第9話 偵察5
深い茂みの中へと細い獣道がのびている。
途中、茂みの色が周りと明らかに違う場所がある。
赤黒いシミ、腐臭は恐らく、あそこか。
チェイスは刀を握り締め獣道にそって茂みを切り開いていく。
ファサッ、ファサッと刃に触れた瞬間、雑草が崩れ落ちて行く。
見つけた。
「・・・こいつは、酷いな」
チェイスは呟く。
遺体が無残に散乱していた。
内蔵が食い散らかされ四肢の残骸には噛み跡が残されていた。
弱肉強食って世界はどこもでも厳しいモノだが、これはやっぱりキツイものがあるな。
そしてこっちは
周囲に飛び散った鮮血の跡は近くの大木の上方にまで及んでいた。よく見るとその痕跡は不自然なほどに鋭角的な線を造り出していた。
実に凄惨な光景。
「ん、チェイス」
インカムからソフィーが警告を促す。
「ああ、分かってる。目の前にいるよ。いや、正確には木の上か」
距離にして15メートル先辺りか?薄暗い枝の間から4つの緑の光。
「くっそ、今日は何て日だ!」
「どした?チェイス」
インカムから響いたチェイスの声色は怒気や歓喜にも取れる物だった。オリバーでなくとも誰もが違和感を覚えた事だろう。
「今、画像を送ってやるよ、オリバー、こいつを検索にかけてみてくれないか?少なくとも俺は、アレを知らない」
カテゴリ分けされ、その個体に対する有効な対処法と共に、
この手の情報は命に関わること。チェイスは足繁くギルドの閲覧室に通い。現れる頻度の高いとされる
俺の予習を台無しにしやがって!
内心、焦りと憤りに満たされるが、実際、目の前に存在する限りは彼らの特性を理解しておく必要がある。
今回、騎士団から貸与されている
チェイスは自身が使える数少ない装備、撮影用カメラを起動させる。
ピッピッと、ヘルメットを操作し、ゴーグル内に情報を反映させる。瞬時に現れた画像に息を飲むケリーとオリバー。
「
オリバーのつぶやきの通りそこには枝の上で寄り添う様に存在する四匹のサルらしき機獣がいた。凡そ体長80センチ、位か?体長の割に腕が長く、足が比較的短い。
姿形は確かにサル、しかし頭の大半を占める単眼はひたすら不気味。
ピッ。『ノー・データ』
オリバーのゴーグルには検索結果、ゼロの表示。
「・・・
思った通りか、しかし、これで益々退くことは出来なくなっちまった。
全く。
疑問は尽きない。だがここを切り抜けなければ答えを得るだけでなく、生き続けることもままならない。仲間を守る事も。
集団戦において、正体不明の敵程厄介なものはない。
前向きに考えてみれば、この場でコイツと出会えたことは、寧ろラッキーと考えなくてはいけない。
威力偵察ならば、その役目を果たすのは当然のこと。
「僕が、狙いましょうか?」
コンパウンドボウを構えるケリーの気配。
「・・・いや、まずは俺が近づいてみよう。奴がどんな動きをするのか見ておきたい。ソフィー、ケリー、よく見ておけよ」
「チェイス、報告義務はお前にあるんだから下手を打つんじゃないぜ」
「りょーかい」
陽気に話し掛けるオリバーに、同じ様に応じるチェイス。
久し振りにアレをやってみるか。
彼は身体をサル型に対し横に向け。刀の刃を上向きにして睨みつけた。
チェイスはひたすらに精神を研ぎ澄ます。
瞳はじっと機獣に向けられているがその実彼らを見ているわけではない。
周囲の空気、風の流れを感じ取る。
獣や鳥の声さえ身体に染み込む様な不思議な感覚。
チェイスは身体にあった少しの緊張感さえ拭い去り、息を吸い込むとゆっくりと敵の前に歩き出す。一歩前進。二歩目、三歩。
四機のサルは動かない。
ザーッザッ・・ザッ。微かに風が吹いたか周りに木の葉の擦れる音が響く。
「チェイス!」
ソフィーが叫ぶ。
ガシュッ!!
一瞬の出来事だった。
オリバーは銀光を放つ一条の槍が、チェイスを刺し貫いた様に見えた。
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