第26話 決戦

第三部隊が進行して来たノリッチの森の出口、さらに南下したところで岩壁の登り口らしき場所を見つけた。

登り口と言ってもではない。他の場所と比べると幾分登りやすい岩壁に他ならない。

マキナで稼働する装備を用いれば凡そ300メートルの岩壁と言えども容易に攻略できる。

しかし問題なのは、ここで奇襲を受ければひとたまりもないって事だな。

新型機獣メタルビーストのサルが気になるところ、皆が皆、岩壁の影に不審なモノが居ないか目を凝らしている。

別にそれが気になった訳ではない。むしろそれは当たり前の心理。

しかしこの時チェイスの心に何かが警鐘を鳴らした。皆とは違う方へ、自分達の周りに、足元へと注意を向ける。


「ケリー、あの道はどうなってんだ?」


更に南下するなだらかな坂道、そこに散乱する大きな岩塊に見えた。


「はい?あそこですか」


ちょっと待ってくださいと、間を置き皮袋から周辺の地図を取り出す。


「この地図、最近のじゃあないよな。」


「そうですね、こういう物はなかなか更新され難いですからね。」


地図を睨みつけたチェイスは、登頂の指示に勤しんでいた副官フェビリに全力で駆け寄った。



そして第三部隊は今、岩壁の登り口に登山用の装備を後にして更に南下する道を選んだ。

岩石と土砂が入り混じったその道はノリッチの森沿いに続いていた。


「チェイス、この進路変更はお前のせいなんだよな。」


歩きながら面倒くさそうにオリバーは言う。


「せいって、言わないでくれないか。まるで自分が責められているみたいで居心地が悪くなっちまう。」


実際、この行軍は指令書に反する行動。裏目に出ればフェビリの責任を問われる事態も十二分にあり得るだろう。彼に対しチェイスとしては感謝の言葉もない。


「・・・で、確率は如何程よ?」


オリバーは割と真剣な表情で質問してくる。文句を言いつつも信頼はされているらしい。


「闇雲に探すより、根拠のある6割位、かな?」


若干、言い訳めいた言葉を付け足すもそれでも6割は良い方に見積もっての話。

フェビリには本当に申し訳ない。


「ほぉ、ハズレたらなんか奢れよ。」


ニヤリと笑い前を向くオリバー。

南下を初めての数十分後、早くもこの判断に対する答えが示される。

部隊の前を先行していたソフィーが手を上げて発見の合図を送ってくる。

どうやら当たりのようだ。

俺はホッと胸をなで下ろすが、皆の間には驚きと張り詰めた緊張感がみなぎる。


「おいおい、チェイス何であそこに居るって分かったんだ?」


オリバー的には結果にさほど驚いた様子は無いが彼にはなぜ?という疑問は生まれた様だ。


「岩石に引きずるような傷痕を見つけたのは偶然だった。正直、思いの外古い傷にも見えたからどうかとも思ったが、それでも決め手になったのはエスとゴルドのお陰って事になるのか、な」


苦笑いのチェイス。


「うげ、あの二人のお陰って正気か?」


オリバーの表情も心底ありえねーと、言っている。


「さっきゴルドは森の穴に落っこちただけで人型タイプHに見逃された。そこもまぁ偶然だったんだろうけどな、人型タイプHスピアヘッドの命令に従って自分の防衛ラインを守ったに過ぎないんだから、でもな、要はその防衛ラインなんだよ」


「ヤツらの防衛ライン、だって?」


「そっ、俺達が倒した球根型タイプD、覚えているだろ、アイツにも本来スピアヘッドとしての能力を持っているんだ。自分専属の配下がいて、自分の防衛ラインがあっても不思議じゃあない。部隊から分断されたエスが襲われていたのは、その支配が外れた人型タイプHだったとすれば、ゴルドを襲わなかった人型タイプHは誰の支配を受けていたことになる?更に南下した場所にもう一体のスピアヘッドが居てもおかしくはないだろう」


その考えによるならば、ロケットを撃ち落とすという一つのを果たすために、二体以上のスピアヘッドが連携していたと言うことになる。

それはギルドの電子書庫アーカイブにも記されていないヤツらの習性。その読みは果たして正しいモノなのか?

疑念も残る。

だが、今、確実なのはそいつは直ぐそこに存在すると言う事だ。

ソフィーは大きな岩塊に身を隠し向こう側を指差す。

彼女の指差す先にヤツは居る。

ソフィーに倣い、岩塊に隠れその向こうを覗き見る。

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