回していた。

 昨日、自分の元に届いて、ついやってしまった舞のような…綺麗な魅せるためのモノではない、実用性を考えた技を反復練習のように、何度も何度も、何かを思い出すかのように、イクシアは武器を振り回す。

 荒々しくも、ブレの無い一撃一撃はある意味で綺麗なモノだ。

 あ~やって自分の技を極めたのだと思うと、こちらの競争心に火が付きそうになる。

 現実での俺は部活…というかサークルには入っていないから、普段感じる事のない感情と言えるだろう。


---[22]---


「昨日のやつもすごいと思うけど、今のあれも魅入るモノがある」

 治療が終わり、私は違和感が無い事を確かめつつ、何気なく思った事を口にした。

 その言葉に反応するかのように、治療道具を片付けていたフィアからは笑いがこぼれる。

「イクは昔からあんなです」

「昔からというと?」

「私の口からは言える事は限られますが、そうですね。イクは魔力機関が成熟するずっと前から、強くなろうと努力していました」

「それはまた気が長い」

 この夢の世界での年齢というモノは、ややこしくて逆算が難しい、正確なモノはわからないから、ざっくりと計算してもイクシアはあれを10年以上続けている事になる。


---[23]---


「昔から重たい棒を片手に、空いた時間にはいつも振っていて、やり疲れてその場で寝ているなんて事もあったりしました」

「そこはなんか想像できる…かな」

 フィアに対しての行動を見ていて、一途な事に対してまっすぐに突き進む印象の強い彼女。

 だからこそ、そんな昔からやり続けている程に、私には計り知れない大きな目標があるのなら、疲れてその場で寝てしまうなんて事、簡単に想像がついてしまう。

「でも、昔から重い物を片手で振ってる割には筋肉がついていないような…。右腕だけ丸太みたいになっていてもおかしくないと思うけど…」

 今もあんなに大きな得物を振るっていて、昔からそんな事をしているにしては、肉体的には普通というか…、筋肉隆々という訳ではない。


---[24]---


 全裸を見た事があるからこそ言えるが、彼女はボディビルダーのような体では一切なく、見た目年齢相応の肉付きというか膨らみがあったと思う。

 体を動かす事をしているからこその引き締まった感じはあったけど、それでも女の子らしい体付きだった。

 フィアと比べてしまえば、明らかに鍛えていると思える筋肉は付いていたけど…、お腹周りとか、

「それはそうですよ。イクだって、腕や体の力だけで武器を振ったりしている訳ではないですから」

「・・・、そうなの?」

「はい」

 これはまた、にわかには信じがたい事を言われたものだ。

 でも、魔力というモノが存在して、それを利用したパロトーネや、この言うなれば魔法の服のようなモノが存在する訳だし、あり得ない…と否定する事も出来なかった。


---[25]---


「魔力は性質に関係なく身体能力を向上させる効果もありますから、重い物を持ち上げるとか、普通に跳ぶよりも高くまで跳べる事ができるのです」

「なるほど、だからあの槍斧を軽々と振り回せるのね」

 一度魔力に関しての講義を、1日かけて受講してみた方がいいんじゃないか…と思える事案だ。

「フェリさんも、同じような肉体強化をイクとの訓練の時にやっていますけど、もしかして気付いていなかったのですか?」

「・・・なるほど」

 フィアの疑問に対しては、気づいていなかった…と即答する。

 しかし、それを言われて納得がいった。

 フェリスの体だってお世辞にも筋肉隆々な訳じゃない。


---[26]---


 自分の剣を持った時、素直に重いと感じたのに、いざ戦闘を始めた時には難なく振り回していた。

 つまり意識せずとも肉体能力を向上させていた結果なのか。

 子供の頃、金属バットを振った時にその重さを扱いきれずに、その場でクルクルと回って尻餅をつく…、そんな昔の記憶が呼び起こされる。

 能力が向上できていなかったら、フェリスもそうなっていたのかもしれないな。

 それだけ、剣は重いと感じられるモノだった。

 そういう事をできるようにして、昔から何年も何年も強くなろうと努力して手に入れた力、守るという意味で、その使う先をフィアに向けている辺り、イクシアの彼女に対する感情は本物だな。

「もはやイクのフィーに対しての好きは、友人とか親友とか、幼馴染に対しての好き

をはるかに凌駕してるな」


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