第16話 この世界は
どれくらい泣いていたのだろう。
泣き腫らした目は重い。
情けないという気持ちが胸の中に残る。
17歳の高校男子が大泣きした現実。
恥ずかしくていたたまれない思いになり、真はまともに学の顔を見ることが出来ないでいた。
「さてと、ちょっとは落ち着いた? はい、ティッシュ。まだ泣き足りないのならどうぞ」
そう言って学はティッシュ箱を押し付けてきたので、真は顔を真っ赤にして押し返した。
「もういいわ! ありがとう、泣かせてくれて!」
「なに怒ってるの。いいんだよ、もっと泣いて。後からまた泣かれても困るし」
「もう泣かないっての!」
噛み付かんばかりの顔をして、言い返した。
「そ、ならいいけど」
学は押し返されたティッシュ箱をはじに置き、机に置いてあったコップに口をつける。
一口飲み、天井を見上げた。
「なんなんだろな、この世界は。俺も最初、意味わかんなかったよ」
唇をギュッと結んでいる。
その一言は、心が締め付けられるような息苦しさを感じさせるものだった。
真は、息がつまるおもいで、今1番聞かなければいけないことを学に問いかけた。
「学はこの世界の事なにか知ってるのか?」
学はゆっくりと首を横に左右に振った。
「わからない。けど、わかってるのは一と響が記憶をなくしていること。それと、俺の推測が間違ってなければ」
そこまで言いかけて、学は口を閉ざした。
「なんだよ、学。言えよ。今は少しでも情報が欲しい」
真の言葉を聞いて、学は意をけしたように話し始めた。
「たぶん、いや。間違いなく、俺たちは映画の世界にいる」
周りの音をすべて持ち去られたような静けさだった。
呼吸音がうるさく聞こえるくらいだ。
「、、、は? んな、わけ。あるわけ、、、」
それ以上言葉が続かなかった。
何故ならその可能性を否定できなかったからだ。
「この街の風景、俺が昔みた映画の映像とソックリなんだ。俺たちがいた街が模範になってる。その映画がこれだ」
「どうりで見知った風景なはずだ」
ようやく腑に落ちた気分だった。
頭の中のモヤモヤが晴れていくような感じだ。
「全部が全部、その通りってわけではないけど、所々組み込まれている」
学は静かにけれど、淡々と話してくれた。
映画の中の世界。
にわかに信じられないけれど、この状況からもはや疑う余地はないだろう。
その時、真の頭の中で考えがよぎった。
「ん?って事は、この映画を完結させれば、俺たち元の世界に戻れるんじゃない!?」
そうだ。映画の世界ならそこに物語がある。
行き詰まっていた思考に一閃の光が差し込んだ。
「そうだと思うけど。肝心のストーリーがわかんないから、俺たちこれ買ったんじゃなかっけ?」
けれどその光は、瞬く間に消えてしまった。
一気に表情が硬くなってしまう。
「てか、そもそもなんで学は記憶をなくしてなかったんだ? 一や響は忘れてるのに」
「それは、たまたまポッケにこれがはいってたからだろう」
学はポッケから取り出し、机の上に夏期講習の予定表をおいた。
「現代のこの時代にないものがあったから、俺は記憶を忘れずに済んだと思う」
「つまり、俺たちの世界に関するものが側にあったから助かったのか」
一や響が記憶を忘れているのは、これらの類がなかったからだ。
だから映画の世界の人物として置き換えられてるわけか。
「真が俺たちのことを覚えてたのも、そのせいだろ?」
「………俺は、いや。学みたいにあっちの世界に関する物なんてもってないけど?」
2人の間で静寂な空気が漂った。
まるで言ってはいけない事を口にした時のような重たい空気が2人を包む。
「まー、なんにせよ。この世界に1番遅く来たのが真だったわけで、それが良かったのかもな。最後まで抵抗してたから、記憶を無くさずに済んだのかもしれないし。一先ず、ラッキーだったと思っとけばいいんじゃないかな!」
あくまでもポジティブに物事を捉えようとしているのが見え見えだった。
この状況だから、そう思うしかないのだろう。
「とりあえずさ、これからどうするか考えようぜ」
今はあれこれ悩んでも仕方がない。
これからどうするかが先だった。
真の意見に学も賛成だったのだろう。
真剣な表情をしたいつも通りの学がそこにいた。
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