第17話 提案

 学と別れ、自分の家に着いたのは10時過ぎだった。

 この世界では、父さんと母さんはいなかった。

 赤の他人がいても変な感じもするし、逆にこれでよかったのかもしれない。

 とりあえず、休める寝どころさえあればなんとかやっていけるだろう。


 今日は色々ありすぎて、さすがに身体も悲鳴をあげたらしい。

 ベッドに入るといつの間にか眠ってしまった。


 起きたのは次の日の朝だった。

 軽く朝食をすませ、真は学校に行く準備をする。

 玄関を出ると学が待っていてくれたので一緒に登校する事にした。


「疲れはとれた?」

「あー、なんとか。けど、起きてみてわかった。昨日のことは、やっぱり夢じゃなかったんだな。起きて元に戻ってると思ったのによ」

「まー、現実はそんなもんでしょ。甘くはないよね」


 この世界に来てそれほど日数はたっていないはずなのに、すでに一週間ほど過ごした気分だった。

 まだまだ違和感は残るけど、あと何日かすればなれるのだろうか。

 そんな事を思いながら、学と一緒に学校へ向かう。


 天気は晴れ。映画の世界なのにまるで現実のように錯覚させられる建物たち。

 それがやけに不安を掻き立てるのだった。


「とりあえずさ、一と響は俺たちのことを覚えてないから今まで通りってのは無理な話だから。違和感ないように 、今はハジメとヒビキって呼んだ方がいいと思う。それと俺たちもこの世界では、マナブとマコトだ。ちょっと大変だけど、慣れていこうか」


 学、いや、マナブの提案に反論する理由はなかった。

 今は寂しいけど、これが1番無難だった。

 

「わかった。他はなにかあるか?」

「今のところは、名前だけかな。あとは俺たちはこの世界について知らなさすぎる。一先ず情報収集が必要だと思う」

「ヒビキが言ってたけど、現社の授業でこの世界について色々教えてくれるんだろ?」

「そうだね。それも1つの情報を得るためのルーツとして聞いておいた方がいいと思う。あとは、そうだな……」


 顎に手をおきながら、マナブは頭をひねる。

 マナブに頼りすぎはいけないと思い、マコトも考えを巡らせた。

 そこで思いついた。危険かもしれないが、どうしても行ってみたい場所があった。


「なー、マナブ。この街にはさ、結界みたいな物が張られてるって言ってたよな?」

「そうだけど」


 怪訝そうな顔が見えたが、気づかぬふりをして話を進めた。

 恐る恐る声を絞り出す。


「そのさ、結界が張られてるギリギリの所まで行ってみたいんだけど」


 2人の間に沈黙が走った。

 ただ黙々と歩く足音だけ聞こえる。


「いや!ダメだったらいいんだけどさ。ほら、危険だって言ってたし……」


 慌てて自分が言ったことを取り消すようにマコトは言葉を紡いだ。

 それは、あまりにも大胆な発言だったからだ。

 言って後悔するとはまさにこのことだ。

 自分の愚かさが手に取るようにわかり、マナブの方を見れないでいた。


「アリかもしれない」


 聞こえた声に思わず頭をあげる。

 耳がおかしくなってしまったのかもしれない。


「そうだね。行ってみるのもいいかもしれない。もちろん危険も伴うけど、この世界がどうなっているのか知るには手っ取り早いと思う」


 ビックリして、マコトはその場に立ち止まってしまった。

 心臓の音が早くなっているのがわかる。

 マコトは焦って、マナブに問い詰めた。


「ホントにいいのか⁉︎ 危ないかもしれないんだぞ」

「言い出しっぺはマコトでしょ。それにその案は案外悪くないかもよ」


 目を見開きマナブを見る。

 安全の保証はないのに行こうと行ってくれるマナブは、やっぱり頼もしい。





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