第29話 決戦4

「オリバー、俺はあいつの足止めをするからお前はケリーを頼む」


「え、おいっ!何言ってやが・・・くそっ!真っ向勝負、じゃあなくて気を引くだけ、なんだよな?」


「うまく逃げ回るさ!」


今、射手のケリーが集中的に狙われるのは避けたい。それはオリバーも理解している。


「暫く任せたっ!」


言うが早いかオリバーは角付きの攻撃を躱しつつ一気に離脱。ケリーの元へと後退して行く。

さて、このデカブツ相手に、ホント、どこまで持つのかな?

角付きはゆっくりと近付いて来る。なんか余裕がある様に見えてしまうのはこっちが追い詰められているからか。

刀を構え、角付きが間合いに詰め寄ってくるのを待つが、リーチは向こうが遥かに有利。先手を許す。無数の触手がこれでもか!という位に迫る。跳びのきながら何とか刀で斬りつけ、払い除ける事で受け流しを試みるが、やはり躱し切る事は出来なかった。ムチの様にしなった触手の数本が顔面に、腕に、身体を容赦なく打ち叩く。頬に血が伝うのが分かる。

単純に二倍の攻撃力ではない。角付きは通常の球根型タイプDより横幅が有るのだ。それだけ多くの触手も装備していると考えなくてはならないだろう。

間合いを修正しなくては!

このままでは囮役もままならない。逆転狙いの攻撃が出来るとすれば、皮肉な話。

こいつがサル型を打ち上げようとする瞬間だけか。

数秒の硬直時間の間に懐へ飛び込むしかない。

ヤツは従来の球根型タイプDがニードルガンを使う姿勢とは違う。

だが、次は見逃さない。

視界の隅では前衛組の動きを捉えるが依然人型タイプHとの交戦中、しかも固定砲台と化している蜘蛛型タイプSに全く近づけていない。距離にして80メートル位は切ったと思われるが、その僅かな距離が縮まらない。口火を見事に切ったフェビリでさえ二刀流の人型タイプHに押さえられている。理由は簡単、4匹のサル型に頭を取られているからだ。

サル型は風に乗り滑空を続けている。そこに居るだけでかなりのプレッシャーになる事をヤツらはは知っているのだろう。

そして、エスタバサの時の様に決定的な瞬間を狙っている、という訳か!

眼前の角付きはサル型を打ち上げるより、チェイスに攻撃を集中させる事を選んだ様だ。

こちらの狙い通りとは言え、やはり、キツイ。

チェイスも致命的な打撃を躱してはいるものの触手を捌きれない。アンダースーツを強化に回して何とか凌いでいるといった具合だ。しかもダメージは蓄積されていく。


「くっ!」


チェイスは思わず呻き声を上げてしまう。

ああ、分かってるよ!だけどな、俺はむせび泣きながら逃げる気は無いんだよ!

気持ちでは負けずとも状況は最悪、最早刀を振るうのも攻撃より防御の為となっているのが現状。

体力の消耗は激しいがアレをやるしかないか!

偵察の時、サル型に使ったあの技。

師匠には『味方も斬り刻む様なモノを技とは言わん!』と不評だったが、今はこれに頼るしかない。

それでも念の為、バックステップを繰り返し味方のいない方へと角付きを誘導する。

上手く『入れる』か?

あの時よりも余裕は無い!

チェイスは己を只の刃に見立て精神を研ぎ澄ます。



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