39話 挑戦者 05

残り時間は後3分といったところか?

門番ゲートキーパー、ヴァルヴァロの優位は変わらない、いや、すでにその勝利は揺るがないモノと誰もが思っている事であろう。

さっきまで片膝をついていたジョシュアもしっかりと両足で立っている。


「オリバー、お前ならどうする?」


「当然・・・とりあえずこの距離を保とうか?」


冗談とも本気とも取れる顔で答えるオリバー。

何もかも情報が足りない。ジョシュア、どう動く?

チェイスも自分の問いの正しい答えは分からない。

例え優勢でも時間切れは門番ゲートキーパーの敗北を意味する、ヴァルヴァロもうかうか出来ないだろう状況だ。

破損したバトルアックスを構え、その一歩を今、踏み出す。間合いは十メートル位か?

その瞬間、ジョシュアがヴァルヴァロに向かって走り出す。


「なにぃ!」


チェイスとオリバー、二人して身を乗り出す事態が発生した。

あの距離を自分から削りに行けるのは、果たして何か作戦でもあるというのだろうか?ジョシュアはヴァルヴァロに向かって加速する。

ヴァルヴァロもジョシュアの突進に意表を突かれたのか、たたらを踏む。

ジョシュアは更に勢いを増しその眼前で。

ジョシュアは二人に、いや三人に分裂した!

実際に一瞬ではあるがそう見える程の巧みな足捌き、見事なフェイントが決まった。

対するヴァルヴァロは見るからに左手に力を込め横薙ぎの構えを取る、やはり対応が早い。


「悔しいが悪く無い」


オリバーも認めた。

ヴァルヴァロは一歩分、右足を前へ踏み出す。果たしてフェイントごとジョシュアが吹き飛ばされてしまうのか?


「?」


何が起きた?

ヴァルヴァロの視界からジョシュアの姿が消える。そしてチェイス達の視界からも。

ヴァルヴァロはバトルアックスを構えたままだ、振りかぶってドルフの様に吹き飛ばしたわけでは無い。


「あそこだ!」


オリバーが叫ぶ。

ヴァルヴァロの巨体で此方からは影になっていたのであろう。確かに其処にジョシュアが居た。

スライデングして低い姿勢になっているので余計に見え辛い。

ヴァルヴァロもジョシュアに勘付いた、しかし今度こそ彼が一手分位早い!

ジョシュアは半回転、上半身を大きく捻りを加えてヴァルヴァロの脚に一撃を与えた。

ガシンッ!!と金属と金属が激しくぶつかり合う激しい音が鳴り響く。


「決まった!」


「いや、まだだ!」


⁈っジョシュアの剣は棒状の物で阻まれていた、ヴァルヴァロのバトルアックスの柄が彼の剣を阻んでギリギリと寄せつかせない。

剣とバトルアックスの柄の接点で火花が散っては消え、散っては消えて激しさを増す。

何故バトルアックスの柄でジョシュアの剣を防げたのか?答えは明らかだった。

バトルアックスの柄が試合開始の時分よりも遥かに伸びている。


「あいつのバトルアックスは、ハルバードだったのか!」


ハルバード、単純に説明するならば槍と斧の複合武器、斬って良し、突いて良し、払って良しの三拍子が揃っている武装。


「全く・・・隙がねぇ」


残念な事にオリバーの意見を今は否定する事も出来ない。

流石のジョシュアにも焦りの表情が見えた。ヴァルヴァロはハルバードの柄で剣を打ち払い、振り向きざまに、その丸みを帯びた柄の先端でジョシュアを突く。

身体をくの字にしながら飛ばされるジョシュアだが、突かれたタイミングでジャンプしたのか、ダメージはさほど表に出さず着地する。彼もなかなかの業師。

しかし、ヴァルヴァロは追撃に手を緩めない、すかさず間合いを詰めていた。

この早さ、ジェ・ロイを打ち破った時の踏み込みだ。

ジョシュアは剣の刃に手に防御姿勢へ。ヴァルヴァロは右手から横薙ぎにハルバードを振るう。

無理だ!受け切れるわけが無い!

誰もが思った事だろう。

そして、ジョシュアは後ろへ飛んだ、さっきと同じだ、タイミングを合わせたのだろう。

しかし、さっきと違うのは剣の刃が半分に割れて空に弾けてしまったことか、ジョシュアは仰向けに倒れ完全に背中を地につけた。

ゴワァアアアアン!ゴワァアアアアン!ゴワァアアアアン!

その時点で銅鑼が鳴り響く!

門番ゲートキーパー、ヴァルヴァロの勝利だ。

ジョシュアは大の字になったままではあるが、折れた剣を軽く振り回しているところを見るに大事には至っていない様だ。

歓声に応えるように両の手でハルバードを持ち上げるヴァルヴァロ。その雄姿は新たな王者の誕生を思わせた。


「それにしても、『使えないヤツ』か、ジェ・ロイの呟きにヴァルヴァロは激怒した様に見えた。あの言葉は寧ろジョシュア掛けられた言葉のはず」


今尚勝利の余韻に浸るヴァルヴァロの表情はみえない。

あれは気のせいだったのであろうか?

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