41話 再会 02

シャワーを浴び終え、実にさっぱりとした姿に落ち着いたソフィー、麻と思われる白のワンピースに黒のスパッツらしきものを着用、簡素だがよく似合っている。


「ソフィー、お前何処か怪我して無いか?」


マントにこびり付いていた血が気になりチェイスは朝食の準備どころでは無かった。

しかし血痕が残されていた位置にあたるであろう彼女の右腕にはそれらしき傷跡は無く、むしろ汚れが洗い流されたソフィーの肌は驚くほど美しく、上気した肌はみずみずしい。

気の回しすぎか。

ほっと息をつくチェイスだったがソフィーの表情は一変して暗く沈む。


「ん?むぅ…あれを、見てしまったのか?」


ソフィーは右手を胸に当てながら顔を伏せる。


「あれからいろいろとあったのだ、そう、いろいろな。私は男爵にリストラされて傭兵団から追い出されてしまったのだよ、止む無く昔の様にサバイバルに身を投じてはみたものの、家猫生活の長かった私にはもはや野生の力などとうに無く、森の中でウサギを追い詰めてもスルリと逃げられる始末…ああ、あのウサギ、本当におっきかったなぁ、じゅるり」


言いつつしな垂れる猫耳、そしてぎゅるるるぅ、とタイミングよくお腹が鳴り響くのはご愛嬌というものか。


「は、ははは、はぁ、た、大変だったんだなぁ」


とは言ったもののチェイス的には彼女の言い分には引っかかるモノがあった。つまり騎士団に欠かせない人材を進んで手放す輩が存在する事など考えられない。ましてやあのリアム隊長がそんな真似をするのだろうか?

少々気にはなる。とはいえ、しかし、これ以上腹ペコ娘を放っておくこともできないところ。


「すまん、今すぐ飯を準備するからこっちで待っていてくれ」


チェイスは踵を返しキッチンに立つ。


数分後。

テーブルを挟み二人して朝食を食べる。

朝食の割には結構な量を準備していたはずだった、しかし彼女の食欲は此方の予想を遥かに上回るものだった。


ソフィーはカップに入ったスープに舌鼓をうちならがらハフゥと一息つくとその瞳をキラリと輝かせる。


「うん、美味いな、味の方は正直なところ全く期待していなかったのだが、見直したぞ!チェイス」


なんとも微妙な賛辞だなぁ、とは思わないでもなかったが口にはしない。


「まぁどういたしまして」


それにしてもこの小さな体にどうすればあの量の食事を収納することができるのか?獣人恐るべしっ!

猫耳をピコピコと動かしながらスープを飲み干す仕草は実に微笑ましいソフィーだった。

ガチャリッ

突然奥のドアが開く、其処は三階部屋へと続く階段廊下が有るわけだが、そして現れたのはやはりオリバー。

ボサボサ頭、上着とズボンの間から手を入れ胸元辺りをボリボリ掻きながら現れたのはいただけない。とても年若い女の子の前では晒してはいけない仕草の一つだと言えよう。


「ぐふぉっあ」


オリバーは俺たちを寝ぼけ眼で確認するとうめき声を上げて硬直した。

オリバーの震える手は、その人差し指が、自分とソフィーを交互に刺したかと思うと。


「お、お前らそんなトコで、いっ、一体何してやがんだ?」


怒りとも悲鳴ともつかない叫びをあげて詰め寄ってくる。


「ん?オリバーもいたのか?何をやっているかって?チェイスから朝ご飯を美味しくいただいたところだ」


「が、はっ、チェ、チェイスを美味しく、いた、いただかれただとぅっっっ!お、お兄ちゃんは許しませんからね!」


「ん?・・・お前は一体何を言っているのだ?」


流石のソフィーもオリバーの言動についていけない。


「まぁ、優しく流してやってくれ、奴は寝ぼけているだけだから」


チェイスは頭掻きながら再びキッチンに立つ、オリバーには朝食よりも苦目のコーヒーが必要な様だ。

チェイスはソフィーのお腹に収まったオリバーの分の朝食代わりになるよう多めにコーヒーを淹れる。


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