第19話 ターゲット4

リリアリスは長く白い髪を一つに結わえ尻尾の様にフリフリとさせている。白い肌と赤い瞳は白兎を連想させた。彼女は忙しなく耳を動かしながら話しかけて来る。


「大っきいのいるけどネ。あれじゃ無いネ」


ジャイアントクラスの機獣メタルビーストには、もれなくスピアヘッドの能力が兼ね備わっている。とは言え目の前に立ちはだかる球根型タイプDは目標では無い様だ。

球根型タイプDは凡そ300メートルはあろうかと言う岩壁を背にして、此方の出方を伺っている様に見えた。

確かに、アイツがターゲットのスピアヘッドならとっくの昔にあの村が襲われているからな。

しかし、だからと言って見逃す訳にはいかない。いずれにしても機獣メタルビーストは人間の敵なのだから。

現在、戦力的には五分五分に見えない事もない。

いや、こちら側から見るとよく分かる。扇状に広がる戦場。自分達の前を進んでいた後衛組も既に戦闘に参加しているでは無いか!

インカムは雑音だらけで使えない。また、こんな時の為の指令書。そのフォーメーションすら守れていなかった。

なんてグダグダな隊員達なんだ!

岩石だらけの足場の悪さでもこちらが不利、数の力で何とかしていると言う感じだ。

更に具合が悪い事に、副官のズリエルは身振り手振り何やら叫んでもいるだけで足を引っ張っている様にも感じる。因みに彼は3人の隊員にガードされていた。

それに気づいたかどうか、早くも球根型タイプDが新たな動きをみせ始めた。

シュルシュルとさほど音を立てず、交戦している副官達との距離を縮ていく球根型。

球根ボディの下部に小さな穴が開いたかと思うと、そこから一気に銃身が伸びる。

あいつ、ニードルガンを持っているぞ!


ニードルガン。機獣メタルビーストが用いる飛び道具。長さ凡そ15センチ直径1センチ前後から成る鋭い鋼の針を弾き出す対人兵器。

工房によると仕掛けはボウガンのそれに近い様ではあるが近距離射撃でそれを食らうと甲冑プレイトメイル込みでアンダースーツを貫通させる威力がある。


「副官っ!危ないっ!」


ズリエルと共に戦っていた1人の隊員が叫ぶ。

銃口は見事に此方の司令塔を狙っていた。

ガガッガガガッ!!と鳴り響く射撃の音。

3人の隊員に守られながら必死に指示を出していた副官ズリエルは、ニードルガンの銃口に全く気付けぬまま針を顔面に受け大きく仰け反る。飛び散る鮮血、恐らくはその時点で即死であっただろう。

その惨劇に迂闊にも気を取られた2人の隊員も隙を突かれ斬り伏せられる。

そして二機の人型タイプHは情け容赦なく、手に持っていた剣をズリエルに振り下ろす。

バシュッバシュシュッ

でっぷりとしたズリエルの肉体に突き刺さる機獣メタルビーストの剣の音が生々しい。

人型タイプH機獣メタルビーストは骸となったズリエルからその剣を引き抜くと次の獲物を探す。


「ズ、ズリエル様!」


騎士団の正隊員達にも動揺が走る。

このままではマズイ。

チェイスは球根型タイプDを睨み付け突撃を仕掛ける。


「此方に注意を引きつける!オリバー!球根型タイプDをやるぞ!」


右手に刀を抜き、猛然と走る。


「おうよ、ケリー、チェイスのサポート頼む!」


「はいっ!」


球根型タイプDの前に待機していた人型タイプH二機が此方の動きに気付き向かってくる。

ガシャガシャと身体を鳴らしながら迫り来る人型タイプH、此方に真正面。剣を振り上げ、勢いよく振り下して来る。

チェイスは素早く左へと身体を回転させて攻撃をかわすと、同時に返す手で人型タイプHの首を薙ぎ払う。

そして素早く逆回転、二機目に控えていた人型タイプHの突きをかわす。そして一閃。

二機の人型は一瞬にして首を失い。剣をフラフラと振り回しながら彷徨う。そこへ彼らの動力源、人型タイプHは人の心臓の位置にあるコアに、それぞれ一本づつ矢が突き刺さる。

ケリーか、連射が出来るなんてやるじゃないか!


射手は機獣メタルビーストの固い装甲を撃ち抜く為、専用の鏃をマキナでコーティングしなくてはいけない。シャフトを通してそれを実行するにはどうしても溜めの時間を要していまう。ケリーの技は明らかにマキナの制御もさる事ながら、それを活用出来る高等技術を持っている事になる。


大した練度とセンスだ。

もう背後を気にする必要は無さそうだ。

チェイスは更に全力疾走。

オリバーもチェイスをカバーする様に後方から走る。そして彼の元にも人型タイプH機獣メタルビーストが集まり始めていた。

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