第8話 古びた記憶
真は、ハジメの背中を追いながら、学校までの道のりを歩いていた。やっぱり、どこか知っている街並みだ。
建物の古さを感じるが、知っていると脳が訴えてきた。
目の前を歩くハジメは、揚々と歩いている。
右へ曲がり、突き当りを左に曲がる。
ちょうどその時、左にある建物に目が留まった。
不自然だった。さっきから感じていた違和感。
知っている街並み。
ここは、あの世界ではコンビニだったはずの場所だ。
よく学校が終わると、4人で立ち寄った場所だった。
けれど、今目の前にあるのは、駄菓子屋だった。
何だ、この違和感は。真は咄嗟にハジメに問いかけた。
「い・・ハジメ! ここにあったコンビニは⁉」
ハジメは足を止め振り返る。
きょっとんとしたハジメの顔が真の目に写った。
「コンビニぃー、なんだそれ? 食い物か?」
ハジメの答えに今度は真が顔を歪めた。
「コンビニだよ、コンビニ‼ お菓子とか、ジュースとか置いてある店! ほら、よく4人で寄り道しただろ⁉」
「だったら、目の前にあるだろ、ほら駄菓子屋が」
ハジメがさも当然のように答えた。
「たく、おかしな言葉使ってさ。やっぱマコト、頭強く打っておかしくなったのか?」
「あ、いや。ハハ。そうだな駄菓子屋だよな。わりぃ。やっぱ頭強く打ちすぎたのかも」
真は、そう答えるのに必死だった。
問いに対するハジメの答え。
つまりは。
与えられた情報を整理する。
コンビニだった場所が駄菓子屋になっている。
ハジメは、コンビニを知らない。いや、ハジメの頭の中にコンビニという単語は存在していないのだ。
存在していない...。
それが事実だった。
「おーい、さっさとしろー。おいてくぞー」
ハジメの声が遠くから聞こえた。
事実、ハジメは数歩先にいた。
真は、駄菓子屋を横目で見た後、追いてかれないように歩き出す。相変わらず、ハジメは揚々と鼻歌まで歌いながら歩いていた。
この道を真っすぐいき、この道を左に曲がれば学校がある。
もう頭は理解していた。
うつむいていた顔を上げると、目の前には良く知っているような校舎がそびえたっていた。
そう、良く知っているようなだ。
4人が通っている校舎は、こんなに古びていなかった。
鉄骨でまだまだ新品の校舎のはずだ。
けれど、今目の前に建っている校舎は、まるでボロボロじゃないか。色ははげて、コンクリート所々削られている。
呆然と立ち尽くす真に、ハジメが声をかけた。
「なに、ボーと校舎を見てんだよ。何か珍しい物でも見つけたのか?」
そういうハジメには、やっぱりこの建物は当たり前の風景なのだろう。何も変わらない。いつもと同じ景色。
やっぱり疲れているのだろうか。
悪い夢でも見せられているのだろうか。
きっとそうに違いない。
真は、また頬をつねる。痛みを感じる。現実だ。
「ったく、何やってんだよ。頬なんかつねって。寝坊した身でまだ夢の中にいるのかー、マコト君は」
どう答えたらいいか迷ってしまった。
頭の中で必死に答えを探した。
けれど、それに相応しい答えが出てこなかった。
いつもなら、軽々と会話できるはずなのに。
そう思っていると、「まー、さっさと行こうぜ」と一ハジメ言い、校舎の方へ歩きだした。
真はハジメが向かった先を見上げた。
目の前にそびえたつ校舎。ただの建物なのに、今は怖い。
これから、何が待ち受けているのか。恐怖を感じているのは、情報が少ない上に、自分が置かれている状況がはっきりと理解していないからだ。
そう自分に言い聞かせて、真は得体の知れない建物に入っていった。
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