第17話 ターゲット2

戦闘準備を整えた勇士ブレイブマンたちが騎馬に跨り北へ向かって前進する。

先頭を預かるのは辺境伯シャーロットと隻眼の武人トレヴィン、女貴族キリエ、リアム隊長、他27名の勇士ブレイブマンが、二番手に副官のズリエル率いる勇士ブレイブマン21名、最後の三番手にハーディー男爵配下の援軍から副官フェビリが率いる、11名が行進する。

残りの人員はハンプソン村の警備にあたっているが、その殆どは辺境伯の騎士団から編成なのはハーディー男爵の領分を気遣っての事であろう。

チェイスのチームはズリエルの部隊の後列に配されていた。


「ふっ、結局美人の貴族様とのご対面も叶わなかったな」


しみじみと呟くオリバー。最初の頃こそどうにか先頭集団にいると思われるシャーロット。そしてキリエの後ろ姿だけでも拝見したいと、あらゆる角度で覗き込んでいたのではあるが、流石に無理だと理解した様だ。

数少ない騎乗スキルをそんな風に使うな

と、本当はツッコミを入れたいチェイスだったが、彼の哀愁のこもった声に、ほんのちょっぴりだけ同情した。


「だ、大丈夫ですよ。全てを上手く終わらせられれば、お姿だけじゃ無くって、感謝の言葉も直接いただけるかもですよ!」


「そうだな、もしそんな状況になれば、握手、いや、ハグっていう展開もあり得るぞ」


ケリーの慰めにチェイスも乗っかる。

しかし、まぁ、ハグはないな。

とは思っているが。


「おお、そう言えばそうだな。うぉ〜一気にテンションが上がって来たぜ」


単純な奴だ。これでやる気が上がるなら安上がりで助かるというものだ。


後続のフェビリ隊が侵攻拠点へ進入して行く。

次はこちらのズリエル隊が第二の侵攻拠点へと別れる番だ。


第一、第二の侵攻ルートは土地の崩落ポイントを避けながらの進入故に、縦列行進のような隊列を組む事になっているが、第三のルートは入り道が他より広く、敵の本丸と思しきポイントが近い為、より攻撃力の高い布陣に調整されている。


そして、とうとう俺たちは見覚えのある景色に到着した。先頭集団はそのまま前進を続ける。彼らは一番北側、第三侵攻拠点に向かい前進を続ける事だろう。

ズリエルが停止の合図を送っている。

第二分隊は馬を降り、それぞれ必要な装備を手に取り馬を放つ。


「帰りの時も頼むぜ」


チェイスも馬の身体をポンポンと叩き皆と同じ様に見送る。


「準備はいいか!この地の平安は我らの手にかかっている。くれぐれもそれを忘れるな!先ずはスピアヘッドの探索が何よりも優先される。では指令書に則った行動を皆に期待する。行くぞ!」


ズリエルは宣言すると、自ら先頭に立ち皆の前を進み始めた。

勇ましいのは好感が持てるんだが、しかしでっぷりとしたあの体格といい、何となく現場に不慣れな感じは否めない。

チェイスはハーディー男爵の騎士団実質ナンバー2の彼に不安を感じた。しかし今は作戦の成功と生き残る事を優先すべきなのだろう。そう思う事にした。


今回は後方支援の為に前を進むケリー、状況は昨日とは随分と違う。

まずフォーメーション、ズリエル隊は前衛と後衛に分かれている。そして、前衛と後衛の間に獣人が一人、ソフィーではない、兎人だ。名は確か、リリアリス。

やはりというかなんというか、リリアリスはうさ耳をピコピコと動かし、周囲をくまなく警戒している。彼女はうさ耳が無ければケリーと同じくらいの背丈に見えた。装備はソフィーと同じく革鎧レザーアーマー、しかしデザインが違う、恐らくは辺境伯の騎士団に属する獣人なのだろう。

リアム隊長は新型機獣メタルビーストのサル型対策としてソフィーの進言を聞き入れたようだな。

しかし、偵察ではサル型に遭遇したの俺達だけだったと聞く。兎人の索敵能力は天下一らしいが、ぶっつけ本番な相手にどこまでやれるのだろうか?

お手並み拝見。

取り敢えず自分の仕事は前を歩くケリーを守る事。

普段の振る舞いとは違い、作戦行動中の彼は実に頼もしい。


「此の期に及んで、まだ俺たちってば新人扱いなんだな」


沈黙に耐えられなかったのか、不平を漏らすオリバー。インカムのチャンネルが最後尾を担当する俺たちのチーム限定にされているのは流石だ。


「あの手柄はただのラッキーパンチ、っていうのが上の判断なんだろ、つべこべ言わずに前を歩け」


「へーい」


二人の掛け合いに、くすりと笑うケリー。


「ケリー、調子はどうだ?オリバーとは同じ様にはいかないが、お前のフォローはしっかりとさせてもらうぜ」


「はい、大丈夫です。それに、チェイスさんにはの加護が有ります。信頼してますよ」


「ありがとよ」


・・・『歴戦のヴァルキリュア』か。

チェイスは成る程、と得心する。


一般的に勇士ブレイブマンはそんな名称は使わない。

『歴戦のヴァルキリュア』とは家督を継ぐ貴族、つまり騎士ナイトがその歴史の深さに対する敬意を示す使う名称だ。

貴族達は『ヴァルキリュア』を親の世代から次世代へと受け継がせる事を誇りにしている。

最も、彼ら貴族が好んで身につけるのは宝石の様な輝きを放つ希少な『ヴァルキリュア』、モノ自体が違う、古くとも子へと残す価値があるといえよう。彼ら貴族はその資力を用いて、言わば『歴戦のヴァルキリュア』に合わせた装備をオーダーメイドしているのだ。


身につけている『ヴァルキリュア』はどの様なモノかは知らないがケリーは貴族、いや元貴族なんだろう。

通りで仕草に気品があるはずだ。

元貴族で、この騎士団に仮入隊していると言うならば、ケリーは結構の苦労人なのかも知れない。

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