第33話 エピローグ1
強い風が吹き荒ぶ岩壁の頂上に二人の人影があった。
長い髪を靡かせながら双眼鏡を覗き込んでいた兎人の娘は隣に立つキリエに話し掛ける。
「状況終了の様ですね、お疲れ様でした。キリエ、相変わらず貴女にはヒルドゥの祝福がついてますね。(恐ろしい程に)」
固定砲台になっていた
「ん?ふふふん、まぁねぇ〜」
彼女は自分の身長程あるコンパウンドボウを片手に自慢げにその豊かな胸を逸らす。
「でもさぁ、あたしが活躍すると、何故かおやっさんの評価が上がるんだよね〜。なんでなんだろ?」
「それは(貴女のサイクロプスってあだ名の所為なんでしょうから)仕方がないのではないでしょうか」
恭しく答える兎人の娘。身長は兎も角、彼女もキリエに負けず劣らずのプロポーションを誇っていた。
「彼は教務武官としてシャーロット姫殿下が直々に招かれた方(何と言っても元から隻眼ですからね)自ずと人の評価は其方に加算される事になるのでしょう」
「うわぁっちゃあ、何たる理不尽」
空いた手のひらを大仰に振り上げ顏を覆う。
しかしその明るい口調とは裏腹に、キリエの纏う空気が微妙に張り詰めたモノへと変わった。
キリエは指と指の間から、目の前に立つ兎人の娘を見据える。
その隙間から見える彼女の瞳の色が変化していた。
碧眼から血の様に紅く輝きだしたその瞳は異様に尽きるが、これは兎人の娘が語ったヒルドゥの祝福に他ならない。
兎人の娘はかしこまった姿勢を崩さず片目を瞑る。
「取り敢えずディアちゃん、姫殿下に連絡よろしくね〜、あっ、それと姫の『お気に』は無事だよって伝えといてね♡」
「(貴女の)お気に、ですか?」
キリエは掌で顔を隠しているがディアネットにはその向こうにあるであろう笑顔を知っている。
またサイクロプスが目を開けたか。
この御仁に目を付けられるとは災難な事だ。そして、そのとばっちりを食う私も、とても可哀想。
ディアネットはキリエに一礼をし、姿を消す。
キリエはそのままの姿勢でチェイス達がいる場所に熱い視線を移す。
「んふふふふ、チェイス君か、まさかあんな『とんでもない光景』を見せて貰える事になろうとは思わなかったよ〜」
あの
彼女はあの二人、シャーロットとトレヴィンがどんなに異を唱えようと、チェイスをこちら側に引き入れよう考えていた訳だが、少々予定を練り直さなければならない様だ。
あの子はハーディー男爵の騎士団に収まる様な器ではない。でも、あの子はウチにとっても特大の起爆剤になるだろう。それはシャロにも危険な綱渡りを強いる事に繋がる。
「後、二、三枚は欲しいわね〜、んふふふ」
そう、あの子を引き入れたとしても、オリバー君込みで即戦力が後二人は欲しいところ、なんだけど、何にしても今日はこれまでか。次はいつ会えるかな。実に楽しみだ。
岩壁の強風が彼女の髪をなびかせる。
キリエは踵を返し我が主君と仰ぐシャーロットの元に帰還する。
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