第10話 攻撃の校舎

 正直授業の内容なんて頭に入ってこなかった。

 真は、手元にあるノートに今持っている情報を書き込んでいた。


 現実と書いてそれを丸で囲む。

 その下に、一、響、楽と映画を見ると書く。

 その現実から矢印で線を引き、?の世界と仮定して丸で囲む。その下に、一→ハジメ、響→ヒビキ、学→マナブと書く。またこの世界で得た情報を付け足していった。


 この世界が、なんなのか。確かに言える事は、俺たちがいた現実の世界と、ここはよく似た世界だという事。

 考える仮説は2つ。よくあるパラレルワールドというやつだ。

 そして、もう一つ。あの時、俺たち映画を見ていた。

 映画を見ていて、気づいたらこの世界にいた。

 という事は、ここは映画の世界かもしれない。


 どちらの線だとしても、この世界から出る方法がわからなかった。まさに、打つ手なし。真は、ペンから手を放した。


 離れたペンは机の上を、コロコロと転がっていく。

 いつまでたっても転がるペン。


 その時、ゴゴゴという音が教室中に響いた。

 爆音のような鋭い音が耳を貫く。

 校舎内にサイレンの音が鳴り響く。


「またか」

「おい」

「今回はやばくね」

「いくか」


 そんな声が周りから聞こえた。


「はい、静かに‼ 落ち着いて、地下に移動‼」


 担任らしき声が聞こえた瞬間、次々に窓ガラスが割れた。

 真は、咄嗟に机の下に隠れた。

 机の脚を両手でぎゅっと握る。

 手汗がひどい。息がしずらい。呼吸をする仕方を忘れてしまったみたいだ。息が荒くなる。全身の汗が止まらない。


「おい、なにやってんだよ! こっちだ!」


 マナブの声がして、真は床に這いつくばって教室を移動する。


 何が起こっているのか、正直分からなかった。

 手と足が一緒に出てしまう。

 何かで攻撃されている。さっきチラッと窓の外を見たけど、人影みたいなものは見えなかった。けれど、銃のような何かで撃たれている。あれは人を傷つける物だと、真は理解していた。


 廊下に出たが立ち上がって歩くことは危険だというので、中腰で歩いていく。

 担任らしき人が案内して、生徒たちを移動させていく。

 真は、近くにいたマナブの後ろをついて歩いた。

 その前の方に、ハジメやヒビキもいる。

 校舎の地下という所に、生徒が詰め込まれた。

 真は、ハジメとヒビキとマナブの側に座った。

 4人が集まる形になった。


「はぁー、毎回の事ながら疲れるわー」


 ハジメは自分の手を団扇代りにして扇いでいた。


「まぁーなー、けどそれはどうする事も出来ない事だからなー」


 ヒビキが天井を見上げながら答える。


「な、あれってなんだ? 攻撃されてるのか?」


 真は、なるべく平然を装って3人に質問した。


「まー、攻撃っていったら攻撃かなー。ってマコトさっきの授業聞いてなかったのか?」

「いや、まぁー」真は言葉を濁した。

「この町は、今何かに攻撃されている。その何かは、まだわかってない。人か、はたまた目に見えない何かか。わかってるのは銃声や爆撃が起こるって事だけ」


 ヒビキは話を続ける。


「まー、けど普段、この町は守られててさっきみたな攻撃はまれだ。いつもは起こらない。時たま起こるわけ」

「けど、今回の攻撃はいつもよりひどかったな」


 ハジメがポツリと呟く。


「ああ」

「そうだね」


 とヒビキとマナブが表情を固くした。


「攻撃されてるって・・・。ここは安全なのか?」

 思わず切羽詰まった声が出てしまう。


「ほんとに、何も聞いてなかったんだな。いいか。基本的にこの町を覆うようにバリアみたいなのがあるんだよ。そこが破られる事は滅多になんだけど。ま、今日はたまたま破られて攻撃されたって事。昔から、聞かされてたじゃん。バリアがあるから、俺たちは安全だって」


 ヒビキが大丈夫だと言い聞かせるように真の肩ポンと叩く。


「まー、その恩恵にあずかっている代わりに、町の外に出られないけどな・・・」

 

 今まであった張り詰めた空気を切り裂くように、ハジメがポツリと呟く。


「まぁ・・・」


 マナブが深刻そうに声を出した。


「守られる代わりに、自由がない。それってどうなんだろな。町の外ってどうなってんだろな」

「おい、ハジメ。やめとけ。誰が聞いてるか分からないってのに」


 ヒビキがすかさず、ハジメを止めた。ハジメは、不満そうな顔をしたけど、これ以上口を開く事はなかった。


 真は二人の会話がよくわからなかった。

 山ほど聞きたい事はあった。

 けれど今は聞くよりも先に、この状況を理解する事が先だった。


「もう外に出てもいいぞ」


 安全確認が終わったのだろう。

 廊下を歩き、教室に戻る。ハジメ、ヒビキ、マナブ、真の順に教室に入る。


「・・・・・・は?」


 思わず口から声が漏れてしまった。

 真の眼に映る光景は目を疑うものだったからだ。

 避難してから、そんなに時間はたっていないはずだ。

 なのに、跡形もなく元通りになっている。

 銃声で割れた窓ガラスが。

 床にはガラスの破片が散らばっていたのに。


 3人とも何事もなかったように平然と自分の席に向かっていた。


「なんで」


 口から言葉が漏れる。この世界は一体どうなっているのか。

 まだまだ、分からない事だらけだった。

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