第20話 ターゲット5

襲いくる人型タイプH、手にするバトルアックスを豪快に弾き飛ばし、間隙を縫う様にバスターソードを突き刺し、敵を吹き飛ばす。

チェイスに遅れまいとオリバーはそのままで疾走する。


「アイツ、やっぱ天才だわ。でもこっちにも兄弟子の意地ってもんがあるんだよ!」


声に出せない気持ちもある。ま、人間だからな。

チェイスはまだ薄ぼんやりな将来しか見えてない様だが、こっちは違う!どうしても果たさなきゃなんねぇ約束があるからな。


あまり感情を表に出さなかった妹、ジェリナ、最後に見せてくれた笑顔の為に!


「ジェリナ、お前との約束を果たすまで、俺は絶対に死なねぇ!」


更に近付いてくる人型タイプHをオリバーは力任せに切り伏せる。


チェイスが技なら、オリバーは力か、新人とは思えない快進撃に、動揺に揺れていた者達にも活力を取り戻させる。


人型タイプHを此方に引き付けろ、あの2人をフォローするんだ!」


叫ぶ騎士団の隊員は率先してチェイスの壁になる様人型の侵攻を阻む。続く他の正隊員達もそれぞれ近くの敵に斬りつける。


チェイスはニードルガンに警戒しながら球根型タイプDの背後の方へと回り込んで行く。

ニードルガンを撃つ時、こいつは狙いを定める為に硬直する。それを見逃すな!

アーカイブのシミュレーションを思い出す。

チェイスの後ろを走っていたオリバーも球根型タイプDの正面でバスターソードを構える。

2人は仲間達の助けを借り、球根型タイプDの懐に入り込む事に成功した。

敵の足元で鱗茎の様な本体を見上げるとその高さに改めて驚かされる。纏わりつく空気もプレッシャーもシミュレーションでは体験出来なかった事だ。


「流石、ジャイアント・クラスだな。今すぐ此処から逃げたくなってきた」


オリバーは呟くが決して弱気になっているわけでは無い。彼は敵のプレッシャーには負けてはいない。

この巨大な相手を挟み込む様にして立つチェイスとオリバー。

ケリーがコンパウンドボウからの攻撃で牽制を仕掛けた。ニードルガンの向きを誘う様に動く絶妙な技を魅せてくれる。

合わせて前後にいる二人は互いに球根型タイプDの距離を詰めて触手の攻撃を誘う。

球根型タイプDは三方からの圧迫に耐え切れなかったのか、まず自分を挟み込むチェイスとオリバーに触手で攻撃にでる。ムチの様にしならせた無数の触手を叩きつけて来た。

バシュッバシュッと、空を切り裂く音が響く。

思ったより速いか!

然も多数の触手が鞭の様にしなり強烈な連撃をくりだしてくる。

見極めろ!

今度はシミュレーションでは無く、師匠の教えを反芻する。

手数は多くとも、その中で危険な一撃は限られている。

チェイスは後方へステップ、追いかけてくる触手に狙いを決めて斬り飛ばす事に成功した。しかし同時に右肩あたりに衝撃が走る。


「ぐっ」


上方の死角から打ち下ろされた触手からいいのをもらってしまった様だ。

チェイスは少しよろけるも直ぐに刀を持ち直す。

痺れるが、それだけだ!

体に喝を入れて距離を保つ。

致命的な一撃を貰ったわけではない。以後、二人は絶妙な位置を保ちながら触手を躱し、受け流し、斬り裂いた。

球根型タイプDの手数は確かに多かった。とはいえ、元々このフォーメーションはリーチの長い触手を見分け、優先的に刈り取る事が出来る型となっている。

奴がオリバーに攻撃するなら俺がその分だけ距離を詰め、此方に迫ってくる様なら後退、オリバーが追いかける。

邪魔が入らなければ、そう、実に単純な作業だがこれの繰り返しでチャンスは訪れる。


「セオリー通りだ、ケリーいけるか!」


「十分です!行きますっ!」


力強くに答えたケリーは、その言葉通り勢いよくジャンプ。球根型タイプDは触手という足を屈ませて背が低くなっている。

そして、ケリーが弓で狙うは球根型タイプDの中央にある掌サイズの紅いレンズ。

カシュッと乾いた音が聞こえるとともに球根型タイプDの動きが止まる。触手はすっかり力を失い、弛緩し、本体ごと崩れ落ちた。


「ふひゅー、一息ついたな!フォーメーションQ大成功だ!」


オリバーのネーミングセンスは兎も角、作戦通りに事が運ぶのは実に心地良い。


ノリッチの森、その茂みの間からリリアリスの歓声が聞こえた。


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