第5話 古本屋

「おぉー、涼しい! 外観はあれだったけど、中はなかなかじゃん」


 いちが中を見渡していた。

 

 確かに外観さへ何とかすれば、コンビニの裏という事もあるしお客が入りそうな雰囲気だった。


 古本屋なので古本が沢山置いてあるのは勿論、ゲームやDVDも置いてあった。3人は真っ先にDVDの棚を見つけすでに品定めしている。


 置いてあるDVDはどれも見たことがある物ばかりだった。所謂人気作が展覧されていた。特に興味が惹かれる物はなくその棚から離れようとした時、一が俺を呼び止めた。


「なー、真の家ってビデオ見れたっけ?」


 ビデオか。今ではもうほとんど聞こえがない単語だった。DVDが主流になり、今ではレンタルショップの棚にはDVDがずらりと並べられている。

 Blu-rayというDVDの後継といわれる商品まで出ているので、もうビデオは必要性を感じなくなったのかもしれない。


「ビデオデッキは父さんがまだ捨ててなかったはずだから、あると思う」


 しばらく考えてから言うと一が「そうか」と頷いた。一だけでなく、一の両隣にいた響と学の声も納得する素振りを見せた。


 真は、気になって3人が目にとめていたビデオに目を向ける。

 どこにでもある、ちょっと古びたビデオ。


「この映画、見たことあるかも・・・」


 独り言のように静かに一が呟くと、響が驚いた顔をした。


「マジで!? 俺も見たことあるかも」響は一の方を見ながら言う。

「へぇー、 偶然てあるもんだな。ま、同じ映画見ててもおかしくわないわけだし」

「そうだよな」

「・・・・そうだよな」

「どーした学、そんな今にも死にそうな声だして?」


 一の心配そうな声が聞こえた。

 がくは大きく深呼吸してつぶやいた。


「俺も、この映画見たことあると思う」

 学がそう言うと、一と響は息を飲んだ。


 4人中3人がこの映画を見たことがある。

 これが、話題作ならありえる話だ。

 ヒット作は、誰でも見たいと思うのが現代の流れになっている。


 しかし、この映画は何十年前の代物。

 勿論、ヒット作ではない。これは単なる偶然なのか。

 そんな考えが3人の頭の中によぎる。


 真は3人の話を聞きながら、もう一度一の手にあるビデオに目を向けた。さっきは横目でちらっとしか見ていなくて、ビデオのタイトルを見ていなかった。


「この町からの叫び・・・」真が息をつくようにつぶやく。


「真、真はこの映画見たことあるか?」


 一が目の前にビデオを突き出す。

 ビデオを持っていた右手は、ピンと伸びていた。

 3人は真の方をじっと見つめた。


「俺は・・・」


 3人が息を飲む。

 3人の顔は、こわばっているような何とも言えない表情だった。


 真は改めて、突き出された映画を見る。

 映画のタイトルが書かれている表紙。

 表紙だけではわからなかったので、一からビデオを受け取る。


「どこにでもあるビデオだな」


 と思いながら、持っている右手を動かす。

 動かしながら、裏表紙をみた。

 そこには、映画のあらすじが書かれていた。

 内容は、こうだ。


 4人の少年が封鎖された街の外に逃げ出す物語。

 そこには・・・。

 最後の文字はうす汚れた痕のせいで読めなくなっていた。

 あらすじにしては、中途半端というかよくわからなかった。

 けれど、どこか惹かれるところがあった。


 映画の内容を読んでいた時間は、数秒か、数分たったのかわからない。その間3人は黙って、真の言葉を待っていた。


「俺は・・・」


 緊張感が漂う中、声を発した。


「俺は、見たことない。ってか、古すぎるだろこの映画」

 そうおどけたように言った。


「なんだよ、あれだけ時間かけておいて見たことないのかよー」


 一が、ホッとしたように表情を緩めた。4人中3人がこの古びた映画を見たことがある事実。偶然と言えば、偶然だ。だから、安心したかったのかもしれない。


 そう感じていたのは、響も学も同じなようだ。

 二人の顔にも安堵の色が見えた。


「単なる偶然かよー。ま、真が見たことないって事だし、せっかくだからこの映画4人で見てみようぜ。実は話の内容も、正直言ってまったく覚えてないし。何となく見て見たいっていうか、なんというか」


 一の提案に、真たちは賛成だった。

 どこか惹かれる部分がこの映画にはあった。

 なぜだか、そう思っていた。


 代表して真がビデオを手にもって、お会計に向かった。

 年老いたおじいさんが真たちの方を見ていた。

 まるで品定めされている気分だった。

 じーと、見据えられていた。


「あの、これ・・・」


 何とも言い難い雰囲気を感じた。

 早く、早く、なんだか急かされている気分だった。

 そんな真を見守っている、3人の緊張も伝わってくる。


 どれだけ時間がたったのだろう。

 数分だったか、いや数秒だったのかもしれない。

 今思えばそれだけ途方もない時間だったように思う。


「・・・金はいらん。」


 そういって、おじいさんはニヒルな笑みを浮かべ真にビデオを渡した。


 真は素早くビデオを受け取り、3人の方へ足早にむかった。

 何とも言い難い気持ちを抱えながら、真たちは古本屋を後にした。


 夏の空は、雲一つなく青空が広がっている。アスファルトは燃えるように暑い。そんな道を真たちは真っすぐ歩いた。家に着く頃には暑さにやられた分いつも以上に体力を使い、さっさ感じた感情はすでにどこかへ消えてしまっていた。

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