第27話 決戦2

巨大な蜘蛛型タイプSが其処にいた。本体は3メートルから4メートル弱、手脚を含めると全長10メートルはくだらない。

スピアヘッドとしては、その特徴の為に市民階級の人々に最も恐れられている蜘蛛型タイプS

巨大な体躯と特徴的な背中の大砲は木の葉や蔦で偽装が施されているとはいえ、その凶悪さは見るものが見ればすぐに理解できる事だろう。


「成る程ねぇ、あれじゃあ奴も仲間に頼らざるをえなかった訳だわ」


双眼鏡で確認しているフェビリが感心した様に呟く。蜘蛛型タイプSは八つ足という仇名を持っている。背中にある対要塞兵器もさる事ながら、この足はその巨体を高速移動させるだけでなく、アンダースーツで強化した者の身体を甲冑プレイトメイルごといとも容易く刺し貫く。

しかし、目の前に身体を地につけている蜘蛛型タイプSには特徴的なその足が欠けていた。辛うじて形を残している数本の足は見事にひしゃげ、異様な方向へと曲がっていた。

あのザマでは最早身動き一つ出来ないだろう。


「・・・しかし、大砲の向きは拙い。あの角度、ハンプトン村が巻き込まれてしまいますよ」


同じく双眼鏡で観察していた隊員の一人が苦々しく呟く。

果たしてあの大砲は使えるのか?多少の疑問も残るが使えるなら確かにヤバイ。

森や小高い丘をはさんでいるとはいえ、あの大砲の向こうは紛れも無くハンプトン村だ。蜘蛛型タイプSの持つ大型のレールガン、電磁誘導によって放たれる魔光にかかればひとたまりも無い位置にある。

元来耐久性の低いあの大砲レールガンは一発か二発の発射で切り離され、放棄される代物。だがその威力そのものはシャレにならない被害をもたらしてきた。

セイバ暦が始まって凡そ800年の間にもたらされた彼らの魔光レールガンによる被害は、ほんの少し数えるほどしか無いとは言え、どれもが歴史に残る惨事として語り継がれている。

こちらから蜘蛛型タイプSまでの距離は300、400メートルと言ったところか?

こちらには射手が二人いる。近づきさえすれば身動きできない分、あの大砲レールガンは格好の的になってくれるのだろうが、果たしてうまく行くかどうか。


蜘蛛型タイプSはまだこちらに気付いてはいないようです。私が近づいて狙い打ちしましょうか?」


彼の配下の女性隊員が提案する。


「エスタバサ、いや、あれはもう気付いてるな。むしろこっちの戦力を見極めてるってところか、蜘蛛の眼ってヤツはそういうもんだからなぁ」


時間には多少の余裕がある。しかし、援軍も待つのも難しい。


「ソフィー後方に下がって『蜘蛛発見』の合図をあげてくれ何にしても報告は必要だからな。エスタバサ、お前さん遠当て得意だったな。もうこっからでいいからやっちゃってくれ」


「了解」


「了解しました」


ソフィーは短く答え、エスタバサも少しだけ笑顔を見せながら敬礼する。

素早くソフィーが岩壁の方へ走り去る。それを見送ってからエスタバサが弓を構えた。ケリーの使っているコンパウンドボウと同じタイプ、しかしオプション装備のスコープはなかなか良い物を使っている。

エスタバサは弓を引き絞って行く。ギリッギリッと響く音と共に緊張感も増して行く。

ヒュッ!

矢が解き放たれた。通常の人ではあり得ない飛距離と精度は流石に『ヴァルキリュア』装着者。

いや、精度はどうしても血の滲むような鍛錬とセンスが必要。彼女も大したものだ。

軌道は寸分違わず大砲レールガンの中心を射抜くかに見えた。しかし、その時。

ガキンッ!蜘蛛型タイプSの前にあった岩塊と一緒に矢尻を跳ね飛ばして現れたのはチューリップの球根思わせる物体。

それは植物の根の様な触手をうねらせながら確実にこちらを威嚇している。そして釣られる様に次々と姿を現わす機獣メタルビースト


「参ったな、球根型タイプDが三体と人型タイプH10体以上か、最終防衛ラインだったとしても大袈裟すぎやあしませんかね」


声色は相変わらずお気楽なモノだがフェビリが蜘蛛型タイプSを見つめる眼には殺気がこもっている。彼はゆっくりと背中の大刀グレートソードの柄に手を掛ける。


「ほんじゃあ、行きますとしますか、エスタバサ、ケリーは隙を見てアレを頼む、後はまぁチームワークって事でいこうか、ラストだ!出し惜しみだけはすんじゃあねぇぞ、じゃあ行くぜ!」


「3」


「2」


「1」


「GO!」


掛け声と共に先頭でダッシュするフェビリに続く全ての隊員たち。

出し惜しみなしか、俺はどれだけ持つかな?

『ヴァルキリュア』が埋め込まれているで有ろう甲冑プレイトメイルの上に拳を当てチェイスは思う。その唇には皮肉めいた笑みがあった。


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