第30話 決戦5

オリバーは全力疾走していた。

くっそ!情けねえ。俺はまだチェイスに頼ってばっかだ

だが、焦ってばかりもいられない。生き残れれば足りない部分を補う訓練だって出来るのだ。

オリバーは前を向いて今やるべき事を見つめる。

ケリーに張り付き、矢を射る隙を与えない人型タイプHの一体を勢いに任せて切り倒す。一刀両断、続けざまにもう一体に斬り掛かるが、これはさすがに剣で受け止められた。しかし鍔迫り合いの体勢は人型タイプHの命取りとなった。

ケリーはオリバーの背後から人型タイプHの胸の心臓部コアに矢を当てたのだ。力を失った人型タイプHはあえなくオリバーに吹き飛ばされる事となった。


「オリバーさん、早くチェイスさんの所に!」


角付きに追われるチェイスを指差して、今にも駆け出そうとするがオリバーに鋭く阻まれる。


「いや、俺たちが蜘蛛をやる!」


「僕たちが・・・ですか?」


「ああっ」


オリバーは短く応え、素早く周囲を見渡す。

チェイスは角付きに何とか一人でやってくれている。フェビリ副官は二刀流の人型タイプHを振り切れない。その向こうで球根型タイプDを相手にしている二人組はレイショウとラッセンだったか?

人型タイプHの集団を突破するのは無理そうだ。

俺とケリー以外は見事に膠着状態になっている。蜘蛛型タイプSの盾になっている二体の球根型タイプDはケリーの狙撃を警戒しているのであろう、微動だにしない。

あちらが先に動く事ってことは、まずないだろうな。

だが、意外と俺たち2人で先手を取った方が有利に立ち回れるかも、だな!

頭の中で作戦を練る、この間約二、三秒。


「俺が左手から蜘蛛の前にいる一体、あの球根型タイプDを引きつける。ケリーはその隙を突いて蜘蛛型タイプS大砲レールガンを頼む」


それで素直に盾役の球根型タイプDが動いてくれるのかは正直な所賭けに近い、ならそれはそれで攻撃を仕掛けるのみだ!

少しでも揺さぶる事が出来れば矢を射る隙もちょっとは出来るだろう。

気合いを入れて蜘蛛型タイプSに突撃を仕掛けようとした。

その時。


「お、オリバーさん、待ってください!」


ケリーの切羽詰まった声。


「ケリー!どうしたってんだ!」


振り返るとケリーの表情は恐怖に強張り、見るからに全身が震えているではないか!サル型が打ち出される時にもケリーはビビってはいたが、その時の比ではない。


「う・・・うぁ、あ」


呻き声をあげるケリーに釣られオリバーは彼の視線を追う。そしてケリーの恐怖の理由は直ぐに理解できた。

というか俺が今まさにケリーと同じ表情をしているに違いない。

蜘蛛型タイプS大砲レールガンがこちらに向いていた。

ありえねぇ

オリバーは混乱した。蜘蛛型タイプS大砲レールガンは対要塞兵器として記録されている。記録されている理由があるのだ。小隊に満たない兵士達、いや、そもそも人間の軍隊を標的にして放たれた事例は一度も聞いたことがない。

しかし、現実にその凶器がこちらに向けられ、今にもその理不尽な威力の魔光レールガンが放たれようとしている。大砲の砲身レールガンには光が膨れ上がり満ち溢れていた。

そして光が、爆ぜた。

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