第8話 偵察4

何はともあれ、暗くなる前には目的地に到着したい。

チェイスは先頭に立ち前進する。

少し離れてソフィーがつづく、彼女はマントを上に羽織り、革鎧レザーアーマーという敏捷性第一の装備をしていた。実に斥候向きな装いだ。

獣人、中規模から大規模戦を想定している騎士団にとって欠かせない存在。

騎士団でよく用いられている獣人といえば、追跡に特化した犬人、索敵には兎人、確か猫人は狩人目線でモノを見るエキスパートだったか。

この任務の要はやはり彼女の目だ。しっかりと見ていてもらわねばならない。


猫人ソフィーはチェイスの期待通りに、いやその思惑以上にその目を鋭く光らせていた。

うん、悪くないエサだ。この騎士団に仮とはいえ入団してくる人間には期待できないと思っていたのだけれど。

猫耳をピコピコと動かし、森の狩人の如く周りを警戒し、獲物を品定めする野獣の如く、チェイスに視線を送るソフィーに死角はない。

獣道をたどって日の沈む方へ。

太陽はまだそこにある。しかし、森の中はやはり薄暗く、枝と枝の隙間から光が差し込んでいても影の部分が圧倒的に多い。その鬱蒼とした木陰から、いつ機獣が襲って来るとも限ら無い。否応なしに緊張感が高まる。

目的地に近づくにつれ、周囲の至る所に、目線の高さに合わせてくくりつけられた布切れがある事に気付いた。ご丁寧に赤、青色等の色分けがされている。

チェイスの思いを察知したのだろうか?ケリーが疑問に答えてくれた。


「あれは崩落注意の旗ですね」


インカムからの声は意外と明瞭で、ケリーがすぐ後ろにいるかの様だ。


「この地域一帯は特殊な岩石地帯なんですが崩落の危険がある場所は結構多くて、ああして警告してるんです。でも天然の罠にも利用出来るって事で、地元の狩人達の大事な狩場にもなっている様ですよ」


「ほう、なかなか下調べがしっかりしてるな、ケリーやるじゃんか」


「ど、どうもです」


オリバーが感心した様に褒める。

なるほど、こういう事も込みで後方支援ね、確かにやるな。案外、リアム隊長はケリーのこの能力をかって斥候に寄越しているのかも知れない。

全く頼もしい限りだ。

チェイスは周りに注意を向け、空を見上げる。生茂る木の葉のせいだけではない。明らかに夕暮れ時が近づいている。

闇夜の中をこの崩落ポイントを避けながら帰還するのは避けたい所だが。


「ソフィー、目標地点まで、後どの位になる」


警戒を怠らずインカムから質問する。


「ん、もう目と鼻の先。というかニオイがしてかた。たぶん、襲われた人」


獣人の嗅覚には恐れ入る。


「じゃあ、こいつの出番だな」


チェイスは荷車から持ち出した武器を構える。


「一体何を持ってきたんだ」


「サムライ・ソード、いわゆる刀ってヤツさ、荷を詰め込んでいる時に見かけて、気にはなっていたんだが、うん、これは良いモノだ」


鞘から刀を少し抜き、そして戻す。カチンと乾いた音が響く。その余韻を楽しんだ後、改めて、鞘からすべての刃を晒し、一振り。


「お前、結構危ないヤツだったんだな。・・・てか、なんだよ、それ、時間を掛けてまで探す価値のあるモンだったのかよ?」


呆れたようなオリバーの声。

鞘から抜かれた刃は夕闇の中でも微かな光を反射する。


「危ないヤツとは失敬なっ!『ヴァルキリュア』専用に打たれた刀は耐久性が折り紙つきなんだ、そして敵を素早く斬りふせるうえで、最も有効な武具でもある。むしろいい選択だろ?」


チェイスは語りながらも周囲に気を配る。

これは、もっと奥に進むべきだな。


「ソフィー、巻き添えにならない様、間隔を開けて付いて来てくれ。ケリーは引き続き周囲を警戒しつつ、此方のサポートを頼む。オリバー、大変だがケリーだけじゃなく、念のため何時でもソフィーのフォローにいける様、位置を調整してくれ!」


「了解」「はいっ」「ん」


意を決したチェイスに従うメンバーは、それぞれに返事を返す。

ケリーには悪いが、情報を的確に伝える事が出来る、ソフィーの安全確保が優先だ。

チェイスが持つ刃に『ヴァルキリュア』から精製されたマキナが浸透して行く。

ソフィーは思う。

綺麗な光だ。それに・・・巻き添えにならない様にか、この台詞は初めて聞いた。

人にも獣人にも『元来、見えるはずの無い』マキナの流れと光をソフィーは見ていた。


腐臭。そして今、チェイスにもその空気の変化に気付き始めた。

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