第14話 援軍

小々波亭に用意されていた部屋で、二人過ごしたチェイスとオリバー。

外で過ごすよりは幾分ましな部屋は、防音機能は全く無かったようだ。

外が妙に騒がしいな。

機獣メタルビーストの襲撃ならば悲鳴や怒号が飛びかう事だろう、しかし聞こえてくる声は何方かと言えば浮かれ騒ぎに近い。

歓声?

チェイスはベッドから起き上がり窓を開けた。すると差し込む朝日の眩しさと潮の匂いが部屋を満たして行く。


「ん、あぁ、何だもう朝か?」


オリバーが眠たそうにベッドの上で半身を起こす。


「なんだぁ、やけに騒々しいな」


「村の南口辺りに人が集まってるな。眠気覚しに見に行くが、お前はどうする?」


「あー、俺はもう少し寝る。飯食う時、起こしてくれ」


「りょーかい」


チェイスはアンダースーツの上にマントを羽織り小々波亭をでる。見渡す限り野次馬の村人とアーマー姿の隊員で溢れている。中にはチェイスと同じマント姿の隊員も多い。


勇士ブレイブマンたる者、作戦行動中は常にこの首元までスッポリと覆う、アンダースーツを身につけていなければならない。

『ヴァルキリュア』の精製したマキナはこのスーツをある時は柔軟に、ある時は強固な全身鎧としての役目を果たす。肌に密着したこのスーツ、勇士ブレイブマンにとって防御の要であり、これ無くして機獣メタルビーストの攻撃に絶える事はできないのだ。いわばアーマーはオマケの保険、勇士専用の装備品を繋ぐパーツに過ぎない。


人集りの理由は直ぐに分かった、援軍の到着だ。

恐らく、昨日から待機している分隊十六名より二倍近い人数。

いや、それ以上か?

次々と騎馬隊が中央の通りを走り抜け、村の北口付近に向かう。

しかしあくまで人集りを成しているのは長老の屋敷の方だ。チェイスはリアム隊長が待機しているであろう屋敷の方を目指す。

その人集りの中心に見えたのは三人の貴族、そしてこちら側の騎士団とは明らかに違う装備を纏う勇士ブレイブマン達だ。

貴族つまり騎士ナイトと一般の勇士ブレイブマンの違いは一目でわかる。貴族は自分の家紋と爵位を表す軍衣を身につけているからだ。

ほぅ、爵位を持つ貴族が三人もいるのか。

然も三人が三人共かなり高い地位を持っているのを見て取れた。

元来、認可された騎士団とは、設立者本人が爵位を持つ貴族であり家督を継いでいる騎士ナイト、『ヴァルキリュア』を身につけた者でなければならず、そして最低でももう一人『ヴァルキリュア』を身につけた貴族が団員として参加していなければならない。

彼らは見た通り、正真正銘、正式にに認可されている、至極真っ当な騎士団であるという事を証明している。当然、持っている権力がこちらとは段違いに違う。

三人の貴族は騎馬に跨がったままで、リアム隊長と対峙している。一番手前には白髪の武人、左目に眼帯をしている隻眼の貴族。中央に一番この場にそぐわない金髪の美しい少女が騎馬に跨がっている。意匠の施されたサークレットが朝日を受け輝きを放ち、神秘的な雰囲気を醸し出している。そして一番奥の女貴族、こちらも若い。顔立ちに少しだけ少女の様な面影を見せているが、長身で赤い髪、グラマラスなスタイルは、隣の少女の幼さを際立たせている。


「おいおい、あれって『儀仗の戦姫』様じゃないか?」


見物人状態になっていたハーディーの隊員が中央の少女を指差し呟いた。

『儀仗の戦姫』と言えば東部の辺境伯の二つ名だ。なんでこんな大物が援軍に来るんだ?というかなんなんだあの娘達は俺たちと殆ど変わらない年齢なんじゃあないのか?

チェイスは内心、驚きは隠せない。


「ハーディー男爵は此方にお出ででは無いようですね」


『儀仗の戦姫』シャーロットが透き通る様な美しい声でリアムに問いかける。


「はっ、男爵は只今別件にて手が離せず、申し訳御座いません」


あのリアム隊長が、恐らくは自分の年の半分も満たないであろう少女に恭しく頭を下げている。


「んふふ、きっと男爵は機獣を弾くより、そろばんを弾く方でお忙しいのでしょう」


「くっ、決してその様な事は!」


奥の女貴族の言葉にリアムはムキになって反論しようとするが、その前に隻眼の貴族が正す。


「よせ、キリエ、お前がとやかく言う立場では無い」


「はーい」


大凡、女貴族は気にした風ではないが取り敢えずは口を閉ざす。やれやれとため息をつき、隻眼の貴族は先頭の少女、『儀仗の戦姫』に先を促す。

それにしてもこの男、この場にいる誰よりも一流の武人としての迫力と貫禄がある。

辺境伯に仕える騎士ナイト。そしてあの隻眼、もしや『サイクロプス』、ジャイアントサイズの機獣メタルビーストを一撃で仕留めるという伝説級の射手ではなかろうか?


「こちらの件はハーディー男爵の領分である事は理解しているつもりだ。しかし敢えて我らが此処に参上した意味も貴公は理解してくれていると思う。浮島の予定に変更はない故、早々に方を付けたい、協力してくれるな」


「はっ、喜んで」


少女に対してを敬礼を持って答えるリアム。


「リアム殿、此方から来た早馬に出会ったのだが

新型の機獣メタルビーストが出たそうだな」


「動いてる画像もあるそうな。見してくれる?」


隻眼の武人と女貴族キリエは、すでに目が戦闘モードになっている。

これは心強い援軍が来たものだ。

三人は騎馬から降り長老の屋敷に入って行く。その様子を見ていた野次馬は少しづつ散り散りになっていくが。


「うん、これは手柄を横取りされてしまいかねないな。うかうか出来ないぞチェイス!」


「おわっ!」


突然、視界の外から声をかけられ飛び退くチェイス。ソフィーがいつの間にか真横にいた。ソフィーはさも不思議そうに頭を傾ける。


「ん、どうした?」


「い、いつの間にお隣にいらっしゃったのかな?」


「ん、チェイス、野次馬が『あれは儀仗の戦姫様じゃないか』って言葉に驚いていた時くらい、かな?」


結構最初の方ではないか!流石は斥候のプロというべきか。というか物騒な話、暗殺でもやっていけるのでは?


「全然気付かなかった。 」


「私が刺客なら、お前は三回死んでいた。かも」


「・・・物騒な冗談だな」


ため息まじりのチェイスのセリフに、ニヤリと笑うソフィー。

ちょっと怖い。


「しかし、出発はかなり早まりそうだな。確かにうかうかする暇はなさそうだ。ソフィーは朝食済ませたか?」


「ん、これから」


「じゃ、オリバー起こして一緒に朝食としよう」


「ん、いいだろう」


二人してオリバーを迎えに歩き出すと、散り散りになる野次馬たちの話し声が聞こえた。


「・・・噂通り、ロケットの打ち上げは有るんだな、これは大変な・・・るぞ」


『早々に方を付けたい』か、これは確かに忙しくなりそうだ。

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