第7話 偵察3

太陽が傾き加減になった時、前方に手を振る人影をやっと見つけた。先行したソフィーだ。


「うん、意外と速かった」


表情を崩さない猫耳少女。

改めて彼女と対面するとオリバーの挙動が納得できるというモノ。

やはりこの娘はジェリナによく似ている。


「ソフィーちゃん、俺が君を待たせるわけ無いだろう。ああ、君の為に疾風の如く参上いたしました」


オリバーは騎馬から素早く降りるなり、ソフィーの前で跪き、その手を取る。

オリバーのナンパヴァージョン、久々に見たな。成功率は言わぬが花ってやつだが、ってそれを今ここでするのか?

案の定、ソフィーは口元を引きつらせ固まっている。そんな一コマを懐かしく感じさせているのはやはり彼女がジェリナに良く似ているからなんだろう。

そういえばあの時はあんなやり取りは日常茶飯事だったな。

しかし今は時間が無い、気持ちはわかるが感傷は後回しだ。

チェイスは先を促す。


「んっん、オリバー、さっさと支度しろ、疾風の如く到着ところで、此処で手間取っていたら遅刻と同じだ」


「へいへーい、じゃっソフィーちゃん。早くこのミッション終わらせて、一緒にお茶しようぜ。支給品のコーヒーを上手い具合にミルクカフェにする裏ワザ教えてあげるよん」


言いつつ、なおもソフィーに付きっ切りのオリバーにチェイスはため息を漏らす。

一方、ケリーはテキパキと準備を進めている。実に手際がいい。

それに何というか、なよなよして居る割に妙に存在感があるヤツだな。

ケリーの手にしているのはコンパウンドボウ。ライザーとリム、弦にはアンダースーツと同じ繊維が合成されていてマキナの循環を効率化させている。マキナでコーティングされた矢は機獣メタルビーストの体を刺し貫く事が可能と言われているが、そんな力技はケリーには似合わない。チームによって射手はサポート的な役割を一手に担う場合もあるというが、あるいはそっち方面にたけているのだろうか?


「なぁケリー、お前の得意は後方支援全般って考えて良いのかな?」


「あ、はいっ、そう捉えて頂けると助かります」


支度を万事整い終えたケリーが答える。

ケリーはコンパウンドボウをしっかり握り締め、さっきとは違い強い眼差しを真っ直ぐに向けてきた。まるで別人。

切り替えの良さ、全くもってケリーの気丈さには驚かされる。そこはオリバーにも見習って欲しいものだ。


「すまなかったな、ケリー、よろしく頼む」


「?、はい、こちら、こそ」


チェイスがケリーに謝ったのは、始めは彼を軽んじていたからだ。当の本人はそれを知るよしも無く、キョトンとしているが。

さあて、お次はあれか、しかし、これはかなり手強そうだ。

見てみると、未だオリバーはソフィーに噛り付いたままだ。放って置くならばまだまだ離れそうに無い。

少しやり方を変えよう。


「ソフィー、ちょっといいか」


「んん?おお、ちょっと待て!」


ソフィーは助け舟が来たとばかりに此方に走り寄ってくる。

オリバーが動かないならソフィーを動かせばいい。

単純な話だがチェイスの思惑はうまくいった。

其れにしてもソフィーのヤツ、いい笑顔でこっちに来るな。そんなに苦痛だったのだろうか?それならもっと早くに助けてやれば良かった。

一方のオリバーは邪魔しやがってオーラをこっちに向けて隠そうともしない。

まぁこっちはスルーでいいな。


チェイスは改めてリアムから受け取っていた地図を広げ確認作業に入る。


「村の狩人三人が機獣メタルビーストらしきモノに襲われたのがこの地点、俺たちは此処から其処に向かうわけだが、俺が前、次にソフィー、ケリー、オリバーで行こう」


「オイオイちょっと待てって!トップは俺の役目だろうがっ」


さっきまでのゆるゆる顔から打って変わり、真面目な面持ちでオリバーが食ってかかってきた。

あまりの勢いにケリーとソフィーが目を丸くしている。

二人に誤解させてはいけないな。オリバーががなるのは、むしろ俺を気遣っての事だ。理由もわかっている。


「落ち着けオリバー、俺は証明しなけりゃいけないんだよ」


チェイスは自分の胸を、其処にある『ヴァルキリュア』を指す。


「正直、此処までダメだとは思わなかったんだが、使えるのは撮影用のカメラとインカムのみ、ヴァイタルチェックやセンサー系はもう致命的だな。メニュー画面すらでやしない」


胸のあたりを差した指先をヘルムのゴーグル部分に移し、トントンと叩きながら語るチェイス。

どうしようもなく古い『ヴァルキリュア』を身につけている以上、最新の装備に追いつけない事は覚悟はしていた。

だが、だからこそ今は引く事はできない!それでも戦えると、これからも証明しなくてはいけないのだから。


「だから、俺の能力じゃあ後衛だとケリーのフォローは難しい、俺の方がエサ役に相応しいのさ」


案の定、ケリーの顔には少しの陰りが見て取れた。

別に自虐的に言ったつもりは無かったのだが、やはりというか、お前は心配そうな顔をするんだな。それも彼なりの優しい気遣いなのだろうが、ここは押し通させてもらう!


「お前は英雄の弟子を信じろ!俺はお前らを信じているからな!」


ニヤリと笑いながらケリーの肩をパシンと叩く。勢いで彼のヘルムがズレるが、それでも力は程よく抜けてくれた様だ。


「はい、了解しました」


その言葉通り、彼の瞳には再び力が宿っている。

うん、悪くない。


「しゃあねぇな!其処まで言うんなら今回は任せたぜ、でも、ヘマしたら許さなねえからな」


オリバーにも気合いが入ったのか森の奥に睨みを利かせている。

さぁ突入だ!

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