第22話 ターゲット7

「少し此処で休憩を挟みませんか?強行軍では身体が持ちませんよ」


ケリーは荷物袋から掌サイズのゼリー飲料を一人一人に手渡していく。強烈な甘味と炭酸のシュワシュワ感が何とも言えない。

ホント、これを作ったやつの味覚を疑う。


「んぐ、ん、んー」


ソフィーも一つ受けとって飲みだすと、途端に顔が青くなって行く。炭酸か味付が苦手なのだろうか?この娘も勇士の非常食はお気に召さなかった様だ。


「おいおい、大丈夫か?無理すんじゃねぇぞ?」


早速オリバーが過保護なお兄ちゃんモードになってしまう。


「ん、だ、大丈夫、体力回復に効くって事は知ってるから」


結構つらそうだが全部飲み干すソフィー。

獣人も裏方で体力を使う。回復の為ならば苦手な物も取り入れるか。プロだな。

小さなソフィーに新ためて敬意を感じた。


さて、一息ついたオリバーが大きめ岩石に腰掛け独り言のように呟く。


「ロケットか、懐かしいな。まさかデビュー戦でロケット防衛になるなんざ、ちょっと運命を感じるぜ」


「ああ、そうだな」


チェイスはオリバーの言葉に自然な流れで同意する。


「うん?『strap-on boosterストラップオンブースター勇士ブレイブマンに与えられる最高の称号の事か?」


勇士にとってロケット打ち上げには伝説的な逸話が付いてくる。『strap-on boosterストラップオンブースター』それは文字通りロケットの補助エンジンという意味に留まらず、勇士が生涯をかけて目指す生き方に重ね合わさる様になっている。

ソフィーがロケットの打ち上げ、イコール、『strap-on boosterストラップオンブースター』に至る発想は無理からぬ事と言えるだろう。


「まぁね、師匠からはそのくだりは何度も聞かされたし、ギルドの前口上でも聞かされた。でもなぁ、死んだ後に貰える最高位の称号って言われても俺は魅力的には思えねぇよ・・・ッと、師匠の事は素直に自慢出来るし、尊敬してる!誤解すんじゃあねぇぞ!」


オリバーはチェイスに向かって力説する。


「ああ、解ってるって、この中で一番お前を理解してるのは俺なんだぞ、それを忘れるな」


オリバーには叶えなければならない願いがある。しかしもそれはお世辞にも『strap-on boosterストラップオンブースター』に根ざす生き方ではない。

でも、俺は『strap-on boosterストラップオンブースター』師匠がこの称号を与えられた事を誇りに思っているからな。お前もその辺を気遣っているのだろう。


「まぁ、それなら良いけどよ」


この話題はオリバーの申し訳なさそうな物言いで終わるかと思われたが、意外なところで突っ込みが入る。


「ん、結局の所『strap-on boosterストラップオンブースター』と、呼ばれる男はという認識でいいのだな?」


ソフィーは身を乗り出して二人に問いかける。話の続きを期待している様にも感じ取れる勢い。

なんだ?なんだ?いい食いつきっぷりだな。


「・・・えっと、そうですね、『大英雄』は兎も角、そう言う評価で間違いない、と思いますけど、に貰える称号なんですよ?」


察するにケリーも『死んだ後』にって所に引っかかりを感じているようだ。

ま、それは仕方がないか。


「ん、だがそう呼ばれるに相応しい者が居て、それを決めて与えるも居るのだろう?何が基準なのだ?」


「お、ん〜、そういや、誰が決めてんだ?やっぱりギルドか?」


オリバーはソフィーの疑問に上手く答えられないと思っている様だが、あながち間違いではない。


「養父、いや師匠の時はギルドからの通達だからな。やっぱりそれ関係の上の方にいるヤツだろう」


「だったら基準といえば、あれだな、やっぱ、あの前口上だよな・・・俺は、師匠に顔向けできねぇからチェイス頼むわ」


ちょっとテンション低めな声色の理由をチェイスは察する。


「えっとだな、『汝、守る者。汝、送り出す者。汝、人知れず散るがゆえに喝采を浴びる者。彼らに祝福を』というのが、其れなんだが、本当は個人に語られたモノじゃなくて、ロケット防衛に散った大勢の勇士に捧げられた。追悼の言葉なんだ」


「『守る者』はやっぱり、弱き者を助けですよね」


「そうだな、で『送り出す者』は華々しい戦果あげたって事で、『喝采』は他人からの評価、になるか」


「でも師匠は『送り出す者』を自分流にアレンジしやがって『俺の一番の成果は、お前達を送り出したって事になるんだろうな』ってさ」


最期にオリバーが締めくくり、一際寂しそうな顔を見せる。

しばしの沈黙、オリバーはいきなり近くの砂地にしゃがみ込んだかと思うと、突然そこに絵を描き始める。縁の無い大きなとんがり帽子とその左右対照に寄り添う小さなとんがり帽子。大きな方の上方には丸い窓らしき物があるのはお約束かも知れない。


「これ、ロケットに見えるよな」


さらにソフィーはさり気無く周囲に星マークを付け足していく。


お前ら、なんだかで仲がいいな。

心の中でツッコミを入れるチェイス。


「この補助エンジンこそ『strap-on boosterストラップオンブースター』大切な物を星の世界へと持ち上げる為、その全てを捧げ、人知れず消えていくモノたちなのさっ!」


ソフィーは得心したと言わんばかりにうんうんと頷いていた。

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