第12話 前夜
ハンプソン村に帰還したチェイス一行、村に入るなり件の新型機獣のサル型を一目見ようと野次馬達に囲まれる。
口々に「一体どんなヤツだ?」だの「どんな動きをしていた?」「どうやって仕留めた?」その他もろもろ、矢継ぎ早に質問が飛び交って来た。
自分達の命に関わる事だから仕方がない、といえばそうなんだが、こちらもリアムに報告しなければならない。
「オリバー、ケリー、あとは頼む」
返事を待つ時間も惜しく、布に包まれたままのサル型を持ち運び、つい先程、屋敷の前にやっとの思いで辿り着くことが出来た。
流石に作戦本部で騒がしくする者はいないわな。
「うん、大歓迎だったな」
屋敷の玄関口にソフィーが現れた。
チェイスは、よぅっと手をあげ共に屋敷の奥へ。
ソフィーを先頭に作戦会議へと入っていく。するとリアムは長机の上座に座り書類に見入っていた。
「失礼します。斥候部隊B班、只今帰還いたしました」
リアムは二人に気がつくと「うむ!」と一声、立ち上がる。
「よく戻った!無事で何よりだが、それよりとんでもないモノを持ち帰ったそうだな!」
その視線がチェイスの抱える布に注がれる。
チェイスは頷きリアムの目の前に、その長机の上に戦利品のサル型をそっと置く。
リアムは満面の笑顔を見せ豪快に声を上げて笑い始めた。
「ハハハハハハハハハ、成る程これが話に出ていた新型か!」
「うん、これまでの
「ソフィーのアシストが無ければ危なかったよ」
ソフィーはチェイスの言葉には応じず、目の前のサル型をじっと見つめながらつづける。
「ん、上からの攻撃は、センサーでは、対応できないと思う。認めたくないけど私でもギリギリだった」
「・・・ふむ、ではお前ならどう対応する」
思案顔になったリアムはソフィーに先を促す。
彼女に対する信頼はかなり厚い様だ。
場数をこなしている分には、ソフィーは俺より大先輩なのかも知れない。それとも彼女は斥候としての能力が他の者より際立っているのか?
「ん、兎の奴らなら、ある程度捕捉できる、かも、このサル、木の上と落下する時、クセのある音をだしてたから」
「斥候部隊から彼らを割くのは痛いな。だが、其れもやむなしか、チェイス、君は奴らと対峙して何か気づいた事はないか?」
「そうですね、あえて
「ふむ、成る程、成る程な」
リアムは長机に置かれた小さな袋を手に取りチェイスに差し出す。
「よくやってくれた、いずれにしても大した戦果だ。特にコイツの情報は貴重だ。至急、工房に送り届けよう。そして、これは今回の働きに対する特別報酬だ。受け取れ」
「はっ、ありがとうございます」
チェイスは袋を受け取るとソフィーの横に並ぶ。手にした小さな袋はその大きさの割にズッシリとした重みを感じさせていた。
中身は金貨か?まさか本当に特別報酬が貰えるとは!オリバー辺りは大喜びだな。
「明日の朝方には援軍がつく手筈になっている。編成が完了次第戦闘だ。それまでゆっくりと休め。・・・それと、この村の中央寄りにある酒場を取っておいた。皆で一時を楽しむと良いだろう。では行け」
俺はソフィーと共に屋敷を出る。
特別報酬よりチェイスとしてはリアム隊長の期待に応えることが出来たって事が実は大きかった。
体格はリアムの方が圧倒的だが人間性としては師匠とよく似ていたからだ。
まるで師匠に認められた感じがする。
彼の足取りは軽かった。
リアム隊長が陣取る長老の屋敷から通り沿いに歩いて少しの場所に小々波亭があった。
「カンパーイッ」
オリバーが一同を代表して歓声を上げる。酒を嗜むでもなく彼のテンションはかなり高め。
ミネラルウォーターでよくもそこまではしゃげられるのか不思議でならないが、何はともあれ一仕事終えられた後は気分が良い。
早速テーブルの上に肉をはじめとする様々な料理が並べられて行く。
「ウッヒョー、こいつはスゲーぜ、これでアルコールの一つでもありゃあなぁ」
「それは仕方が無い、酒の殆どは正規の隊員に流れているからな、やはりその辺は優遇されている」
「私はどの道こっちだからどうでも良い」
ソフィーはマイペースでホットミルクをチビチビと舐めている。
「でも本当にこの料理、美味しいですよ」
幸せそうに野菜炒めを食すケリー。
お前はもっと肉を食べたほうが良い、と内心思いつつ。
「じゃあ、これはリアム隊長からの特別報酬だ。受け取ってくれ」
全員に小袋に分けた金貨を手渡していく。
「えっ、こんなに戴くわけにはいきませんよ。自分は何もしていないのに」
「私は有難く戴こう」
ソフィーはしっかりと懐にしまうが、ケリーは均等に分けられた金貨に吃驚している。
「いや、これは正当な受け分だと思ってくれ、チームってやつはそれぞれの立ち位置はあるが、皆が一つじゃないとやって行けるもんじゃないからな。報酬の受け分だけ違いがあるっていうのはおかしいだろ」
「そーいうこったな。それに今回、何にもしなかったって言ったらよ、俺も何にもしなかったぜっ。だが俺は受け取る。次、頑張れば良いしな」
ウインクしながらしっかりと小袋を手に取るオリバー。
「じゃあ、有難く頂きます。チェイスさん、ありがとう」
大袈裟に感謝するケリー。
「えーとなんだ、ケリーの状況さえ良ければ、なんだが、この仕事にけりがついた後、俺たちのチームに加わらないか?」
ケリーのアンダースーツのラインカラーもイエロー、俺たちと同じ仮隊員。
コイツの腕前はまだ確認しているわけでは無いが、背中を預けて安心できるヤツはなかなかいない。
「えっ?」
ケリーはチェイスの申し出に対して、またしても驚きの顔を隠せない。
「俺たちも新人だし、今回の様に割の良い仕事に出くわせる事もそうそう無いかもだが、仲間内でせこいやり取りしなくて良い分、気は楽になるとおもうんだが、どうだろう?オリバーは賛成だろ?」
「勿論、大歓迎だぜぃ」
即答するオリバー。
まぁこいつは反対する事ないと思っていたのだが。
「ん、何故、私は誘って貰えないのだ?」
ケリーが返答する前にソフィーが問うてきた。
「!」「!」「!」
ケリーも含んだ三人が驚きで硬直した。ケリーはさっきの時より驚いている。
猫人族は斥候に有用な存在として重宝され、騎士団は彼らを好待遇で迎え入れているわけだが、わざわざ新人の、先行きの知れない者に自らをアピールする事など考えられない。
まして、ソフィーはしっかり者の様だし、またそういう冗談を言うタイプには思えない。
「何故、誘わない?」
二度目の問いは不機嫌丸出し。
「お、俺は勿論、声を掛けるつもりでいたぜ。勿論、ウェールカム。」
オリバーは両手を大きく広げ、コッチにお出でアピールをぶちかます。
「・・・考えておこう」
オリバーはガックリとうな垂れてしまった。流石はソフィーといったところか。
「ま、まぁ、この話は後でゆっくり考えてみてくれ。今はこの食事を楽しむとしよう」
小々波亭の夜はふけていく。
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