46話 再会 07
『マルコーズ・ボム』
禁戒の爆弾を冠する看板名を堂々と掲げるマルコの度胸もさる事ながら、彼の商売人としての手腕は大したものと言わざるを得ない。
オリバーが現在訪れている店舗はこの外街にあってさえ威容を放っている。
大通り沿いは店舗としてはしっかりとした作りの建築物は多いが、露天商の様に商品を此れでもかと外に並べ置きになっている一方でマルコの店はしっかりと壁や強化ガラス製のショウウィンドウに囲まれていた。
そして扱う勇士の装備一式はこの店だけで揃えることができると言うのは此処だけだと言う話だ。(マルコ談)
都市の中でも通用する品揃えと設備。何よりも外街に於いてこの店だけに、衛星都市内最大の恩恵と言っても過言では無い電気が通っている。
正直、そっちの方が驚きなんだよな〜。
オリバーはマルコの『特別な人脈』が時々気になっていた。
そしてその電気のおかげで今も店内は明るく見通しが良い。
店の奥へと気怠そうに歩み去っていくマルコを確認してからアンダー・スーツの陳列ハンガーに立つオリバー。
あの親父、気がついたらいつの間にか背後に立ってやがるからな心臓に悪いってーの。
ひとりごちながら以前から目を付けていたアンダースーツのシートを探し始める。
実戦型のアンダースーツとは違い、闘技型のアンダースーツはホログラフ・シートによる展示となっている。
その色彩を保つ為、日焼けなどの恐れがある直接的な展示は不可能だし、購入したとしても必要な手入れは専用のメンテナスを定期的にこなさなくてはならない。いずれにしても『金食い虫』に他ならず。マルコがオリバーに対し
全く、あの親父に賞金の話は出来ねぇな。
考えながらやっとの事でお目当のアンダースーツのホログラム・シートを見つけ出す事が出来た。
おお!まだ売れ残ってたか良し良し。
心弾ませオリバーは手にしたホログラフに対して『ヴァルキリュア』から捻出されたマキナを流す。ホログラフはオリバーの情報を受けスーツ姿のオリバーを映し出した。映像はあらゆる角度からの彼を映し出していた。
ん、なんだ?
何度も眺めたスーツ姿に違和感を感じた。
シートの上部にある品番の型を確認するが自分の勘違いではない事を確認する。
どう言う事だろうかと考えながらもシートを眺めていると、さっきまでの高揚感は寧ろシートに映し出された自分の姿に不快感を覚えている事に驚く。
堪らずシュッと画面を指で弾くとスーツ姿の自分はその方向へと凄まじい勢いで回転していく。
ふん、と一息つくとオリバーはホログラフ・シートを戻し、所在無さげに陳列ハンガーをパラパラと弾いていった。そして陳列されていたシートを一通り端っこの辺りまで弾いていったかと思うと、最後にその手でパシンと自分の頬を叩き始めた。
俺は何やってんだよ!目的に近づいた途端このざまか?
あのスーツ姿が現実なモノになってはじめて気づいた。気づいてしまった。今まで確かに存在していた決意。オリバーの心、思いにあった筈の目標に疑問を持ってしまっていることに。
と、同時に猛烈な恐れも感じ取る。
オリバーは今は亡き妹ジェリナとの約束を果たす為、あの場所で闘うと心に誓っていた。
闘いを目の前にして恐れたわけでは無い。己の誓いと決意を忘れることが恐ろしかった。
オリバーは踵を返しもう一度、あのホログラフ・シートを引き抜く。
穴が開くほどと言う言葉があるが、今のオリバーにはそれがあるいは出来てしまうのではないかと位の目力が籠っていた。
俺が為すべきこと。それを思い出せ!
他人が見ればその剣幕に恐れをなして逃げ出してしまうのではなかろうか。
そんなオリバーに物怖じせずむしろ優しげに話し掛ける人物がいた。
「
「うぉっと」
横合いから突然に声を掛けられ、思わず仰け反るオリバー。
そこには見知った笑顔があった。
「な、お前、ケリーか?」
「はい、お久し振りです。オリバーさん」
そこに現れたのは正にケリー御本人。先のハンプソン村での一件で共に戦った仲間だ。
今日は騎士団の装備では無く、ボーダーにデニム、スニーカーという服装だ。しかしその容姿相変わらず少年というよりボーイッシュな美少女。サラサラな金髪と大きなブルーの瞳が美しく輝いていた。
チェイスからは鈍感ヤローのレッテルが貼られるオリバーだが、今回に限りはそうでは無い。
これってやっぱり、偶然じゃあ無いんだろうな。
今朝のやり取りが頭に浮かぶ。
そんな彼の思いをつゆ知らず、ケリーは首をかしげるもその笑顔は絶えない。
「今日はチェイスさんはご一緒ではないんですか?」
「あ、ああ、そうだな。それより、お前もここの常連だったのか?何の買い物だ?良かったら俺が見繕ってやるぜ!」
オリバーは自身の動揺を悟らせまいと、まくし立てるように語る。
「え、ちょっと、待って下さい。実は僕は、その、そこのショーウィンドーからオリバーさんを見かけた、だけだったん・・・ですが」
ケリーはオリバーの背後のショーウィンドウを指差し固まってしまった。
「?」
オリバーは振り返ると、そこには猫耳少女がショウウィンドウに張り付いていた。
ソフィーは両手と顔面をピタッとガラス面にくっ付け二人をジッと見据えていた。
オマエタチ、ソコデ、ナニヲシテイル。
声は聞こえずとも彼女の目と口がそう言っていた。
「なぁ、ケリー、急ぎじゃあなければ、茶の一杯でもどうだ?奢らせてもらうぜ」
「あ、ありがとうございます。ぜひ、喜んで」
ホログラフを再び元の位置に戻すとオリバーはケリーの肩をポンポンと叩きながら店外に導くように歩き出す。
何事にも優先事項って言うものがあるよな!
ケリーと行動を共にするのは一波乱起きる覚悟を伴うことは理解していたが、それよりも今はこの流れに身を任せる事が出来る事に内心ホッとしていた。
☆☆ ☆☆ ☆☆☆ ☆☆ ☆☆☆ ☆☆
3人はマルコの店から西へ歩いて少しの場所にあるカフェストリート『ベレニーズ』に来ていた。
この店は大通りから少し路地に入っている為か少々薄い暗い、しかし表に不規則に並ぶテーブル席は1つしか空きがなく、それなりに賑わいのある様子だった。
三人は思い思いに空きテーブルの席に着くと
修羅場ってるって勘違いされたかなぁ
この三人には此処にたどり着く前から只ならぬ緊張感が漂っていた。
見る者が見ればそう見られても仕方がない。普段のオリバー的には全然OKなシチュエーションなのではあるが、片や妹の面影を見せる猫耳ソフィー、片や美少女に見える男なのだ。何れにしても恋愛トラブルの真ん中には立ち会いたくはない。
だがオリバーの予想は当たって欲しくない方向で当たっていた様で。
きっと修羅場よ♡修羅場♡
などと言う黄色い声が店の奥から響いていた。
彼の居心地の悪さを他所にソフィーは先手を取った。
「・・・うん、ケリー、お前は相変わらず、なのか?」
「ええ、まあ、そうですね。ソフィーさんこそ、団の契約更新を蹴ったと聞きましたが、まさかこんな場所で、またお会い出来るとは思いませんでした」
オリバーは内心、盛大に驚いた。と言うか口に何か入れていたら確実に吐き出した事だろう。
会話の流れからして、ソフィーとケリーはあの戦いより前からの知り合いで、ケリーもハーディー男爵の、騎士団の、隊員だったって事なのか?
え、ちょっと待て、ソフィーは契約更新を『蹴った』だぁ。今朝の話と随分と違うじゃないか。追い出されたんじゃないのか?
オリバーは自分の頭から煙をだしている気分になってきた。
ああ!もぅ我慢できんっ!
「あ、お姉さん、アイス一つ、ホットミルク一つ、カフェ一つ頼む」
オリバーはまたもや考えるのをヤメ、注文を可愛い
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