第16話 ターゲット

今朝方到着した援軍を合わせると、中隊規模の勇士ブレイブマン達が集まった事となる。昨今の機獣討伐戦を鑑みると多少大所帯な感は否めないが、早期解決を望む辺境伯シャーロット・セシルからもたらされた情報は事態の緊急性を伝えていた。


「・・・んで、夕暮れ時に浮島からロケットが打ち上げられる訳だ。あちらとしては其れ迄に方をつけたいって事か」


オリバーが受け取った作戦概要をチェイスとケリーに説明していた。


「ロケットか、城塞都市に居た時はそんな話、ギルドの連中だって話してなかったんだけどな。」


チェイスはロケットの噂話自体は今朝の段階で耳にしては居たが、改めて事実として聞かされると色々思うところがあるのか、なんとも言えない顔をしている。


この世界に於いてもロケットの打ち上げは、様々な機能を備える人工衛星を宇宙に届けるための重要な装置である。

それ故に周辺地域にとって特別なイベントとなり、その打ち上げ計画は基本的に大々的に公布され、それに合わせて様々な商売を営む旅商人たちが都市部に集まり賑わいをみせるのだ。民を潤す大きな経済効果を考えると今回の打ち上げは本当に特例といえる。


「ロケットねぇ、機獣メタルビーストの狙いがこれだとして、俺たちの知らない情報をヤツらはどうして知る事ができるんだ?」


「噂の域は出ないが、虫型の機獣メタルビーストの中には実物大の蝿や蚊を模したモノがいて、俺たちの日常を見張っているとか、いないとか?」


「あ、僕が聞いた事があるのは虫型は虫型でも寄生虫型で、いつの間にか僕たちの眼の中に入り込んで、知らず知らずの内に機獣メタルビーストのスパイをさせられているって話を聞いた事が有りますね。」


「がはっ、どっちの話でもぞっとする話だ。」


チェイスとケリーのほとんど都市伝説的な情報に本気で怯えるオリバー。顔を手で覆い、指の隙間から何か飛んでいないか部屋の空間を探る。


「しかも、浮島で働いている職員が眼帯をしている人が多いのは、その機獣ごと眼を取り除いた結果、ということなんですって」


ケリーは内緒話の様にオリバーの耳元で囁く。


「ぐあぁぁぁぁぁー。止めてくれぇ!」


ベッドの中に逃げ始めるオリバー。


「すみません!オリバーさん、後半は冗談です!眼帯の職員なんて居ませんから!」


流石に罪悪感が芽生えたのか、ケリーも慌てて自分の発言を訂正する。

ああ、しかし、どうだろう『サイクロプス』辺境伯の部下に眼帯の武人が居たよな。オリバーの奴、逃げ出さなきゃいいが・・・。

チェイスは余計な事は言わないでおく事にした。


チェイスたちは準備を整える。そして、その鐘は響き始めた。

小々波亭はハンプトン村のほぼ中央にある為、その宣言は非常に高らかに聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る