第21話 ターゲット6
リリアリスが周囲の安全を確認したようだ。文字通りピョンピョンと飛び跳ねながら此方にやって来た。その様子は実に軽やかで、優雅ささえ感じさせる。
そして最後のステップでケリーに抱きつき、頬ずり。
「わっ、わ、わ、うゎ〜⁉︎」
慌てふためくケリー、飛びつかれた衝撃で一緒に吹き飛ぶかと思いきや、そこは『ヴァルキリュア』装着者、大きくふらついてはいたが何とか踏み止まれた。
女の子同士がじゃれついている様で実に微笑ましい。
「しっかし、結構キツイ一発貰ったなチェイス。大丈夫なのか?」
オリバーが指差す先。
チェイスは右肩をグリグリと回しながら調子の良さをアピールする。
「ああ、大丈夫だ。スーツの方がいい仕事をしてくれたよ」
そんな二人を眺めていたリリアリス。
ケリーにくっ付いたままで満面の笑みで賞賛を捧げてくれる。
「スゴイね、良くやったネ!お前達、こんな足場で良くあんな動き出来るネ!」
彼女の指摘通りここの足場は最悪だ。目の前の岩壁に沿って大小様々な岩石で溢れている。
「日頃の修行の賜物さっ」
バスターソードを肩に担ぎニヤリと笑うオリバー。
「ああ、どんな場所でも戦える様にって、色んな環境で剣を『振るわされた』もんな、俺たち。あの氷結した倉庫での訓練に比べたら、実際大した事はない」
遠い過去を振り返る様に空を見上げるチェイスに何故か哀愁のこもった笑みが浮かぶ。そんな二人に微妙な笑顔を向けるケリーとリリアリスだった。
改めてガラクタに成り果てた
「針の連射が無くて助かりました」
ケリーもようやくこの勝利を実感できた様だ。安堵の声を上げる。
「ま、弾数に限りがあるからな。此奴はここぞって時にしか使ってこない。ホント、嫌な奴らだ」
見渡すと他の人型は全て動きを止めていた。その付近には倒れ伏している隊員たちも。
勝利したとは言えこちらの被害も甚大。
副官の遺体を丁重に横たえている正隊員の
「中々のチームワークだな。助かった」
「いやぁ、
オリバーと握手を交わす正隊員。
「レジナサンだ。改めて宜しく頼む」
レジナサンは後ろを振り返り嘆息する。
「さて、我々が副官を失ったのは大きい。しかし、作戦は継続しなくてはならない。リリアリス、信号弾の反応は?」
ターゲットはあくまでこの一帯を仕切っているであろう『スピア・ヘッド』の撃退にある。
目標が発見されれば信号弾を上げる手筈になっているが、他の隊からの合図はあったのであろうか?
「はい、残念ながら全く有りませんネ、でも、新たな進展は期待出来そうですネ」
リリアリスはノリッチの森を指差す。すると申し合わせたかの様な見事なタイミングで、一人の少女が森から飛び出して来た。ソフィーだ。
「ソフィーちゃん!こっちだぞぅ」
オリバーがいち早く気づき手を振る。ソフィーは軽く手を振り返し真っ直ぐに此方にやってきた。
「うん、此方でも戦闘があったようだな、無事で何よりだ」
チェイスとオリバーの前までやって来ると珍しく笑顔をみせるソフィー。しかし、リリアリスの姿を見つけると途端に何時もの無表情に変わる。いや、若干険しくなったか?
かたやリリアリスの方はというと、口元に手をやり何かに必死に耐えている様だ。
「ぷっ、く、くく、ソフィーさん、朝の、講習、お疲れ様、でしたネ、先ほどの、戦闘では、くく、全く、役に立ちませんでしたが、ん、ん、次、有りますネ、きっと役に立たせて見せます、ネ」
リリアリスはついに笑いを堪え切れず身体をくねくねさせている。
そういえばソフィーはリアム隊長にサル型の動きには特徴的な音があると語っていたが、ソフィーが兎人達へ『その音』を伝えたのだろう。しかし一体何をしたのか気になるところ。
ソフィーはいよいよ不機嫌な顔を露わして隠そうともしていない。しかも。
「うん、こんな時だ。兎一匹消えた所で誰が気するものか」
チッと、舌打ちしたかと思うと何やら物騒なことを呟いていらっしゃる。
リリアリスは依然として満面の笑みを浮かべているが二人の間には見えない火花が炸裂しているかのようだ。
「ソフィー、いい加減にしないか、連絡があるのだろう。任務を忘れるな!」
レジナサンが割って入る。苛立ちを抑え切れないのはズリエルという死者が現れたからか。彼の瞳が見つめる先をなぞる。幾人かの遺体を丁重に横たえる隊員達が見えた。此方に視線を向ける者もかなり複雑な表情をしている。リリアリスの明るさが癪に触ったのかも知れない。
「ん、ズリエルはどうした?」
ソフィーは第二部隊の指揮を任されている副官ズリエルが周囲にいない事にやっと気づいた。
「亡くなられた・・・リリアリス、あんたも慎んでくれ」
悲痛を伴う彼の言葉にリリアリスも佇まいを正す。
「申し訳ありませんでしたネ、どうやら『ウチ』の流儀は此方とは合わなかった様ですネ、勝利に生者の喜びと、後に共に戦った死者を笑顔で送り出す。勇士に誉と祝福を捧げるのですネ」
最も人の死生観はそれぞれだ、リリアリスの場合は自分の騎士団の、或いは一族か?しっかりとした理念で行動している。しかし彼女が頭を下げるのは彼女自身も『その考え』を認めているからだろう。さっきの無邪気さからは想像できない、実に大人な対応だ。
少女の容姿の中に一本の筋がしっかりと入っている。やはり獣人は見かけによらないのか?
思わずソフィーとリリアリスを見比べてしまう。
「・・・ですが、後ろからずっと見てましたが、彼の方、体格の事ではないですネ、ちょっと勇士らしからぬ、と言うか、何故あの様な方が副官などされておられたですかネ」
「・・・此方には此方の事情がある、詮索は無用に願いたいモノだな」
正式な騎士団ではない故の諸事情と言ったものもあるのだろう。こちらも余り聞きたくはない内容になりそうだ。
「ん、ではレジナサン、あなたが任を引き継がれるという事でいいか?」
ソフィーの問いにレジナサンは頷き、先を促す。
「ん、ここから北の方に
取り出した地図を指差し索敵範囲を伝えていく。
ソフィーはレジナサンに報告を済ますとチェイスの隣に立つ。
「・・・我々は索敵優先で動くとしよう。zb-1.2.3以上3名はソフィーと共に南下、第3隊に合流、状況を通達の後、第3隊のフェビリに従え、リリアリス殿、引き続き我々のバックアップをお願いする」
「はいですネ」
「「「了解」」」
zb-2か、作戦前にコードネームを臨時に割り当てられたが、此れは慣れそうにないな。
チェイスは皆と共に敬礼し岩壁を見上げる。岩壁越し空は青く美しかったがチェイスの心にはもやもやとしたモノが漂っていた。
岩壁に沿って南下する4人。
「この岩壁の上かぁ、ロケットの狙撃なら天辺は確かに大有りか?」
「うん、でも今朝までは確かに居なかった。耳がいいのと、目がいいのが確認済み」
オリバーの考えは当然誰でも思いつく事ではある。とはいえ獣人達の斥候部隊はかなり広範囲にわたって活動していたようだ。
当初、南側の戦力は保険だった筈だが、こうなってしまったからには作戦としては正解か?
一行は『狙撃』には不向きな場所、谷間の底へと向かう緩やかな坂道を下る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます