第25話 合流3

岩壁の影に注意しながら谷を下る。

を評価するならエスの話を聞いていなければ危なかっただろう。

戦闘中、頭の上という死角から割り込んでくるサル型の存在。それは改めて厄介な敵であると再認識させられた。早期発見、早期撃退に越した事は無い。

次第にゴツゴツとした岩石を下る坂道も緩やかに平坦なものへと変わって行く。そしてソフィーの耳が何時もと違う感じにピコピコ動くのがみえた。


「ん、第三部隊、この先にいる」


どうやら敵の発見より、先に味方との合流を果たす事ができるって事か。

視界が開けた事でその姿は簡単に見て取れた。

第三部隊に配属されている兎人の少女は既にこちらに向かって両手を振りながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。兎娘の装備はソフィーと同じレザーアーマー、ハーディー騎士団斥候部隊の同僚の様だ。

ソフィーはそれを確認するなりダッシュ。向こうの兎娘も同じ様に向かって来る。

二人はハイタッチを交わすとギュッとハグ。


「女の子同士の友情は癒されるなぁ」


オリバーはシミジミと語る。


「・・・ああ、そうだな。ソフィーがあの娘の腕に噛り付いて居なければ、素直にそう思えたんだが」


さっきまで仲良くバグしてるなぁっと思った矢先

、ソフィーは今現在、兎娘の右腕に噛り付いている。

エネルギー補給用のゼリーは辛そうだったが、もしかして口直しか?口直しなのか?ソフィー?

少し焦っても見たが、兎娘はキャ〜キャ〜言いながらソフィーの背中をポンポン叩いている割にその顔は実に楽しげだ。


「女の子同士のコミュニケーションは分かんねぇなぁ」


再びオリバーはシミジミと語る。


「全く、そうだな」


彼女たちの友情を尻目に第三部隊の隊員達と合流。

彼らの周りには機獣メタルビーストの残骸が散らばっている。

件のサル型も何体か転がっていた。かなりの乱戦が行われといたと見受けられる。

先ほどソフィーが感知したのは彼らの流した血なのかも知れない。


「君達は第二部隊の隊員か?」


チェイス達が近づいたのは此方に砕けた敬礼を送って来た一人の隊員。そのアンダースーツのラインは青、つまりは副官を表している。

彼が第三隊の副官フェビリ。


「俺たちは第二部隊のオリバー以下二名と斥候部隊のソフィーです。副官のズリエルが戦死の為、レジナサン副官代理の指示を受け、隊は森付近と南に分隊、敵のスピアヘッドを探索中にあります」


オリバーが簡潔に報告する。


「まいったな、スピアヘッドを見つけるどころか、ズリエル殿がやられっちまったてぇのか!ったく、男爵殿の見栄に付き合って事務方の人間を前に出すからこうなる!」


頭に手をやり首を大きく振るフェビリ、苛立ちと落胆の色をあらわにする。しかし、そばに控える女性隊員の視線を受けた彼は、これは失敬とばかりに手をヒラヒラとなびかせる。


「へへっと、今のは無しって事でよろしくね」


と、フェビリは笑う。

一見すると砕けた感じのおっさん。自分の雇い主に対する物言いといい、ひとを食ったような雰囲気は何処となく師匠を思い出させる。


「了解です。ですが死人が出なかったとは言え、こちらも被害は甚大です」


嘆息しながらも苦笑いを浮かべる女性隊員。

彼女も状況の悪さに戸惑いを感じている。コンパウンドボウを手に持ち、周囲を見回しながら近くで身体を横たえる三人の隊員を見つめる。皆んな血だらけだ。よく見ると甲冑プレイトメイルごとアンダースーツが切り裂かれている者もいる、一人はかなりの重傷。


「そっちも悩みの種ではあるよ、でもな、正直あの兎嬢が居なかったら確実に死人が出てたよ、寧ろこれだけで済んだって、感謝しないとバチが当たるってもんだ」


「その兎さん、今にも食われそうになってるけど、いいんですかね?」


「あれは何時もの事さ、仲良いだろ?」


何時も、あんなことしてるんだな。

意外なソフィーの一面を見た気がする。

そんな中でノリッチの森からガヤガヤと賑やかな声が響いてきた。一人の隊員がフェビリに気づき此方に近づいて来た。


「行方の分からなかった隊員二名の内一人が森の中で見つかりました。どうやら人型タイプHと交戦中に穴に落ち込んだ様です」


見てみると二人に支えられたエスの相方ゴルドがヒョっこヒョッこと足を引きずりながら現れた。胸を強打したのか胸当てブレストプレイトが大きく凹んでいる。

ゴルド、あんたもか!


「賭けてもいいぜ、あのおっさん敵から全力で逃げた拍子に穴に落ち込んだって事」


其れは賭けにはならない。

小声でつぶやくオリバーにチェイスは頷いた。


「それにしてもお前、運がいいな、あんな近くに人型タイプHが居たって言うのに襲われずにすんだなんてなぁ。後はおまえさんの相方が見つかれば万々歳なんだろうが」


ゴルドをねぎらう隊員が話している行方不明の相方は紛れもなくエスの事だろう。


「ここに辿り着く前に第三部隊のエスと言う者に遭遇しました。このまま北に状況報告に向かうと言っておりましたが」


意を汲んだオリバーがエスについて報告する。意外にもオブラートに包んだ表現だ。


「なに?そうなのか。確かに作戦としては俺たちも北に向かって機獣メタルビーストを挟み撃ちにするってシナリオだったんだが」


「うん、北側にスピアヘッドはいなかった。それで第一の北の大部隊、分隊してこの岩壁の回り込み、仕掛けてる」


いつの間にかソファーと仲良し兎娘が隣に来ていた。

こちらの兎娘は黒髪ショートの髪型でリリアリスを白兎とするなら彼女は黒兎と言ったところか。

ソフィーと並ぶと背が高い彼女はお姉さんっぽく見えた。

そして、この場にいた全ての隊員が真剣な眼差しをフェビリに向ける。


「よし、皆んなよく聞きやがれ!俺たちは部隊を再編成してこの森から付近を探索する。レスティナ、君がこの地図に沿った範囲を頼む!こちらは岩壁を回る。重傷を負っている者はここに残って援軍を待ってくれ、必要なら救援要請用の信号弾を上げるんだ!いいな!」


次々と決断を下して行く副官フェビリ。ソフィーと拳を合わせた兎娘レスティナはフェビリから信号弾を受け取ると森に入って行く。


「お前さんたちもこちらの指揮下に入って貰おうか」


チェイスたちは第三部隊五名と共に探索を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る