第6話 偵察2

騎馬に跨り疾駆する三人。ハンプソン村を出て海に面する崖道を北へ向かう。太陽はまだ高い。

インカムを通してオリバーは二人に問いかける。


「なぁ、今更なんだが、なんで俺たちなんだ?まぁ、ソフィーちゃんは分かるよ。猫人の目は、暗闇の中でも昼間と同じっていうからなぁ。でもよう、俺たち新人なんだぜ、ベテランさん達を差し置いてなんで俺たちなんだ?」


「俺達はリアム分隊長に試されてるのさ」


チェイスは簡潔に答える。


「え、えっ、どういうことでしょう?」


オリバーでは無くケリーが興味深げ食いついて来た。


「分隊長にここに行けって、地図を見せられただろ。その机の隅っこに、表面がテカテカ光ってた小さな書き板みたいなのがあったの、気付いたか?」


「うーん、あったような、無かったような」


「はいっ確かにありました!」


断言するケリー。

あの作戦会議室に俺たちより長く居た分、記憶が鮮明だった。という事にしてやるべきだろうか?

チェイスはオリバーの観察眼の少なさに少々不安を覚えつつ続ける。


「ブレイヴ・ギルドに来ていた貴族のおっさんが同じ物をいじっているのを見た事があるんだが、養父オヤジに聞いたらアレな、貴族が持たされる記録帳っていうのかな。まぁ、そんなモンらしい。」


「記録帳?」


「あの薄い板っきれの中には東方全土に存在するブレイヴ・ギルドのメンバー全員の記録が入っているって、親父が言っていたぞ」


「マジかよ!」


「あっそれ、僕も噂で聞いた事があります。あれが、そうだったんですか?ギルドの窓口のお姉さんが使っているのと、同じ機械って言いますけど、あんなに小さい物だったんですか?」


勇士ブレイブマンならば必ずお世話になるギルドの窓口を預かる女性達。彼女らは大きなモニターの前で何時もキーボードを叩いている。そして今、その様子をオリバーは思い起こしている様だ。ん〜、ん、と唸っている。


「え〜、あれと同じだとぉ。まぁ、そうだとして、なんでそれで俺たちが、試される事になるんだよ」


「ブレイヴ・ギルドに登録した時、誰に師事してもらったとか、師匠についての項目あったろ、俺はロラン・シンって書いた。お前もそうなんじゃないか?」


オリバーもやっと得心が行った様に頷く。


「おお、俺たちはロラン・シン『strap-on boosterストラップ・オン・ブースター』の称号をモノにした英雄の弟子じゃねぇか!確かにそんな奴が居るなら試して見たいって思うかもな」


ケリーは聞いて、その称号に思いを向ける。

strap-on boosterストラップ・オン・ブースター』か、騎士には騎士道がある様に、勇士ブレイブマンにはその道を歩む前に目指すべき目標を教えられるって聞いたけど、確かそれが『strap-on boosterストラップ・オン・ブースター』という称号だった気がする。直接的にはロケットの補助エンジンの事を指していた筈だけど、勇士ブレイブマン達はあれにどんな意味を重ねているのだろう』

ケリーは思い出そうとしたがそれは叶わなかった。


「ケリーはどうなんだ?そういう感じで試される覚えは無いのか?」


「え、えっと、特には」


ケリーはチェイスに不意を突かれ、尻すぼみに答えるのがやっとだった。


「ま、自分で試されているって大袈裟に言っといて何だが、俺たち勇士は依頼を颯爽とこなし、さっさと帰るの繰り返しで成果を出してくもんだろ、今回もその手で行こう」


チェイスはケリーの態度を特に気にするでもなく明るく声を上げる。そしてオリバーもそれに続く。


「そういうこったな。俺としちゃあ隊長の評価より、特別料金が加算されれば、今回のミッションは上出来だってなぁ」


「ふふ確かにそうですね」


ケリーは内心ホッとしながら元気に応じる。

三人は声を上げ笑い合う。三人にささやかな友情が芽生えた。

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