第31話 決戦6

轟く轟音と爆風、衝撃波を身に受け片膝をつき身を屈めるオリバー、正面からドシンッドシンッ、と何かとてつもない重さの物体が跳ね回りながらやって来る。ドカンッ!と真横を通り過ぎた物は蜘蛛型タイプSの壁になっていた球根型タイプDの本体だった。球根型タイプDは回転する力を弱める事なく激しいバウンドを繰り返し遥か後方へと転がり続けて行く。


「い、生きてる」


色々な意味で命拾いをした彼は一息つきながらも己の生を再確認した。

どうやら目の当たりにした光景は夢でも幻覚でもなかった様だ。

つまり蜘蛛型タイプS魔光レールガンを撃とうとしたその瞬間、一本の『光の矢』が盾役を担っていた片方の球根型タイプDごと蜘蛛の本体を刺し貫いた事だ。

ケリーの矢ではない。彼の連射技能も大したモノではあるが球根型タイプDを貫通させる程の力は無かった。そして何よりも。


「ご本人がこれじゃあ無理だよな」


球根型タイプDが勢い良く通過した反対側。自分と同じ様にへたり込んでいるケリーに目を向ける。

そこへ前方からガラガラと瓦礫の崩れる音が響く、3体の人型タイプHが岩石やら砂やらを払いのけ、立ち上がってきたのだ。機獣タイプHとはいえ彼らも爆風の影響をもろに受けていた様で、爆裂した蜘蛛型タイプSの破片などを身に受けボロボロの状態だった。

レイショウとラッセンが相手をしていたヤツらは近くに倒れ伏している2人にトドメを刺そうとフラフラと近づいて行く。

ヤバイ!だが足に力が入らない。バスターソードを地に突き刺し身体を支えながら立つオリバー。


「ケリー、行けるか?」


注意をこちらに逸らすにはケリーの協力が必要だ。

しかし、ケリーの返事を待つまでも無く。人型タイプHの胸に穴が開く。ボンッという音を響かせながら仰向けに倒れる人型タイプH、オリバーは矢の飛んできた方向へと振り返るが人影は無い。見えるは樹木の間から聳え立つ岩壁のみ。あんな威力の矢を放てるのはしっかりとした足場がなければ無理のはず、故に考えられ場所はあの頂上位なモノではあるが。

あの頂上から当てられるものなのか?いや、出来そうなヤツがたった1人いる!


「まさか、辺境伯に仕えてるって噂のサイクロプスか!」


チェイスが朝方に遭遇したと言っていたが、その神業を堪能する時が来ようとは!

呆気にとられているうちに残り2体の人型タイプHも同じ様に胸に穴を開けながら吹き飛ばされて行く。


「は、ははっ凄え!」


ミッション終了、全てが終わった!なんか手柄を横取りされた様な気もほんの少しはしないでもないが、生き残れればもうどうでも良い。


「オリバーさん!チェイスさんが、チェイスさんが大変です!」


ケリーの切羽詰まった呼び掛けにオリバーは我を取り戻す。

チェイス!大事な相棒の事を完全に失念していた。

オリバーは弛緩しそうになっていた身体に再度喝を入れチェイスを捜す。そして彼らはそこに居た。

あそこでチェイスは、彼らはまだ戦っていた。

砂塵が舞い上がる中、角付きとチェイスはせめぎ合いを続けている。


「チェイス!離れろっ!囮は、もういいんだ!」


インカムをオンにしながら叫ぶが反応がない。


「インカムは、壊れてるみたいです。さっきから、叫んでるですけど、全然、全然、反応が無いんです!」


くっ、舌打ちしオリバーはチェイスの援護に向かおうとするがケリーが彼の腕を掴む。


「近づいてはダメです!」


何故止める!と文句を言う前にケリーの剣幕に押しとどめられた。


「チェイスさんに今、近づくことは危険なんです。」


まるで自分自身に言い聞かせる様に繰り返すケリー。

コイツは人一倍仲間を思いやるタイプの人間だ。

それがチェイスに近づくな、だと?一体なんだって言うんだ!

少し離れた場所で剣を振るうチェイスを正面に見据える。


「あいつ、笑ってやがるのか?」


チェイスは笑っていた。しかし普通の笑顔では無い事は誰の目にも明らかだった。

それは狂気に基づいたモノ。

常軌を逸するモノがあった。

そして実際に普通では考えられない力に取り憑かれているとしか思えない、強靭な力を見せつけている。

角付きの触手にひるむ事なく立ち向かい。斬り伏せ、薙ぎ払い、その身には鞭打の連続攻撃を受け止めているではないか。肉を切らして骨を断つ、そんな言葉が生易しく感じる程に凄惨な攻め。

そんなチェイスの背後に剣を振りかざし近付く人型タイプHがあった。

これは間に合わない!

オリバーはそれでも援護に向かうべく、動こうとしたが出来なかった。

俺は何にビビってやがる!

今まさに、人型タイプHはチェイスにその剣を叩き付けようとしていた。

しかし、一瞬、まさに一瞬の内に人型タイプHは手にしていた剣ごと三分割以上にバラバラにされ吹き飛んでしまった。


「あ、あの前にサル型が何匹も飛びかかって行くのを見ましたが全部、全部切り刻まれてしまいました。今、チェイスさんは普通じゃあありません」


ケリーは機獣メタルビーストよりも、今はチェイスの方を恐れているのが分かる。

斬った本人は依然眼前の角付きしか見えていない様だが、オリバーでも迂闊に近付こうものなら同じ様に斬って捨てられていたかもしれない。

いや、十中八九斬られていたな。

オリバーの頬に冷たい汗が流れた。


「チェイスさんは一種のトランス状態に入ってます。しかもこれは・・・危険な方です」


ケリーは震える声で分析する。


「弓矢で何とか援護する事も出来ないのか?」


チェイスの目の前にいる角付きを排除出来ればあるいは、と考えるがケリーは頭を振る。


「僕の力ではあの球根型タイプDの殻を貫く事さえ出来ません。・・・別の意味ではあのサイクロプスでさえ、今は手は出せないと思います・・・あっちの方は力が強すぎてチェイスさんの刀を破壊してしまうかも知れませんから」


悔しそうに岩壁の方を見るケリー、だが手が出せないという点でオリバーも同様。握るバスターソードの柄に力を込めるがどうしようもない。


「チェイス!!」


オリバーの声は悲痛な程響き渡るが剣の舞は途切れる事なく続く様に見えた。


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