第34話 エピローグ2

ハンプトン村での戦いからすでに数日が経っていた。

俺は城塞都市スルスターのブレイブギルドが管理している医療施設で目を覚ました。

気がつけば三日は眠り込んでいたらしく、目覚めた時は我ながら戸惑ったものだ。

何故かって?俺の頭髪が一部分真っ白になっていたからだ。

俺の前髪を指差しながらオリバー曰く。

『お前もついにお洒落に目覚めたか!』

だったが、きっと直ぐに黒髪に戻る事だろう。多分。

結局の所、俺たちはハーディーの騎士団には入隊する事はなかった。体験して分かったことが一番の理由『正直、肌が合わなかった』只それだけだ。

騎士団と言えば同じ隊で戦ったケリーはどうしたんだ?とオリバーに尋ねてみた所、城塞都市に到着した途端姿が見えなくなっていた。という事だ。

ケリーは最後まで俺の事を気遣ってくれていた様だが、まぁ、狭い世の中だ。いつかまた再会することも有るだろう。

オリバーはケリーよりソフィーにお別れを言えなかった事を今も気に病んでいる。コイツも信号弾を上げに行ったソフィーとそれっきりなのだとか。

あの娘はどうかな、それでもクールに『またなっ』て言って済ませそうだ。


そして、今現在。

東部最大の都市である我らが故郷、モエルバッハに帰ってきた。

ここには見晴らしが良く情緒溢れると評判の公園墓地がある。なだらかな道沿いに白い墓石が規則正しく延々と立ち並んでいる。その一画にチェイスとオリバーがいた。


「初陣を生き残った割に、お互い締まらない報告になっちまったなぁ」


オリバーはおどけてた風な口調で語り掛けるがその目は寂しさを隠せない。

墓標には俺の養父であり俺たちの師匠であるロラン・シンの名と、オリバーの家族の名前が記されている。その中には彼の妹ジェリナの名も。

墓石には二人が準備した美しい花束が添えられていた。


「ああ、そうだな、だが生き残ればどれだけでもやり直しはきくんだ」


チェイスは墓標に追加で彫り込まれた『strap-on boosterストラップオンブースター』養父に与えられた称号の文字を見つめながら、自分に言い聞かせる様に呟く。


「師匠の受け売りだな、でも確かに当たりだわ、俺もお前も、まだまだやる事があるし、超えなくちゃあならねぇ壁がある!」


拳を振り上げ決意を露わにするオリバー、しかし彼は佇まいを直ぐに改めて相方に向き直る。


「チェイス、正直お前には感謝してるんだぜ」


「ん?」


「師匠とお前がいなかったら、やり直すどころか俺はスタートラインに立つ事も出来なかったからな・・・それに、本当に良かったのか?師匠の『ヴァルキリュア』を俺が使っちまって」


「当たり前だ」


チェイスは即答する。


「俺にはこの『ヴァルキリュア』があるし、何より兄弟子のオリバーがそれを受け継がなくてどうすんだよ」


「兄弟子って、なぁ、あれはお前に兄貴風を吹きたかっただけだ。あんまり蒸し返さないでくれ」


珍しく恥ずかしげに頭を抱えてるオリバーにチェイスは更に追い討ちをかける。


「だけど、あの時、俺は嬉かったんだ。家族が増えた感じがしたからな」


「うぉぉぉ〜」


ニヤニヤしながら悶えるオリバーから目線を青空に向ける。


遥か彼方に浮かぶ様々な大きさの雲はなだらかに流れていた。

俺は見る事は叶わなかったが今回のロケット打ち上げ計画は無事に終わった。

実物の『strap-on boosterストラップオンブースター』はその仕事を見事に果たした訳か。

俺の義父、俺たちの師匠の生き様は『strap-on boosterストラップオンブースター』そのままだった。

この東部を全力で駆け抜け、英雄として俺たちだけじゃなく、大勢の人の心の中にその名を刻み付けて行った。

俺たちはそれぞれの場所で師匠が遺した高みを超えると誓った。

出だしはまずまずどころかロケット花火にも劣る様な有様だったのだが


「親父、これからが勝負だ」


チェイスは掌を大空に向け静かに宣言した。

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