第15話 幕間

長老の屋敷の一室を充てがわれた三人の貴族は待機状態。


「ふーふ、ふん、ふん」


キリエは大きなソファに寝転び、鼻歌交じりに自分の所有しているタブレット端末を操作している。一方、『儀仗の戦姫』ことシャーロット、隻眼の武人トレヴィンは、二人で件の新型機獣メタルビーストの映像を確認している。

チェイス視点の映像、特にサル型が上方より襲いかかってくる前後の部分、その動画を二人は何度も見返している。


「ほほぅ、なかなかやりますな」


隻眼の武人トレヴィンが賞賛する。

当初は新型の意表をつく攻撃に唸り声を上げていたが、今ではチェイスの反応速度に驚嘆している。

そのに最初に気付いたのはキリエ。


「んふふ、こいつ、凄いね」


シャーロットはその評価がチェイスに対するものだと理解したのは、映像を三回程見直した所からだろうか。


「トレヴィン、これはあれだな、お前が時折見せてくれるに似ているな」


「報告を見る限り本人に自覚はない様ですが、ええ、そうですな。の半歩手前といった所ですかな。この段階では間合いに入るモノは全て、敵味方を問わず斬り伏せてしまう事でしょう・・・それは技とは言えませぬ」


やはりトレヴィンは厳しい。私もお前に何度ダメ出しを食らった事か!

少し恨めしそうな目で彼を見つめてもみたが、トレヴィンは何処吹く風、寧ろ暖かな微笑みを返してくる始末。

くっ、いつか必ずお前を唸らせて見せる。

シャーロットは密かな決意を新たにしつつ、そのトレヴィンに『なかなかやりますな』の一言を言わしめた者。この鋭い太刀筋の持ち主に対しても興味が湧いて来た。

半歩手前、それでも大したモノだ。リアムに並ぶ程の実力者、さぞかし名の知れた勇士ブレイブマンに違いない。


「・・・一体どんな奴なんだろうな。あの部隊にリアム以上の勇士がいた覚えは無いのだが」


シャーロットの興味は完全に新型の機獣メタルビーストから、この一人の勇士の方へと移ってしまった。


「はい、はーい、全く驚きだね、彼、シャロと一緒かちょっと上くらいかな?お名前はチェイス・シン、今回は仮入隊扱いだね、誰も知らないはずだわ」


勢い良く起き上がったキリエがタブレットの画面を二人に見せ付ける。

チェイスのプロフィール画面だ。

確かにキリエの言う通り同世代。

17才だと!本当に若い!

自分の若さを差し置いて思わず叫んでしまうところだった。しかし声には出さずともその驚きは隠せない。その様子をニヤリと眺めるトレヴィン。


「師匠がロラン・シンですか。なるほど」


「知り合いか?」


「はい、生前は貴族の称号を得られるまでの戦果を得ておきながら、最後まで一勇士として戦い、民草の間では英雄と呼ばれておりましたな『strap-on boosterストラップオンブースター』死してこの称号を与えられた者の中で、この男以上にその称号に相応しいと思える者を、私は知りませぬ」


遠い昔を懐かしむ様にトレヴィンは目を伏せる。

感慨に耽る彼を他所に、キリエは明るい声でシャーロットに詰め寄る。


「ねぇねぇ、彼、うちに引き抜かない?ぜーたいっ掘り出しモノだって!」


キリエの提案はシャーロットにとってもかなり魅力的な話に思える。しかし。


「・・・うーむ、い、いや、彼は仮入隊とはいえ、ハーディー男爵の騎士団の一員ではないか!それを横槍を挟んで引き抜くなど、騎士道に反するのでは無いか?」


「んふふふ、ヘッドハンティングとは非情なのですよー、それに『シャーロット・セシル』、貴女には成し遂げたい願いがある。それを考えれば、男爵の出世の為に捨て駒にされるであろう彼を引き抜いた所で、誰からの咎めを受けましょうや?」


逡巡するシャーロットに、キリエはあえて愛称を使わずに問い掛ける。その眼差しにはさっきまでの愛嬌は無く、戦いに赴く時の目をしていた。

トレヴィンは黙ってシャーロットを見つめている。


「では、尚更だな。確かに力を持つ者は必要だが、この者がどの様な志を持つ者か分からぬ以上近づくべきでは無い」


「で、ありますな」


トレヴィンの同意を得て「うむ」と頷くシャーロット。

チェイスか、結局ハーディーの元に転がり込む様な男であるならば其処までの者、惜しくはない、惜しくはないぞ!

内心は気がかりで仕方がないが画像に映る彼の眼差しは『強い意志』を感じさせた。

それはシャーロットから見ればハーディーの様な即物的で守銭奴に仕える者の瞳ではない。

今は私の目が節穴ではなかった事を祈ろう。


「全く、ふったりとも考え方が硬いんだなー」


シャーロットの心の内を知らず、ふて腐れるキリエ。

そして、シャーロットとトレヴィンの意見が一致した所でドアがタイミング良く叩かれる。

コン、コン。


「お待たせしました」


作戦会議室からの使いがやって来た様だ。

今、正に機獣掃討作戦が始まろうとしていた。

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