43話 再会 04
コホン、チェイスは咳払いを一つこぼすとソフィーに質問する。
「なぁ、ソフィー、ハーディー男爵ってのは自分の誘いを断った人間に一々こういう調査を入れるような奴なのか?」
「ん、そうだな、ハーディーには敵も多かったしな。大盤振る舞いの条件をいとも簡単に蹴ったお前達を不審に思ったとしても不思議ではないが、守銭奴のアレが大金を使って調査している点では確かに不自然ではあるな。うん」
ハーディー男爵は野心家であり守銭奴でもある。結構有名な話だが、取り敢えずソフィーには嫌われているという事は理解できた。
「ん・・・でも、お前たちの間の悪さも災いしたとも言えなくもない、かも?」
「どういう事だ?ソフィーちゃん」
ソフィーの思わせ振りな台詞にオリバーはしっかり食いつく。
語り手の彼女の立場からするとオリバーはなかなか良い聞き手になっているようだ。
ふふん、とソフィーは腕を組んで胸を反らしている。
「ん、騎士団の副官ズリエルがお前たちの隊で死んだ事だ。ズリエルは男爵の野心に欠かせない人材だったからな。その死にお前たちが関わっていると疑っているの・・・かも?」
ハーディー騎士団の副官ズリエル、
死んだ人間を悪くいうのは気がひけるが一勇士、戦士としては三流以下だった印象しか残っていない。特に指揮能力が長けていたとも思えず、副官としては場違いな人選だった印象を受けた覚えはある。
彼の死は謀殺であり、その原因は俺たちに有ると勘繰られている?
いや、その手の疑いなら現場にいた他の隊員に聴取すれば簡単に俺たちがシロだと気づく筈、いずれにしてもこの調査の決定的な理由とはならない。
「もう少し情報があれば・・・な」
視線がソフィーの胸元に注がれる。ソフィーはチェイスの視線に気がつくとその意味を悟ったのか、さも大事そうにギュッと抱きしめていた封書を持ち上げ、それで口元を隠す。
「うん、私の願いを聞いてくれるなら、いいぞ」
チェイスはソフィーの一連の話の流れの中に彼女の処世術を垣間見た気がした。
なかなか駆け引きが上手いじゃないか、と言いたいところだが、君のその一手間は全く必要なかったと断言できる、なぜなら。
「なんでも言ってくれ!ソフィーちゃん!」
オリバーは間髪入れず答えていた。
相棒の俺にアイコンタクトの一つも無しか。
寂しい気持ちもあったが話を聞くぶんには差し支えはない。むしろソフィーの願いというモノにも興味がある。
ソフィーはチェイスとオリバーを見回し、赤らめた顏を伏せながらボソっと呟く。
「ん、私を、お前たちのチームで雇ってくれない・・・か?」
「その話、のった!」
ソフィーのお願いに即答したのも当然オリバー、もう条件反射的の域に達しているのかも知れない。全て肯定という意味で、しかし後々の事を考えるならイロイロすっ飛ばすオリバーの返事は放っては置く事は出来ない、それは俺たちにとってもソフィーにとっても良くはない結果になるからだ。
「オリバーちょっと待て、いや、ソフィーの申し出はこっちとしても願ったり叶ったりなんだが・・・」
ソフィーに対してフォローを入れつつ、掌でドウドウとオリバーに先ず落ち着けのポーズをとる。
願ったり叶ったりなら、何で待ったをかける!
そう言いたげなオリバーが口を出す前にチェイスは続ける。
「俺たちは駆け出しの新人コンビだって事、忘れてないか?ある意味ソフィーは男爵の騎士団で実績を積んでいるし、それに見合った報酬を受け取っていた筈だ」
「うぐっ」
オリバーもチェイスが言いたい事を理解したようだ。
そう、返す言葉はない筈だ。
俺たちには他人を雇える余裕、つまり金が無い。
獣人の能力は高い、特に索敵能力は人のそれをはるかに凌ぐ、あらゆる名のある騎士団には欠かせない人材?として常に重用されていることを踏まえれば支払うべき報酬については考えるべくもないだろう。
ソフィーがハーディー男爵から得ていたであろう報酬の内、俺たちは一体どれだけを賄うことが出来ようか?
「ん、すまない、言い方が悪かった」
驚いた事に頭を下げたのはソフィーだった。
「その、雇ってでは無く、仲間に入れてくれないか?」
彼女のもじもじと呟く様に話すその話し方は実に可愛らしい。そして即断即決はやはりオリバー。
「もちろんオーケーだ!それなら文句ないよな!チェイス!」
「あ、ああ、でもいいのか?ソフィー」
今の俺は何とも言えない複雑な表情をしているに違いない。
ソフィー俺の視線を受け、恥ずかしそうに封書で顏を隠す。
「ん、寝る場所と、ご飯は欲しい・・・かも」
騎士団で働いて居たとも思えない様な破格の申し出にむしろチェイスの方が言葉を失った。
しかし、彼らは封書に隠されているソフィーの口元がニヤリと歪んだのは気づけなかった。
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