第11話 寄り道2

 色々整理したい事は山ほどあったが、さっきのヒビキの話によると授業を真面目に聞いておいた方がいい事が分かった。とりあえず、今は残りの授業に集中した。けれど、数学、国語、オーラルコミュニケーションと、この世界に関する情報を得られる事はなかった。銃撃が起こる前の授業は、たしか現代社会だったはずだ。


 空都は次の現代社会の授業がいつあるのか、黒板の横に貼ってある予定表をみる。


「明後日か」


 頬杖を突きながら、手を口にもっていく。

 明後日になれば、何か情報が得られるかも知れない。

 何も知らなければ、動く事が出来ない。

 心の中で「よし」と意気込み、動く準備をしなければと決意を新たにしたのだった。


 一日の授業が終わった。生徒が各々に帰り支度をする。

 教室の中は、ガヤガヤしていた。ハジメとヒビキは鞄を持って、こっちにやってきた。


「かえろーぜー」


 自然と4人が集まる形になった。


 (この世界でも、俺たち4人は一緒に帰っていたのか)


「とりあえず腹減ったし、なんか買っていつもの所行こうぜ」

「さんせー、俺も腹減った」ヒビキはお腹をさすりながら、ため息をついた。


 マナブは何も言わなかったが、教科書を鞄にしまいながら話を聞いていた。

 どうやら行く気はあるみたいだ。

 真は、みんなが言う(いつもの所)がどこか分からなかったが、とりあえず今は3人に着いていく事にした。


 

 (いつもの所)に行く前に、4人は駄菓子屋によった。

 そこは、この世界に来る前に寄り道したコンビニだった場所だ。


 今は、駄菓子屋だが...。


 やっぱり少し違和感を感じた。

 真がそう思っていると、3人は慣れたように店の中に入っていく。

 真は置いて行かれないように、後を追った。


 店内は少し古びている。

 玄関の一間をお店にしているような感じで、奥には生活感漂う一室が見えた。

 右には、木製の棚が置いてあり、外には自動販売機が置いてあった。

 左隣には、アイスの入ったクーラーボックスが頓挫されている。

 3人は、靴を脱いで「お邪魔しまーす」と声をかけ、段差を一段上がる。

 玄関で靴を脱いで、家の中に入っていくみたいに。


 上がった先には、木製の棚が2つ。

 メジャーなお菓子から、マイナーなお菓子まで所狭しと置かれていた。

 その棚をぼーと眺めていると、隣から気配を感じた。


「今日は、なにを買うんだい?」


 年を召した女性の声が聞こえた。

 真にとっては初対面の方だ。

 言葉が出ず黙っていると、隣から助け船を出してくれた。


「ばーちゃん、おじゃましてまーす!」


 ハジメの元気な声が店内に響いた。


「おじゃましてます」

「どうも」


 ヒビキ、マナブがそれぞれ声をかける。


「あんたら4人は相変わらず仲良しだねー」

 仲がいい事はええことじゃと、女性は頷きながら笑顔を浮かべ読みかけの新聞に目を戻した。


 すぐに店内は、騒がしくなった。

「俺これ」とハジメがいつも食べているのだろう。お目当ての駄菓子がすぐに見つかったようだ。

「相変わらず、ハジメはそれ好きだよな」ヒビキは呆れながらハジメが手に取った駄菓子を見る。

「いいだろー、別に。旨いんだから」


 真は、2人が騒いでいる方を見た。

 この光景も、あっちの世界と同じだなと思いながら、ハジメが手に取った駄菓子に目を向けた。

 彼がが選んだ物は、スナック菓子だった。


 真は目を見開いた。

 ここに来る前も、ハジメは同じ物をコンビニで買っていたからだ。

 そんな偶然はあるのか。いや、たまたまかもしれない。


 あれこれ考えているといつの間にか、ヒビキは棚に視線を戻しまるで目当てのものがあるかのように棚をジッと見ていた。


「あった、あった」

「俺もこれにする」


 ヒビキが手に取ったものはグミ。マナブはチョコレートの駄菓子を。

 これもあの時と同じだった。

 真は、3人が談話している方を見ながらこんなわけが分からない所なのに少しホッとしていた。

 久しぶりに彼が知っている〈一、響、学〉に会えた気がしたからだ。

 涙が出てきそうだったので目をぎゅっとほそめ、真は駄菓子が置かれている棚の方に目を戻した。


 棚に並べられている駄菓子を端から端までじっくり見る。正直迷っていた。

 あの時、手に取った駄菓子がある事は気づいていた。

 けれど、手に取っていいのか迷ってしまう自分がいる。

 これを手に取った所で、今の現状が変わるのか分からない。

 けれど、何か、何か変わればいいなという願いも込めて、ガム4種類をそれぞれ手に取った。

 手に取りながら、ふとおもった。


「俺はあの時、手に取ったガムをどうしたんだっけ?」4種類のガムを見つめる。

「おーい、マコト。決まったなら早く会計済ませろよ」


 ハジメの声に「すぐ行く」と、お婆さんの方へ歩いていきお金を渡した。

 40円。たった40円、いやされど40円か。

 このお金で何かこの先変わればいいなと願わずにはいられなかった。



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